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「AQUOS R9」を3週間使って感じた真価 “生活に溶け込むスマートフォン”の理想形だ

2024年08月06日 11:51  ITmedia Mobile

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AQUOS R9

 シャープの新フラグシップモデル「AQUOS R9」をレビューする。外部デザイナーの起用でデザインを刷新した新モデルだ。今期はカメラ特化型の最上位モデル「AQUOS R9 pro」が投入されないため、この機種がシャープのフラグシップとなる。価格はSIMフリー版で10万円前後を想定する。シャープから実機を借りる機会を得たので、その実力を見ていこう。


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●端正なフォルムの中に息づく生命感


 AQUOS R9のフォルムでまず目を引くのは、カメラ周りのデザインだ。自由曲線を多用したカメラ周辺の配置は、ジブリ映画のキャラクターに例えられたが、どこか有機的な印象を受ける。全体としては秩序だった印象のデザインの中で、絶妙なアクセントとなっている。


 側面や背面、ディスプレイ角のアールの付け方にも細やかな配慮が感じられる。その柔和な曲線は、まるでキッチン家電のような親しみやすさを醸し出している。カラーバリエーションはグリーンとホワイトの2色展開だが、清潔感のある印象だ。背面素材は強化ガラスを採用。カメラバンプの部分はアルミ素材で、ダイヤモンドカットによって存在感を出している。


 前面を見ると、上下左右のベゼルに太い部分がなく、画面と外枠のバランスが絶妙だ。約6.5型の画面サイズで、本体サイズは約75(幅)×156(高さ)×8.9(奥行き)mmと、大きくなりすぎないサイズ感に抑えている。重さも195gで、手に持ったときの負担に配慮されている。


 唯一気になるのは指紋センサーの位置だ。右側面の電源ボタンと一体化されているため、右手で持つ場合は親指で自然に操作できるが、左手で使用する際には人差し指でも押しづらい位置にある。前機種と同じ配置だが、ここは画面内蔵型の指紋センサーを採用した方がよかったのではないかと思う。


●目に吸い付くPro IGZO OLEDディスプレイ


 画面サイズは約6.5型で、シャープの独自技術Pro IGZO OLEDディスプレイを採用している。多くのハイエンドスマートフォンの120Hz駆動を上回る。黒フレームの挿入という工夫で240Hz相当の駆動を実現している。


 「画面がヌルヌル動く」という表現がぴったりくるほど、その動きは滑らかで、使い心地のよさでは一歩先行く印象だ。暇さえあればXやThreadsのタイムラインを流し見してしまうようなSNSヘビーユーザーなら、この滑らかさの恩恵を強く実感できるはずだ。


 なお、前機種で搭載していた動画のフレーム補間は省略されている。


 画面輝度は全白輝度1500ニト、ピーク輝度2000ニトと高く、屋外での視認性も申し分ない。さらに、従来モデルで弱点だった低輝度時の光漏れも解消されており、ディスプレイの製造品質では一段上がっている印象だ。


 また、今回は内蔵スピーカーも改善されている。ステレオのボックススピーカーの採用によって、音量が従来の2.5倍、低音域が2倍にブーストしている。


●ライカ印のカメラは、誇張しすぎない自然な色表現が好印象


 背面には広角と望遠の2眼カメラを搭載。インカメラは単眼だ。いずれも約5030万画素のセンサーを採用している。広角ライカ(Leica)ブランドを冠しており、背面のレンズユニットは「HEKTOR 1:1.9-2.2/13-23 ASPH.」と銘打たれている。


 スマートフォンのカメラは、ややもすると色を強調しすぎる傾向にあるが、このスマホで撮る写真は誇張しすぎない自然な色表現を実現している。これはライカの監修による影響だろう。ボケの表現にも独特の雰囲気があり、思い出に残る写真が撮れる印象だ。


 ソフトウェア面での撮影技術も強化されている。被写体追尾フォーカス機能では、被写体が柱などに隠れて一瞬見えなくなったとしても、被写体の形状を検出して追尾を続ける。子どもやペットなど、動き回る被写体を撮影する際に非常に便利だ。


 一方で、カメラに1型センサーを搭載するAQUOS R8 ProやLeitz Phone 3にはボケ感や解像感において一歩及ばない印象だ。また、シャッタースピードは早いとはいえず、動きのあるものを撮ると被写体ブレを起こすことが多かった。しかし、スマートフォンのカメラとしては高い表現力を持ち、バランスの取れた写りを実現している。日常的な撮影からちょっとした風景写真まで、幅広いシーンで活躍してくれるだろう。


●「伝言アシスタント」に生成AIを活用 AQUOSならではの独自機能も


 AQUOS R9では、シャープ独自の機能に加えて、新たに生成AIを活用した機能が追加された。その代表が「伝言アシスタント」だ。


 なお、他社の「AIスマートフォン」では、通話翻訳やボイスレコーダーの文字起こしなどの機能を搭載している機種もある。しかし、AQUOS R9ではそういった機能は搭載されていない。


 この背景には、ストアで代替できるツール系アプリはあえて搭載せず、OSレベルでカスタマイズが必要となるような機能の開発にフォーカスするというAQUOSの開発方針がある。生成AIの分野でも、AQUOSは独自の視点で機能を厳選し、効果的な開発を進めているように見受けられる。


 伝言アシスタント機能は、通話録音をオンデバイスの生成AIで文字起こしし、音声を聞かずに文字で内容を確認できる。さらに、会話の内容を短く要約する機能も備えており、効率的な情報把握を可能にしている。


