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森口将之のカーデザイン解体新書 第64回 さらにランクルらしくなった? 新型「70シリーズ」を実車確認

2024年08月06日 12:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車のSUV「ランドクルーザー70」が日本市場に復活した。8年ぶりの販売再開だ。「70シリーズ」と言えば、40年前の1984年にデビューして以来、グローバル展開を続けてきたトヨタのロングセラーモデル。変わらないことが魅力のひとつである車種をどう変えていったのか、そんな観点で新型のデザインをチェックした。


「らしさ」を取り戻した顔つき



ランドクルーザーの中でもヘビーデューティーな用途を担う「70シリーズ」は、「40シリーズ」の後継車として1984年にデビューし、今年で40周年を迎えた。日本向けは2004年に販売終了となっていたが、10年前に2年間の期間限定で再販したという経緯がある。ゆえに、今回の車両は「再々販」と呼ばれている。



「再々販」ランクル70のデザインは10年前の「再販」モデルと少し違う。むしろ40年前のデビュー直後の頃や、その前の「ランドクルーザー40」を思わせる部分もあって、昔からこのSUVを知る人たちにとっては、デザイン的に好印象なのではないだろうか。


今回の新型は、グローバルでは2023年8月に発表されていた。ボディサイズは全長4,890mm、全幅1,870mm、全高1,920mmとなっていて、再販モデルと比べると全長のみ80mm長い。


では、どこが長くなったのか。ひと目でわかるのはフロントまわりだ。ヘッドランプは角型から丸型になり、ウインカーはグリルから切り離されてフェンダー前端に移動した。デビュー当初の70シリーズを思わせる姿だ。


さらにグリルの上には、エンジンフードとの間に細いスリットが設けられた。こちらは70系の前任車である40シリーズを思わせる。


これらの変更は、パワーユニットの冷却性能向上と歩行者保護の観点から行われたそうだ。ヘッドランプはLEDで、デイタイムランニングランプを内蔵するなど時代に合わせたアップデートも実施しているが、安全基準などが厳しくなる中で70らしさをうまく取り戻していることに感心した。



前回の再販モデルは、顔つきについては70らしさが希薄だった。それを踏まえて、今回の再々販モデルはこのように仕立て直したのかもしれない。あるいは、乗用車的なSUVが多くなった反動でヘビーデューティーなモデルが注目されていることから、同時に発表となった「ランドクルーザー250」を含めて、「ランクルらしさ」を前面に押し出す考えになったのかもしれない。


左フロントピラー根元の黒い部品は?

リアの変更点では、観音開きのテールゲートの脇にあるランプがなくなって、バンパー内に集約されたことが目立っている。とはいえ、再販モデル登場時も、ゲートを開けたときに点灯が確認できなければならないという法律があったので、機能していたのはバックランプのみだった。よって、バックランプもバンパー内に集めたようだ。


これに伴い、バンパーはフロントを含めて一新されている。注目は、細かい部分だが、再販モデルではリアバンパー端から飛び出すような位置にあったリフレクター(反射板)が、今回はバンパーに埋め込まれていること。オフロードでの損傷を防ぐ、ありがたい改良である。


もうひとつ外観で気づくのは、左フロントピラーの根元に黒いパーツが追加されたことだ。エンジンがガソリンからクリーンディーゼルになったことに合わせて、排出ガス浄化の尿素SCRシステムに使う「アドブルー」という液体の注入口をここに設けた。


他のクルマでは軽油の給油口の横やエンジンルーム内にあったりするが、発売当時の70シリーズはクリーンディーゼルではなかったので、後付けとなった。でも、この後付け感が70シリーズの歴史を感じさせるのも事実だ。

メーターを見れば思い出す40シリーズ



インテリアではメーターが変わっている。信頼性を重視したアナログ式を引き継ぎつつ、以前のような丸型2連ではなく、台形の速度計を中心に左に扇形のタコメーター、右側にマルチインフォメーションディスプレイという配置になった。


この速度計の形状は、70のひと世代前の40シリーズに似ている。下に燃料計や水温計など4つの小さなメーターを並べるところもそっくりだ。エクステリアのフロントのスリットもそうだが、ランドクルーザーのヘリテージ性を象徴するモデルであることが伝わってくる。



一方でステアリングは、スポークにスイッチが追加となり、今風のデザインになった。さらにシートの間には、ギアボックスがMTからATになったことにともなって、センターコンソールのトレイが追加された。


多くのクルマはマイナーチェンジを経るごとに個性が薄れていく。ランドクルーザー70の場合も、再販モデル登場時には、フロントマスクが一般的な造形になっていたりして、その傾向を感じた。



ところが今回の再々販モデルを見ると、丸型ヘッドランプやサイドに突き出したウインカーを復活させたうえで、その前の40シリーズの雰囲気まで盛り込むなど、ヘビーデューティーSUVというユーザーの期待に応えるデザインを狙っているという印象を受けた。



加えて新型は、1ナンバーから3ナンバーへの登録変更、ガソリンMTからディーゼルATへの転換などにより、多くのユーザーにとって買いやすい仕様になっている。ゆえに発売直後に予約が殺到して、納車までかなり待たされる状況になっているそうだが、それもまた新型のデザインが支持されている証明と言えるのではないだろうか。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)