Text by 廣田一馬
Text by 上村窓
Text by 下竹絢子
『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』が8月9日から公開される。
『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ第31作目となる同作では、現代に復活した恐竜がカスカベや東京で大暴れ。シロとカスカベ防衛隊が小さな恐竜と出会い、生命の垣根を超えた友情が描かれるというあらすじだ。
今回の記事では、ゲスト声優としてアンモナー伊藤役とチュウ役を務めたオズワルドにインタビュー。声優に初挑戦した感想や理想の年齢の重ねかた、親子関係に悩む人へのアドバイスなど、さまざまなテーマについて話を聞いた。
オズワルド
畠中悠(左)と伊藤俊介(右)によるコンビ。2014年に結成し、2019年から2022年の『M-1グランプリ』にファイナリストとして出場したほか、『第42回ABCお笑いグランプリ』で優勝している。
─声優に初挑戦した感想を教えていただきたいです。
伊藤:自分がいない世界に声を当てることはあまりないので、無言のキャラに声を入れることで、アニメの制作に関われているんだとひしひし感じました。
畠中:声優は思ってる以上に難しかったです。完成披露試写会のとき、しんちゃん役の小林由美子さんが生でしんちゃんにアテレコをしているのを見て、声優ってとんでもない仕事なんだなとあらためて思いましたね。
伊藤:いやすごかったね。普段の小林さんとしんちゃんは全然声が違うしね。
畠中:しかもミスらないじゃん? ひと噛みもしてなくて、しんちゃんそのものなんだなと感じましたね。それぐらい声優の方は役に入り込んで演じていることがわかりました。
伊藤:後ろからこしょくって(くすぐって)やろうかなって思いましたよ。あまりにも噛まないので。
─お二人も芸人として舞台に立っていますが、発声などは違うのでしょうか?
伊藤:違いますね。声の出かたが全然違うというか。
畠中:普通のお笑いは自分が自分を演じて声を出しているだけなんで。
伊藤:イベントが始まる前の影ナレで小林さんが舞台袖から声を当てていて、「小林さんが舞台に出たらしんちゃんの声はどうするんだろう?」と思っていたんです。そしたら、しんちゃんとして喋るときは小林さんが後ろを向くんですよ、夢を壊さないように。なんて優しい人なんだろうと。
─伊藤さんが演じた「アンモナー伊藤」と畠中さんが演じた「チュウ」のセリフ量の差がすごいですが、どう思われましたか?
伊藤:これは何度でも言いますけど、これでギャラが一緒だったら俺は映画館に裸でカチコミに行こうと思ってます。
畠中:量じゃないんですよね、勘違いしてるけど。セリフは量が多いかどうかじゃなくて、どれぐらい気持ちがこもってるかって話なので。
伊藤:畠中がこの役にどう気持ちを込められたのか不思議ですね。込めようがない。
畠中:込めづらいところに込められてるというところの凄さね。込めようがないと思うでしょ。そこに込めたことがすごい。
伊藤:皆さんに見てほしいですね。見つけた人に100円あげたいぐらいですよ。
─畠中さんの演技はいかがでしたか?
伊藤:どうも思わなかったっすね。畠中のチュウに関しては。申し訳ないんですが、心がピクリとも動かなかったですね。
畠中:まだそのレベル? そのレベルでやってんだ。チュウだと思ったでしょ? 畠中じゃなくて。
伊藤:どれがチュウかわかんなかった。あれがチュウだよって言われてやっとわかるっていう。
畠中:完璧に演じられてるとそうなるんですよ。チュウはごく普通のお兄ちゃんだと思うので、誰がチュウだったのかわからないということは、完璧な仕事をこなしたということだと思います。
─お二人が『クレヨンしんちゃん』から受けた影響を教えてください
伊藤:「面白いってすごいな」っていう。子供のころ見たもののなかで一番笑ったのが『クレヨンしんちゃん』で、楽しくてとかじゃなく「面白くて笑う」という感覚を初めて味わわせてくれました。子供のころに転んだり、屁をこいたりして笑うことがあっても、アニメや映画のような、見る媒体でこんなに笑ったのは『クレヨンしんちゃん』が初めてです。
畠中:一見情けないひろしやガミガミうるさいみさえにも子どもに対する愛がすごくあるのは、大人になって改めて感じました。理想の家族像という意味で影響を受けています。
─幅広い世代に刺さるのも『クレヨンしんちゃん』の特徴ですが、ネタづくりのときに世代を意識されることはありますか?
畠中:意識できたらなとは思いますね。どんどん自分の年齢が上がってきて、自分らが楽しいとか面白いと思っていたものが、いまの20代の子にまったく通じないこともあるんで、そこはもっと歩み寄れたらなと。
伊藤:後輩がネタのなかで「InstagramやYouTubeの広告のあるある」みたいなことをやってめちゃめちゃウケてるのに、自分はまったくわからないような瞬間は「怖っ」て思いますね。
─作中では、年齢や自分の積み重ねてきた実績に縛られる大人の姿も描かれています。お二人はいま30代中盤ですが、若手の頃と比べて縛られていると感じるような経験はありますか?
