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主人公の愛車はジムニー? Netflix「地面師たち」のクルマをチェック!

2024年08月01日 18:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
Netflix(ネットフリックス)で独占配信中のドラマ「地面師たち」にはいろいろなクルマが登場します。主人公の愛車、地面師たちが乗り回す高級車……そのどれもが、なんというか、チョイスが独特なんです! 作品に登場するのはどういうクルマなんでしょうか? 早くも「地面師たち」を観終わったという自動車YouTuberのシオミサトシこと自動車ジャーナリストの塩見智さんにお会いできたので、解説をお願いしました。


「地面師たち」とは?



Netflixの「地面師たち」が面白過ぎた。2017年に東京で実際に発生した大規模な地面師詐欺事件を下敷きにした新庄耕の小説を、「モテキ」「バクマン」など多くの人気映画を手掛けた大根仁が脚本・監督としてドラマ化した作品で、綾野剛、豊川悦司、ピエール瀧、小池栄子、リリー・フランキー、山本耕史ら、それぞれ主役級の豪華俳優陣が競演している。


どう面白いかについてはネット上で数多く取り上げられているし、SNSでも大いに話題になっているのでそちらを参照いただきたいのだが、私は自動車ジャーナリストなので、どんなカテゴリーの娯楽作品を観ていても出てくるクルマに目がいってしまう。その点、この作品に出てくるクルマは、いかにもなケースもあれば、なぜそのクルマなんだろうと思わせるケースもあり、全体として作品に深みをもたせるのに成功していると感じた。

地面師たちが乗るレクサスは?



まず、地面師たちが複数で移動する際に使うのはレクサス「LX570」だ。頑丈で信頼性が高く、優れた悪路走破性を誇る「ランドクルーザー」をベースとしたモデルで、レクサスのラインアップのなかでも最も大型のラグジュアリーSUVとなる。現行型からするとひとつ前の世代だが、時代設定を考えると、当時新車で販売されていた世代ということになる。


だれの所有車なのかははっきりしないのだが、いずれにせよ、地面師たちの羽振りのよさを物語っている。だが、輸入車ではなく国産車で、しかも色はブラックをチョイスしているところからは、彼らが堅気の仕事をもつ市民を装う必要があるという事情が見て取れる。LX570はV型8気筒エンジンを搭載していて動力性能は十分。犯行時の逃走や追走にもうってつけだ。

No.1ホストの黄色いオープンカーは?

物語で重要な役割を担う歌舞伎町No.1ホストの楓が、綾野剛演じる主人公の辻本拓海に運転させるかたちで登場するのが黄色いフェラーリ「F8スパイダー」だ。V8エンジンをミッドシップした「F8トリブート」というモデルのスパイダー(オープンカー)バージョンである。720馬力を誇る、No.1ホストが乗るにふさわしい(!?)華やかなスポーツカーだ。


2019年秋に登場したモデルなので、日本で買えるようになるのは早くても2020年の後半以降のはず。したがって、正確に言えば、2020年3月のJR山手線の高輪ゲートウェイ駅開業による周辺エリアの発展を見越し、高値がついた土地を巡る物語に登場するクルマとしてはやや早すぎるのだが、そんなことよりも、治安の悪そうな歌舞伎町の路上で、屋根を開け放したまま借り物のフェラーリを放置する辻本を見ていて大丈夫なのかと気になった。まぁ借り物といっても、その後、持ち主を脅迫し、ビルの屋上から落とそうとするのだから関係ないか。


主人公・辻本のジムニーは何世代目?



考えさせられるのは、辻本の愛車と思われる軽自動車のスズキ「ジムニー」だ。1995~98年に販売された「JA22型」といわれる2代目後期のモデルで、ボディカラーは地味なダークグレー(ブリティッシュグリーンパール)。とにかく小さなクルマに見えるのは、運転席に辻本、助手席に大柄なアントニー(マテンロウ)演じる反社のオロチが乗っているシーンが多いからというわけではなく、当時の軽自動車は現在市販されているモデルよりも全幅が狭かったからだろう。


辻本が地面師になる前のデリヘル嬢のドライバー時代から愛用するクルマだが、その後、豊川悦司演じる地面師集団の元締め・ハリソン山中の右腕として十分な報酬を得るようになってからも、(2010年代後半という時代設定を考えると)約20年落ちの古い軽自動車に乗っているのはなぜだろうか。詐欺師としては、新しくて派手なクルマで目立ちたくないからなのだろうか。それに、世間に紛れるなら、もっとありふれたクルマがいくらでもあるはずだ。辛い過去を抱えて生きる辻本の唯一の趣味が、オフロード走行とかソロキャンプだったという可能性もないわけではないが……。ちなみに、この世代のジムニーは今や、わざわざ選んで乗るレベルの希少性となっている。



辻本のジムニー、見た目は古ぼけているがノーマルとは限らない。というのも、エクステリアこそ定番カスタマイズと言えるルーフキャリアやサイドアンダーガードを装着している程度だが、このクルマ、意外なくらい速いのだ。尾行対象がタクシーで出かけると、スキール音を発しながら何台ものクルマを追い越しつつ追従したりする。とても大昔のジムニーの挙動とは思えない。もしかすると、仕事柄、逃げたり追いかけたりするケースがよくあるため、エンジンを改造し、動力性能を高めているのかもしれない……などと考えながら観てしまう。



映画やドラマにおけるクルマは、ファッションやアクセサリーとともに登場人物にキャラクターをもたせるのに不可欠な重要アイテムだ。映画やNetflixなどのOTTは、地上波のドラマのようにクルマのメーカーを特定できないようエンブレムを隠したり、架空のものに変更したりしないので、物語に没入しやすく、登場人物に思いを馳せやすい。海外作品でなじみのない車種を目にするのも楽しい。



それにしても、この作品で血も涙もない言動で視聴者を震え上がらせたハリソン山中は普段、何に乗っているのだろうか。気になる。



塩見智 しおみさとし 1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社後、2000年には『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』編集部員となり、2009年には同誌編集長に就任。2011年からはフリーの編集者/ライターとしてWebや自動車専門誌などに執筆している。YouTubeチャンネル「シオミサトシのソルトンTV」でも活動中。 この著者の記事一覧はこちら(塩見智)