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止まらない学校の盗撮事件、浮かぶ実態「複数の男子生徒」「スマホや学校支給のタブレット端末」…防止策どうしたら?

2024年08月04日 09:30  弁護士ドットコム

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子どもたちの間でスマートフォンやタブレット端末が普及するとともに、学校内の盗撮事件が相次ぎ、社会問題となっています。


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埼玉県春日部市の公立中学に通う男子生徒らが、修学旅行先の宿泊施設で入浴していた女子生徒を盗撮していた疑いがあると最近、報じられました。複数メディアによると、警察は性的姿態撮影等処罰法違反などの疑いで捜査しているとのことです。



男子生徒らは6月、訪れた宿泊施設の風呂場で女子生徒十数人を盗撮し、その動画や写真をSNSを通じてほかの生徒に送信していた可能性があるとも報じられています。



また、東京都武蔵野市の公立小学校でも、複数の男子児童が授業のために配布されていたタブレット端末で、女子児童の着替えを盗撮していたことが今年1月に報じられました。盗撮は複数回おこなわれ、画像や動画は、児童の間で共有されており、事件の低年齢化に衝撃が広がりました。



安全な場所である学校が加害の現場になり、守られるべき子どもが加害者になってしまう学校内の盗撮。子どもたちを守り、盗撮をさせないためにはどうすればよいのでしょうか。



●解決方法が見えない学校内の盗撮事件

「子どもが通っている中学校で、盗撮未遂事件が起きてしまいました」



関東地方の公立中学に子どもを通わせている女性(40代)は、記者にそう語り始めました。昨年、複数の男子生徒が、教室で女子生徒の着替えを撮影しようと試みたそうです。使われたのは、学校から配布されたタブレット端末でした。



写真にはほとんど何も写っていなかったそうですが、その「失敗写真」はクラスのほかの男子生徒たちに、LINEで共有されていました。女子生徒の保護者は学校側に強く抗議しましたが、「未遂」だったこともあり、表沙汰になることはありませんでした。



女性は「今でも正解がわからない」といいます。



「盗撮した男子生徒はいわゆる不良ではなく、普通の子達でした。女子生徒の保護者たちは本当に怒っていましたが、男子生徒の保護者たちは、『子どもがふざけてやったことだから許してほしい』と考えているようにみえました。どちらの立場もわかります。



ただ、とにかく大事にせずに穏便に済ませたいという学校側の態度には釈然としませんでした。女子生徒の保護者をなだめるだけで、盗撮した男子生徒たちをどうしたら良いのか、明確な対策はとられませんでした。



子どもたちにスマホやタブレット端末を持つなというのも現実的ではないですし、どうすれば再発防止できるのか、解決方法がわかりません」



●学校は「盗撮できしまう環境」

報道されている盗撮事件をふりかえってみると、ある特徴が浮かんできます。



「複数の男子生徒」が、「自分のスマホや学校配布のタブレット端末」を使用し、「学校内や修学旅行などの宿泊先」で、「着替え中やトイレに入った女子生徒を盗撮」するケースです。友人同士で「画像や動画を共有」しているケースも少なくありませんでした。



「子どもたちにとって、スマホやタブレットに高性能なカメラがついていることは大前提であり、使用にも抵抗感がありません。このため、自分の行動の問題を考えたり、衝動を抑える力が身につく前に、盗撮できてしまう環境が、今やほとんど全ての子どもに整ってしまっています」



そう指摘するのは、子どもや学校のトラブルに詳しい髙橋知典弁護士です。学校側の管理にも問題があるといいます。



「学校も子どもの着替えに対して無頓着です。その結果、教室や体育館など、さまざまな人が出入りする場所で着替えていたり、更衣室であっても上の窓は廊下に繋がって階段からは見えるようになっていたり、大人が着替える場所と比較すると、非常にずさんな管理体制になっています。



また、修学旅行などではお風呂や脱衣所での盗撮もよく起きます。特に、ホテルや旅館の中には、撮影技術が発達する前に作った間取りのままで営業してきた古い施設も多く、容易に盗撮できてしまうような場所があります」





