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「メダリスト」つるまいかだが講談社漫画賞への熱い思い明かす、春瀬なつみも登壇

2024年07月31日 21:41  コミックナタリー

コミックナタリー

第48回講談社漫画賞の贈呈式の様子。
第48回講談社漫画賞の贈呈式が、本日7月31日に東京・帝国ホテルにて行われた。今年は少年部門を山田鐘人原作、アベツカサ作画の「葬送のフリーレン」、少女部門をいちのへ瑠美「きみの横顔を見ていた」、総合部門をつるまいかだ「メダリスト」がそれぞれ受賞した。

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選考委員を代表し、まずは「全部門で私が1位に推した作品ばかりが受賞しました」と語る海野つなみが選考報告を行った。少年部門で最終選考に残ったのは「葬送のフリーレン」と荒川弘の「黄泉のツガイ」だったと明かした海野は、「勇者が亡くなってから始まる旅という物語の斬新さ、絵の素晴らしさ、大きな話と小さな話の組み込み方など、バランスのよさと読後感のよさが評価された」と「フリーレン」が受賞した理由を語る。さらに「選ぶ側としては紙一重」と続けた海野は、「受賞は作品にとっても作家さんにとっても、周りの方々にとっても大きいこと」と、改めて受賞の重みを実感したと語った。

少女部門を受賞した「きみの横顔を見ていた」について、海野は「私が少女マンガに求めているものがすべて入っている」と絶賛。「片思いの結末がどうなるにせよ、感情の揺れ動くさまを丁寧に描いてほしい。それこそが少女マンガの持つ強さ」と語る。少女部門で最後まで残ったのは「きみの横顔を見ていた」と森下Suuの「ゆびさきと恋々」。「きみの横顔を見ていた」を推していたのは海野と安藤なつみと幸村誠の3人で、残りの男性作家5人は「ゆびさきと恋々」を支持していたため、「ゆびさきと恋々」が勝つかと思われたが、「少女部門なので、女性2人が強く推している作品を尊重すべきではないか」という意見があがり「きみの横顔を見ていた」に決定したという。さらに海野は「女性が2人で男性が5人では偏ってるというか、もし人数が逆だったら違う受賞作になっていたのでは?」と選考過程を振り返り、「私が参加した当初は女性が3人いたので、人数を見直してもらいたい」とも語った。

「メダリスト」とうめざわしゅんの「ダーウィン事変」が競い合ったという総合部門は、ジャンルがバラバラすぎて選ぶのが大変だったと回想する海野。また今回はナガノの「ちいかわ」も候補に入り、選考委員たちも「『ちいかわ』は反則じゃないか」と揉めたという。そんな中で受賞した「メダリスト」については、「アニメ化が決まってるけど、アニメがマンガを超えられないのでは」と述べた選考委員もいたと振り返り、「それだけマンガとしての魅力がずば抜けている。映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観たときのような気持ちよさを感じました」と、マンガの素晴らしさを再確認できる作品だったと受賞の理由を述べた。

そして各部門の贈呈式が行われる。少年部門を受賞した「葬送のフリーレン」は、勇者とそのパーティにより魔王が倒された“その後”の世界を舞台に、千年以上生きる魔法使いのフリーレンと、彼女が新たに出会う人々の旅路を描く物語。2020年より週刊少年サンデー(小学館)で連載されており、2023年から2024年にかけてTVアニメが放送された。山田とアベに代わり、贈呈式にはサンデーの編集長・大嶋一範氏が挨拶を行った。大嶋編集長は「フリーレン」のネームが担当編集から提出された2019年を振り返り、「担当との打ち合わせでは、勇者と魔王のギャグもののはずでしたが、あがってきたネームは、エルフの魔法使いが人間との死別を経て、生きる時間軸の違う種族たちを描く物語でした」と語る。そして「山田先生、アベ先生の1ページ1コマ単位のこだわりが広がり、本日歴史あるマンガ賞をいただけたこと、深く御礼申し上げます」と受賞への感謝を述べた。

