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公式より人気…幼児が夢中の「アンパンマン人形劇」動画、法的問題はある? 親からは不安の声も

2024年08月05日 10:20  弁護士ドットコム

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人気作品「アンパンマン」のぬいぐるみやおもちゃを使った「オリジナル人形劇」とも呼べる動画が、YouTube上に無数にアップされている。


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アンパンマンやバイキンマンたちがお菓子を食べたり、お医者さんごっこをしたり、いわゆる「ごっこ遊び」をするような微笑ましい内容のものもある。



しかし、非公式であり、法的にはセーフかアウトか不明瞭であるため、「子どもに見せたくない」と眉をひそめる親も少なくない。



ところが、そんな親の心を知らずか、子どもたちは「本家」よりも食い入るように視聴することもあるという。



このような非公式動画をアンパンマンの権利者はどう考えているのか。法的にはどのように判断されるのか、取材した。(弁護士ドットコムニュース・塚田賢慎)



●「無許可でアンパンマンの人形を使った小芝居」呼ばわりの存在

アンパンマンのぬいぐるみを使った「ごっこ遊び」の動画は、YouTubeで「アンパンマン」を検索してみると、非常にたくさん存在することがわかる。小さな子どもにアンパンマンを見せ始めた家庭なら「ああ、アレか」と思ってもらえるだろう。



子を持つ親からは「YouTubeの脱法アンパンマン動画」「YouTubeの低クオリティアテレコ無許可アンパンマン紙芝居」「アンパンマンの人形を使った小芝居」などとSNS上で呼ばれている。



その多くは、ぬいぐるみを動かしながら、人や機械が声をあてる。公式のストーリーでは話すことのできないキャラクターがペラペラ話したり、現実に存在するお菓子を食べ(るフリをし)てみたり、ときには「クレヨンしんちゃん」や「ドラえもん」といった"別世界"のキャラクターまで登場する。もはや本来の物語とはかけ離れたものもある。



しかし、公式の世界観を踏襲しないだけならまだよいかもしれない。グロテスクな造形の幽霊や怪物が現れるなど、子どもに悪影響ではないかと思われる映像もたくさん存在するのだ。



●見せたくない…しかし、子どもはめちゃくちゃ見る。本家より見たがる。

そうした非公式動画の誘引力は凄まじいものがあり、これらの存在を一度でも知ってしまった子どもが、公式のアニメではなく「こっちのほうを見たい!」と主張することもあるという。



YouTubeでアンパンマンの公式チャンネルを見せていたのに、いつの間にかこれらの動画に自動で切り替わっていた。あるいは子どもが成長して勝手にリモコンを操作していることもある。



今の時代、家事や在宅勤務で親が手を離せない状況などにおいて、子どもが静かにしてくれているため、ありがたい存在でもある。



しかし、SNS上では、親たちからの「著作権侵害でBANされないのが本当に不思議」「普通のアンパンマンのアニメよりも単純で理解しやすいのか2歳長女は未だにハマり中」といった不安の声が相次いでいる。



親たちは、公式が認めたわけでもなく、著作権の観点からも「グレー」な動画を見せることに抵抗感を感じているようだ。また、収益をあげていることへの疑問もみられる。動画には、視聴数が100万PVを超えるものも少なくない。



どうしても子どもに非公式動画を見せたくない家庭では、地上波アニメを録画したり、有料の動画配信サービスで正規のアンパンマンを見せているようだ。



●アンパンマンの権利者は回答控えるも「侵害事案には適切に対応している」

公式側はどのように捉えているのか。アンパンマンのぬいぐるみを使って、オリジナルのごっこ遊び動画をYouTubeなどにアップするには許可が必要なのだろうか。



弁護士ドットコムニュースは、アンパンマンの権利を持つ日本テレビ音楽株式会社に取材した。



同社は権利者各社と確認のうえ「今回ご質問をいただきましたYoutubeの非公式動画に関しましては、恐れながら、個別の事例についての回答は控えさせていただきたく存じます」とコメントした。



一方で、「侵害事案に対しましては、他の権利者とも協議の上適切に対応を行っております」という。決して野放しにしているわけではないようだ。



法的にはどのように考えられるのだろうか。知的財産権に詳しい出井甫弁護士に聞いた。



●「原則」としては動画の公開は権利者に許可をもらう必要がある

——アンパンマンのキャラクター(ぬいぐるみやおもちゃ)を使って、オリジナルの劇をYouTubeに投稿する場合、どのような法的問題が考えられますか。違法とされる場合もあるでしょうか。