 この他にも、千葉県警の協力の元開発された、迷惑電話の警告機能も備えている。


 AQUOSの既存機能の中で、生成AI技術と親和性が高そうなのが音声アシスタント「エモパー」だ。エモパーは、スマホがしゃべり出すユニークな機能としてAQUOSユーザーにはおなじみの機能だ。現在のエモパーの基本的な機能は従来機種と変わらないが、今後のアップデートでより自然な対話ができるようになるかもしれない。


 その他にも、AQUOS R9は便利な独自機能を搭載している。例えば、指紋センサーに指を当て続けるとスマホ決済アプリが開く「Payトリガー」機能。これにより、決済時のアプリ起動がよりスムーズになる。また、「テザリングオート」機能は、ユーザーが家を出るとテザリングを自動的に開始する。外出時のインターネット接続の手間を大幅に削減できる便利な機能だ。


●3回のOSバージョンアップを約束


 OSはAndroid 14を搭載。発売日から最大3回のOSバージョンアップと5年間のセキュリティアップデートを約束している。5000mAhの大容量バッテリーは約130分で充電が完了し、長時間の使用にも耐える。通信面では5G Sub6に対応し(ミリ波は非対応)、最新のWi-Fi 7規格もサポートしている。さらに、IPX5/IPX8/IP6Xの防水・防塵(じん)性能とMIL規格準拠の耐久性も備えており、タフな使用にも耐える設計となっている。


●必要十分以上のパフォーマンスを確保、Snapdragon 8 Gen 3機に引けを取らない


 AQUOS R9はプロセッサとしてSnapdragon 7+ Gen 3を採用している。最上位の8シリーズではないことから、発表時点でパフォーマンス不足を懸念する声が一部にあった。しかし、実機で確かめた結果、筆者は日常的な使用では全く問題なく、十分な性能を担保していると考えている。


 Snapdragon 8シリーズとの性能差が現れる場面としては、例えば、Xのタイムラインで動画プレビューを一斉に読み込むような状況がある。このシーンでは、並列処理能力、メモリ帯域幅の大きさ、動画デコーディング処理の高速性が同時に求められる。上位チップセットはこれらの面でより高い性能を発揮するが、Snapdragon 7+ Gen 3も日常的な使用では十分な能力を持つ。体感として差を感じることはほとんどないと思われる。


 ゲームプレイにおいても、Snapdragon Gamingによる最適化のおかげで快適な動作を実現している。実際に『原神』を「画質→最高、フレームレート→60fps」の設定で30分ほどプレイしてみたところ、排熱により本体がほんのり暖かくなる程度で、快適にゲームを楽しむことができた。


 AQUOS R9の性能を支える要素として、熱設計にも工夫が施されている。今回は冷却部材として、ハイエンドスマホでは一般的になったベイパーチェンバーを採用。CPUが配置されているFeliCaマーク周辺から効率的に排熱を行っているようだ。また、12GBのRAMと256GBのUFS 4.0ストレージの組み合わせが、スムーズな操作性の実現に一役買っている。


 実機での使用感に加え、客観的な数値でもAQUOS R9の性能を検証してみた。Geek Bench 6.3.0のCPUテストでは、AQUOS R9はシングルコア性能で1844、マルチコア性能で4920というスコアを記録。これは1年前のハイエンド端末「Galaxy S23」に匹敵するスコアで、計算性能では最上位機種にも劣らないことが裏付けられた。


 グラフィック描画性能を検証する3D Markでは、通常モードの「Wild Life」でスコアは上限に達した。上位モードの「Wild Life Extreme」ではスコア2857、平均フレームレート17.11FPSを記録した。


 同時期発売の「Galaxy Z Flip6」と比較してみた。Snapdragon 8 Gen 3 for Galaxy搭載、メモリ12GBと性能面ではトップクラスの機種だ。


 Galaxy Z Flip6はGeek Benchのシングルコア性能以外でAQUOS R9を上回るスコアを示した。3D MarkのWild Life Extremeテストでは平均FPSで大きく上回り、性能差が視覚的にも示された。Wild Life Extremeは現行のモバイルデバイスにとっては非常に負荷の高いテストだが、次世代のハイエンドゲームではこのような高度なグラフィック処理が求められる可能性がある。その将来を見越してGalaxy Z Flip6のような最上位クラスを選ぶ意義もあるといえる。


 一方で、価格面では、AQUOS R9のSIMフリー版が約10万円、Galaxy Z Flip6が15万9700円と、約6万円の差がある。Galaxy Z Flip6は折りたたみ機能とより長期のセキュリティアップデート(7年間)を提供するので一概には比較できないものの、AQUOS R9はコストパフォーマンスに優れている。両者ともに、それぞれの価格帯で競争力のある製品といえる。


●AQUOS R9は生活に溶け込むフラグシップスマートフォンだ


 AQUOS R9には「しっくりくる」という表現がよく似合う。日常になじむデザインと実用的な高性能を絶妙なバランスで両立させているからだ。


 Pro IGZO OLEDディスプレイが生み出す滑らかな画面表示は、長時間の使用でも目に優しく馴染む。ライカ監修の自然な色味のカメラは、現実の風景を見たままに撮りたい人の感性に寄り添う。新たに搭載された「伝言アシスタント」機能は、生成AI活用の第一歩として、将来的な機能拡充への期待を高めている。


 最上位チップセットは搭載していないものの、まごうことなくフラグシップの性能を確保している。その上で、現実的な価格に抑えた。


 確かに、先代の「AQUOS R8 Pro」の1型センサー搭載カメラのようなとがった特徴はない。しかし、それこそがAQUOS R9の強みだ。使う人の生活をさりげなくサポートし、長く使い続けたくなる生活家電のような存在感。派手さはないが、日々の暮らしに寄り添い、いい引き立て役となる。


 AQUOS R9は、まさに「生活に溶け込むスマートフォン」の理想形といえる。使えば使うほど手放せなくなる、そんなスマートフォンだ。