日常的な買い物ができずに苦労する「買い物難民」が社会問題化している。どんな理由で「買い物ができない」状態に陥ってしまうのか。この問題に詳しい東京都市大学西山敏樹准教授に、基本的なポイントを教えてもらった。(取材・文:箕輪 健伸)
「買い物難民」ってどんな人?
西山さんによると、「買い物難民」とは、次のような人たちだ。
「買い物ができる店が地域にない、またはインターネットが使えずにネットスーパーも利用できない、あとは遠くに店はあるものの交通手段がないためにその店まで行けない。こういった人をひっくるめて『買い物難民』と定義しています」
この「買い物難民」が問題視されだしたのは、なんと40年も前のことだという。当時、日本はバブル景気前。人々の暮らしが、どんどん豊かになっていった時代のはずだが……。
「景気が良かったせいで、小型自動車が家庭のセカンドカーとして普及するようになったのです。しかし、そこには負の側面があって、セカンドカーの普及によって路線バスの利用者が減ってしまった。それまでは路線バスで、駅前や商店街に買い物に行っていた人が相当数いましたが、バスの利用者が減ったことによって便数は減り、どんどんバスで買い物に行きづらくなるという、悪循環が生まれてしまいました」(西山さん)
路線バスの経営難はその後も、どんどん厳しさを増している。NHKの調査報道によると、2023年8月までの1年5カ月で、全国8600キロ以上のバス路線が廃止になったという。
西山さんは「地方では、電車も相当厳しい」と指摘する。
「ローカル線の経営は軒並み厳しく、廃線や減便が相次いでいます。そういった地域では、電車で近くの街まで買い物に行くことも、難しくなってきています」
マイカーが「当たり前」になる一方で、電車・バスがどんどん不便になってきた。その状況から「取り残された人たち」はどうするのか?
「特に困っているのは、免許を持っていない人や高齢者、高校生・中学生たちです」と西山さんは指摘する。
問題に拍車をかけたコロナ禍
この問題に追い打ちをかけたのが「コロナ禍」だ。
「実はコロナ禍以降、バスや電車、タクシーといった公共交通機関に乗る人がいっそう減りました。その理由として挙げられるのがテレワークの普及で、出社しなくても仕事ができるようになったことです。バス会社は定期券収入が大きく落ち込み、運転手などに潤沢に給料を出せなくなってしまった。そして、運転手が確保できないことを理由に、便数もさらに減りました」
急激に進む高齢化も、買い物難民を増やしているという。病気や高齢化などで配偶者が運転できなくなり、それで移動手段を失ってしまう人も少なくない。
「運転ができないから買い物に行けない、ネットショッピングを利用しようにもスマートフォンもパソコンも使えない。こんな人が日本にはたくさんいます。ネットショッピングが当たり前になる中、余計に買い物難民が顕在化してしまったというのがここ2~3年のことです」
解決策は?
何十年も前から問題として認識されていて、「このままではマズイ」と言われていた。それなのに何となく放置されていて、気づいたら無視できない大問題となっている。なんだかこの国には、似たような構図の問題が多い気がする。
かなり根深い問題の気もするが、何か今からできることはあるのだろうか?
西山さんは「解決策はある」と話す。
「たとえば『移動販売車』です。ただ、現状の移動販売車は、運営母体のスーパーが、地域のために赤字覚悟でやっているケースも少なくありません」
事業が「赤字」では、いつまで持続できるかわからない。なんとかできないのだろうか。
西山さんは、このように提言していた。
「もっと効率をあげるためには、たとえば、路線バス会社が『移動販売バス』をつくり、バスの折り返し所や主要な停留所で少し止まって、人を運びながら地域の人に買い物をしてもらうというアイデアもあります。“普通のバスより少しのんびり走る”ことにはなりますが……」