一番に検討すべきは著作権と考えられます。



著作権法上、他人の著作物をインターネット上にアップロードする行為は、著作物の「複製」(21条)や「公衆送信」(23条)にあたりうるので、原則として著作権者の許可が必要です。



今回のケースのような「ぬいぐるみやおもちゃ」においても、動画によっては、キャラクターの創作的表現が含まれているとして「著作物」に該当しうるものがあるように思われます。(*)



そうすると、これらをYouTube上に映し出す場合には、先ほど述べた原則があてはまり、著作権者の許可が必要になると考えます。



*もっとも、「ぬいぐるみやおもちゃ」は、実用性を備えた美的な創作物(応用美術)に分類されることから、意匠による保護の対象にもなりえます。そのため、著作権との重複保護をなるべく避ける観点から、通常の創作物と異なる「著作物」性の判断基準(例えば、「応用美術」の持つ実用性を切り離してもなお、美的鑑賞性を有するといえるものといえるかどうかを基準とするものがあります。)が用いられることがあり、その結果、「ぬいぐるみやおもちゃ」によっては、その著作物性が否定されえることには留意が必要です。



なお、たとえば、「ぬいぐるみやおもちゃ」が画面の隅に写り込んでいる動画や、「ぬいぐるみやおもちゃ」を紹介するための動画であれば、著作権法上の規定によって、許可が不要となる場合があります(前者については30条の2の「写り込み」、後者については32条の「引用」)。



ただし、今回問題となる「ごっこ遊び」動画においては、「ぬいぐるみやおもちゃ」をストーリーの登場キャラクターとして扱いますので、これらの規定が適用される可能性は低いでしょう。



●YouTube動画の実態は?「締め付けによるファンコミュニティの反発も懸念」

——非常に多くの動画がYouTube上にあがっています。



今回のような「ごっこ遊び」の動画について、許可を得たものではない(権利侵害)として、著作権者からすべて排除されているかというと、そうではないのが現状です。



その原因の1つには、権利者側で対処しきれていないという問題があります。



YouTube上の侵害コンテンツが削除されるか否かは、事実上、Googleに委ねられています。また、動画投稿者の身元を特定するには、裁判所を通じた発信者情報開示請求等の手続きを必要とするなど、時間と費用がかかる場合があります。これを一つひとつおこなうことは必ずしも容易ではないと思われます。



また、別の原因として、ユーザーが投稿したYouTube動画の内容によっては、自社サイトやCMで広告するよりも高い宣伝効果を得られる場合があります。



さらに、こうした動画を削除したり、投稿者を摘発したりすると、動画をきっかけに形成されたファンコミュニティに水を差すことで、ファンから批判を受ける可能性もあります。



それゆえ、権利者はユーザーによる著作物の利用を黙認しているケースもあります。



以上を総合すると、権利者の意向にもよりますが、「ごっこ遊び」動画が実際に民事上あるいは刑事上、違法とまで判断されるのは、ファンコミュニティの形成や宣伝効果よりも、収益確保や作品の評価を守る必要性が高い場合といえるかもしれません。



「ごっこ遊び」動画を投稿・閲覧される方においては、こうした事情も踏まえ、権利者との良好な関係を意識されることが重要と考えます。



なお、今回のケースのようなユーザーが創作したコンテンツは「UGC:User Generated Contents」といわれており、政府や関連企業で適切な流通への取り組みが検討されています。UGCの多くは、既存の著作物を利用したユーザーによる二次創作物と考えられます。



YouTubeにおいても、なるべく権利者とユーザーの意思を反映させる技術として「Contents ID(自動コンテンツ識別システム)」が導入されており、権利者と投稿者の間で収益を分配するような対応も可能です。詳しくは自著コラムをご覧ください。




【取材協力弁護士】
出井 甫(いでい・はじめ)弁護士
2013年早稲田大学法学部卒業。2015年弁護士登録(第一東京弁護士会・68期)。大手法律事務所を経て、2018年2月骨董通り法律事務所。2023年まで内閣府知的財産戦略推進事務局に出向。主著として、「AI生成物の著作物性に関する議論の現状と今後の法実務」ジュリスト2024年7月号(No.1599)、「AI生成機能の動向と著作権法上の課題への対策」コピライト 2023年1月号など。
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com