夏場に注意したい「食中毒」。年間通じて発生しているが、高温多湿なこの時期は特に「細菌」に注意が必要だ。今回は新潟市保健所食の安全推進課の福島恵美子さんに、夏の食中毒を防ぐためのポイントを教えてもらった。(取材・文:箕輪 健伸)
食中毒の原因はさまざまだが……。
食中毒にならないためには、何に気を付けたらいいのだろうか?
「原因となる細菌やウイルスが付いている食品を食べることによって、嘔吐や下痢などの症状が引き起こされるのが食中毒です。細菌やウイルスが主な原因ですが、それ以外にも魚で言えばアニサキスとか、毒キノコ、春先だとニラと間違えてスイセンを食べて病院に運ばれることもありますね。こういったものも含めて“食中毒の原因”と言われています」
このように原因は多岐にわたるため、食中毒は年間を通じて発生している。ただ、夏場に特に多くなるのが「細菌性」の食中毒だ。
「細菌は生き物で、それぞれ好む温度があります。食中毒の原因となる細菌の多くは10~60℃で増殖します。その中でも30~45℃は最も増殖しやすくなります。だから、高温多湿の日本の夏は特に、細菌性食中毒に注意が必要なのです」
原則は“つけない”“増やさない”“やっつける”
夏場の食中毒を防ぐためには、どのようなポイントに注意したらいいのだろうか。
「“細菌性食中毒予防の3原則”をご存知でしょうか。それは、原因となる細菌を“つけない”“増やさない”“やっつける”です。
1つ目“つけない”のポイントは、とにかくしっかり手を洗うことです。手には食中毒の原因となるさまざまな細菌が付着しています。それが食品や食材に付かないように調理前には必ず手を洗いましょう。また、生の肉や魚にもさまざまな細菌が付着していますので、それらを扱う前後にもよく手を洗うようにしてください。
2つ目“増やさない”のポイントは、食品や食材を細菌が増えやすい温度にしないことです。細菌の多くは、冷蔵庫の設定温度の10℃以下で増殖スピードが急激に落ち、冷凍庫の温度のマイナス15℃では増殖を停止します。食品・食材を、細菌が増えやすい温度帯に置く時間はできるだけ短くして、細菌を増やさないようにしましょう。
たとえば、要冷蔵の食材は帰宅後すぐに冷蔵庫に入れる、調理したものはなるべく早く食べて、放置しないことが重要になってきます」
3つ目“やっつける”は、細菌を加熱して死滅させること。
「ほとんどの細菌は加熱によって死滅するので、肉はしっかりと中まで焼くことが重要です。中心部を75℃で1分以上の加熱を目安にしてください。腸管出血性大腸菌(O157)による食中毒がよくニュースになりますが、この原因の多くは肉の加熱不足によるものです」
確かに焼肉やステーキの店でO157が発生したというニュースは時折目にする。過去にはO157で死亡した人もいるだけに、肉の焼き方には注意したいところだ。
ここで注意したいのは、”やっつける”が通用しないケースもあること。たとえばカレーのような煮込み料理でも、扱い方によっては細菌が繁殖する危険性があるという。なぜだろうか?
「それは加熱調理で死なない細菌がいるからです。たとえば、カレーの材料になる肉や魚介類、野菜に付いているウェルシュ菌は、通常の加熱調理では死滅しません。ウェルシュ菌対策は”増殖させない”ことが重要となります」
「カレーを冷やすときは、できるだけ早く冷えるように、小分けにして冷蔵庫で保存してください。大鍋で作ったカレーをそのまま冷蔵庫に入れると、中心部まで冷えるのに時間がかかってしまいます。表面は冷めたように見えても、中心部は温かい状態が長く続き、その間に細菌が増殖してしまう可能性があるのです」
菌が増殖しても味やにおいに変化なし!
もう一つ、意外な点は「においや味、見た目の変化がなくても細菌性食中毒は起きる」ことだ。
「食中毒の原因となる細菌の多くは、味もにおいもありません。そのため、細菌がどれだけ増殖していても、味やにおい、見た目の変化はほとんどありません。腐っているかどうかは、においで分かります。しかし、細菌性食中毒の場合、味やにおいで判別することは困難と言えるでしょう」
こうした話を聞くと「夏場のお弁当」は、特にリスクが高いように思える。お弁当による食中毒を防ぐコツはあるのだろうか?
「お弁当で食中毒を起こさないためには、細菌を増やさないための工夫が必要になってきます。たとえば、お弁当を詰める前に食材をしっかりと冷ます。また、保冷剤などでお弁当を低温に保つことも大切なポイントです。保冷剤+保冷バッグの中に、お弁当を入れることをおすすめします。また、食べるタイミングも重要です。お昼になったらすぐに食べること。忙しくて夕方まで食べる時間がなかった場合は、もったいないですが食べない方が無難です」
せっかくのお弁当を無駄にするのはもったいない。ただでさえ体調を崩しやすい夏場、忙しくても「食事優先」で過ごすぐらいが丁度いいかもしれない。