続いて少女部門を受賞したいちのへが壇上へ。「きみの横顔を見ていた」は、高校1年生の男女4人を主人公に描く青春群像劇で、別冊フレンド(講談社)で連載されている。まずは「きみの横顔を見ていた」が立ち上がった当時、別冊フレンドの編集長を務めていた森田眞氏が登壇し、いちのへへのお祝いの言葉を述べる。さらに「けっこう長いです」と前置きをしながら、いちのへの歴代担当編集者からのコメントを読み上げると、「4人とも僕が指定した文字数をオーバーしていました」と来場者の笑いを誘いながらも、「これからもたくさんマンガを描いてください。これからもいちのへ先生の横顔を見ています」と作品のタイトルに準えてメッセージを送った。

そんな森田氏の言葉を聞いていたいちのへは、感謝の気持ちを文章にしてきたと手紙を取り出し、まずは本日会場に足を運んでいる関係者への感謝を語った。「普段はSkypeのチャットで指定のやりとりするだけで、なかなか世間話をすることもないんですけど、原稿中にいてくださるだけで心強く思ってます」と、マンガ家仲間や連載を目指す新人マンガ家など、作画の手伝いをしてくれる人々へ呼びかける。さらに「同じ雑誌でずっと連載されている別冊フレンドの作家の皆様。同世代の方がデビューから活躍しているのを間近に見ているだけで、自分の気持ちの支えの1つになってます」と感謝の気持ちを込めた。

さらに「商業誌でマンガを描く人間として、正しいことではないという自覚はあるんですけども、『きみ横』に関しては伝えたいメッセージとか強いものはほとんどなくて」と、自分が読みたいマンガを描くこと、それが面白いと信じたいという思いが原動力になっていたと明かす。しかし今回の受賞をきっかけに違う気持ちが生まれてきたと語り、「今まで繊細な作風であるがゆえに苦しんでいた若い少女マンガ家さんたちを見てきたので、そういう作家さんたちにこういう作品でも評価をいただけることがあるんだと知ってもらって、そういう作家さんたちにつなぐことができたら」と、少女マンガを描くマンガ家たちへの思いも伝えた。

総合部門を受賞した「メダリスト」は、人生をフィギュアスケートに捧げてきた青年・明浦路司と、彼に才能を見出された少女・結束いのりを描くフィギュアスケートもの。2025年1月にTVアニメの放送が控えている同作の贈呈式には、TVアニメでヒロインのいのりを演じる春瀬なつみが駆けつけた。「メダリスト」を描く以前から春瀬のファンだったつるまに対し、春瀬はつるまからもらった手紙に書かれていたあるエピソードを披露する。「最後のお手紙に会社を辞めてマンガ家になると書かれていて。『春瀬さんに主人公の声を演じてもらうのが夢です』とありました」と語った春瀬は、その後、月刊アフタヌーン(講談社)で始まった「メダリスト」を読み、「この子の人生を演じられたら、どんなに苦しく幸せだろうと。私の夢になりました」と回想する。そして「これからもいのりちゃんと、いのりちゃんを生み出してくれたつるま先生に恩返しできるようにがんばっていきます。来年のアニメをきっかけに『メダリスト』のよさがもっとたくさんの人に届いて、もっと愛されて勇気を与えていく作品になることが私の夢です」と締め括った。

そんな春瀬の言葉を目に涙を浮かべながら聞いていたつるまは、涙をぬぐいながらマイクの前に立つ。まずは「メダリスト」の制作について振り返ったつるまは、「毎回ネームを描くために講談社に来ています。それは編集さんのそばでないとネームができないからです」と、ネームと向き合う作業の苦しさを明かす。さらにマンガ家として自信がなくなったときに、アフタヌーン編集部に飾ってあるという講談社漫画賞を受賞した「ブルーピリオド」と「スキップとローファー」のパネルを見て、「メダリスト」もそこに並べるような作品になりたいと気持ちを奮い立たせていたと述べた。そんな講談社漫画賞の受賞に対する並並ならぬ熱い思いを明かしたつるまは、「だから今ここに立っているのが本当にうれしいです」と改めて受賞の喜びを語るとともに、「金井編集長、『スキップとローファー』の隣にパネルを飾ってくださいね」とアピールした。

■ 第48回講談社漫画賞
□ 少年部門
山田鐘人・アベツカサ「葬送のフリーレン」(週刊少年サンデー / 小学館)

□ 少女部門
いちのへ瑠美「きみの横顔を見ていた」(別冊フレンド / 講談社)

□ 総合部門
つるまいかだ「メダリスト」(月刊アフタヌーン / 講談社)