伊藤:このあいだ漫才対決をチーム戦でやったんですよ。うちのチームに後輩でめっちゃ脂が乗ってる芸人がいて、そいつらは勝ったけどチームの他のメンバーは俺らも込みで全組負けたんです。
こいつら脂乗ってるな~と思いながら帰りのバスで窓に映る自分を見たら、「JIL SANDER」って書いてあるTシャツ着て、プラダの財布を背負ってたんです。「恥ずかしい!」と思って。別に縛られているわけじゃないですけど、あらためて漫才もめちゃくちゃ頑張らないとなと思わせてもらいました。
伊藤:あと、小さなことで喜べなくなったなと思います。先輩に焼肉に連れていってもらうとき、昔なら指笛吹いて喜んでたのに、いまは「ちょっと油っこいな」とか思ってしまって。黙って白飯をバカみたいに食ってりゃいいのに「カルビとか、ちょっと脂っこくて……」とか、悲しくなりますよね。
畠中:昔はお金がなくて、ラーメンのトッピングもない一番安いやつを、大盛り無料だったら大盛りにして食べて喜んで、いつかこれに半チャーハンをつけたいなと思っていました。いまは半チャーハンもつけられるようになったんですが、もうチャーハンがお腹に入らないんですよ。ラーメンで十分お腹いっぱいになってしまうという悲しさ。
─今後はどのように年を重ねていきたいか、理想の大人像があれば教えていただきたいです。
伊藤:(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の)両津勘吉みたいになりたいですよね。毎日楽しそうじゃないですか。お酒飲んで、いっぱい楽しいことも知ってて。毎日愉快に過ごしたいですね。
畠中:振り返ったときに後悔しないようにしたいなと。別にいまのところ後悔はないので、今後もそのまま行きたいなと思っています。
─今作ではさまざまな形で「親」と「子」の関係も描かれています。お二人はどんな親になりたいですか?
伊藤:自分が親になるのはまったく想像がつかないです。俺みたいなのが子どもを育てていいわけないだろうって、いまは思っちゃいますね。
子どもを育てる人って、子どもを育てる才能があったから産んだのか、子どもが生まれてから才能を手に入れたのか、わからないけど尊敬しています。他人の子どもはかわいいと思いますけど、やっぱり他人の子供なのでいじくるだけいじくったら返せるじゃないですか。その後のことを考えると、教育なんて想像もつかないというか。
畠中:自分の親がなんでも反対せず、好きなことをやらせてくれてたので自分もそうしたいですが、「よく噛む」ということだけは子供の頃から教えたいと思います。
─しんちゃん一家のような理想的な家庭がある一方、子どもを縛りつけてしまう親など、さまざまな親子のかたちがあると思います。親との関係性に悩んでいる人へのアドバイスがあれば教えていただきたいです。
伊藤:その立場になったことがないのでわからない部分もありますが、「18歳までどうにか辛抱してくれ」と思います。そこからは親がいなくても生きていけるし、親は絶対的なものではないので。
畠中:子どものころは身の回りの世界しか知らずに生きていくことになるので、それが当たり前だったり、抜け出せなかったりする人もたくさんいると思います。友達や本、映画、テレビのなかでもいいのでほかの家庭と比べてみて、自分の家庭が変だと気づくきっかけがあったらいいと思います。
いろんな家庭環境の人が混じり合って社会になっていて、絶対に自分が生きる場所はあると思うので、それを探してほしいです。
─本作では「ひと夏の冒険」がテーマとして描かれています。お二人のなかで印象深い「ひと夏の冒険」があれば教えてください。
伊藤:この質問、3媒体めです(笑)
畠中:そんなに冒険家じゃない(笑)
伊藤:うーん、同じこと話すのもなと思って……えー、ひと夏の冒険で言ったら、小学校のときに……家の近くの川に遊びに行って……カッパと出会って、カッパと一緒に天狗と戦ってた時期があるんですけど、あれは忘れられない思い出です。
畠中:僕の記憶だったかちょっと覚えてないけど、少年が汽車にひかれて亡くなったみたいなことがあって、でもその死体が見つかってないから、友達4人で探しに行こうって。
伊藤:それウェンザナイッのやつだよ! ウェンザナイッの記憶。
畠中:それで一泊して、朝に絵を描いてたら鹿が横切ったんですよ。その鹿は僕しか見てなくて、なんかわかんないけど、鹿を見たってことはほかの友達には言わずに、いまも自分の心のなかだけにありますね。
伊藤:いやいや、大人になったあいつの文章でしょ。ウェンザナイッが大人になったときの。
畠中:ちょっとわかんないですけど。
伊藤:本当すみません、(同じ質問が3媒体めなので)順番の妙だと思ってください。
─最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
伊藤:それはもう簡単ですね。「みればぁ~?」です。これも本当に順番の妙ですね。
畠中:これはちゃんとしたやつ!
伊藤:本当にすごいですよ。家族の絆あり、恐竜あり、犬あり、我ここにあり……みたいな。そんな映画になってます。
畠中:モハメド・アリって感じですね。
伊藤:モハメド・アリですね。
畠中:子供のころは僕も恐竜が好きだったし、いまの子供も恐竜が好きなのは変わらないと思うんですが、ポスターも見たらわかる通り、手描きの恐竜でこんなリアルに。『クレヨンしんちゃん』の映画でこんな絵のタッチはなかなかないと思うんで。恐竜の声とか迫力で泣いちゃうぐらい怖いんじゃないかって。
でもやっぱり子どものころはそれがすごくわくわくする。いい思い出になるんじゃないかな。しかも大人が楽しめる要素もたくさんあるので、親子にとっての思い出にしてほしいですね。