●なぜ学校の盗撮事件が「危険」なのか

環境が整ってしまっているとはいえ、なぜ、子どもたちは気軽に盗撮をしてしまうのでしょうか。髙橋弁護士はこう説明します。



「盗撮犯罪は、殴ったり蹴ったりといった傷害事件などと違って、『加害者が被害者の苦痛に歪む顔を見ないで出来てしまう』のが特徴です。



そのため、普段は優しいといわれているような、いわゆる優等生の子が、罪悪感を抱く機会を持たずに、何度も盗撮をしてしまっていたということも起きています。



また、多くの場合子どもたちは、友達同士の悪ノリで盗撮します。撮影に成功すれば、さらに悪ノリして周囲の同級生に配ってしまうことが往々にしてあります。



子どもたちはSNSで繋がっており、たった一人にしか渡していなかったとしても、あっという間に画像は広がり、大変な状況になりかねません」



髙橋弁護士はその影響に懸念を示します。



「学校内での盗撮画像のほとんどが必然的に児童ポルノにあたります。単純所持でも犯罪になるため、盗撮した生徒だけでなく、送信された生徒を含め、あっという間に数十人単位で『犯罪者』になってしまう可能性もあります。事件が発覚したら画像の所有者を見つけて削除させるなど、学校や保護者の初期対応が非常に大切になります。



また、学校外ではこうした子どもたちの盗撮画像を、欲しがる大人もいます。盗撮画像や動画を買い取ったり、ネット上で女性や同年代のように偽って、送ってもらおうとする大人もいます。彼らは強い関心を持って、子どもたちに接触しようとしますので大変危険です」



盗撮画像は一度、送信されてしまえば、被害がどこまで広がるかわかりません。拡散してしまえば、被害に遭った子どもがさらなる犯罪に巻き込まれたり、一生苦しめられたりすることにつながるのが、学校での盗撮事件です。



●盗撮事件を防ぐためにできることは?

盗撮事件を防ぐためには、どのようなことが必要なのでしょうか。髙橋弁護士に聞いてみました。



「事件を起こしてしまう子に共通する点としては、『学校や家庭で盗撮を含めた性犯罪の問題点を話し合ったことがない』というようなケースが目立ちます。



恥ずかしいかもしれませんが、教師や保護者が正しい性知識や性犯罪について話す機会を持ってみれば、子どもたちは意外と素直で、分かってくれますので、普段から話し合って教えておくことが大事でしょう」



一方で、盗撮事件が起きにくい「環境」を文科省や教育委員会、警察で連携してつくることが大事だと髙橋弁護士は指摘します。



「スマホやタブレット端末の利用について、既存のガイドラインに、施設の環境基準などを盛り込む必要があると思います」



具体的には次のようなポイントです。




(1)学校施設の管理状況の安全基準(盗撮の被害が生じない更衣室等の管理方法や目張りなどの点検等)



(2)運動会や学園祭等学校行事の運営基準(現在でも撮影エリアなどは決まっている学校がありますが、今後は携帯電話を胸から吊るす袋を貸し出し等の対策案等も必要でしょう)



(3)修学旅行など宿泊を伴う学校行事といったよく盗撮が起きる施設での安全基準の提示(例えば、男女の風呂や更衣室が、手を伸ばして携帯電話で撮影できてしまう環境ではないように、間仕切りの高さや入口の仕様について、施設側に文書で確認できるような基準)



(4)実際に学校で起きた盗撮事件の事例集や、上述のような事例での教員の見回りポインントを作成



(5)盗撮事件発覚後の対応マニュアルを作る




髙橋弁護士は、「学校内の盗撮事件が社会問題になり、子どもたちの安全が脅かされている以上、早急な環境整備の議論と対策が必要です」と話しています。




【取材協力弁護士】
高橋 知典(たかはし・とものり)弁護士
第二東京弁護士会所属。学校・子どものトラブルについて多くの相談、解決実績を有する。TBS『グッとラック!』元レギュラーコメンテーター。教育シンポジウム、テレビ・ラジオ等の出演。Yahoo!公式コメンテーター。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/