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NECの戦略から考察 DXを成功に導く「シナリオ作り」の勘所とは?

2024年07月30日 07:21  ITmediaエンタープライズ

ITmediaエンタープライズ

NEC BluStellar事業推進部門シニアディレクターの岡田 勲氏

 企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)をうまく進めるためには、目指す姿を描き、それに向けてDXを進めるための「シナリオ作り」が不可欠だ。そうしたアプローチは従来のデジタル化でも重視されてきたが、DXは最終的に自社がデジタル企業に変わるために、DX支援ベンダーなどから知恵を借りながらも将来を見据えてしっかりと取り組む必要がある。


NECの戦略から考察 DXを成功に導く「シナリオ作り」の勘所とは?


 そのシナリオ作りに必要な「知恵」はどうあるべきか。NECはDX支援ベンダーとしてソリューションの整備に注力している。今回はその内容に注目し、DXのシナリオ作りのあるべき姿を考察する。


●NECのDX事業戦略の要となる「Scenario」(シナリオ)とは


 NECからシナリオ作りの話を聞いたのは、同社が2024年7月25日に開催した「DXの動向とBluStellar(ブルーステラ)による価値提供」と題した記者およびアナリスト向けの説明会だ。同社 BluStellar事業推進部門シニアディレクターの岡田 勲氏が説明した。


 「BluStellar」は、NECが2024年5月30日に発表したDX事業ブランドだ。同日開催された記者会見では同社 社長兼CEOの森田隆之氏が説明役を担い、新ブランドとして大々的に打ち出した。その会見の様子やBluStellarの概要については、2024年6月3日掲載の本連載記事「NECの取り組みから探る『ユーザー企業がDXを成功に導く3つの要件』」(注)をご覧いただくとして、今回はその流れを汲んだ2024年7月25日の説明会で聞いたBluStellarの中の「Scenario」と呼ぶソリューションに着目した。以下、岡田氏の説明を基にScenarioについて紹介する。


 BluStellarは、顧客企業のDX実現に向けた構想を描く「アジェンダ」、それを実現するためのオファリングや商材を意味する「テクノロジー」、人材育成などの取り組みを指す「プログラム」といった3つのソリューション領域から構成されている(図1)。


 Scenarioはアジェンダの領域を担うもので、「お客さまが抱える課題を解決するための価値創造シナリオ」だと言う。岡田氏によると、「Scenarioはアジェンダに対して目指すべきゴールを想定し、それに向かってNECが提供するコンサルティングや製品・サービス、オファリング、インテグレーションを組み合わせてお客さまの価値を創出できるように『型化』したもの」とのことだ。この後、同氏はScenarioについて「型化」という言葉を幾度も使っていた。筆者はこれを「ベストプラクティス」(最良の事例)と受け止めた(図2)。


 肝心なのは、Scenarioのメリットだ。岡田氏は「お客さま視点でのScenarioのメリット」として次の3つを挙げた。


1. 経営課題に対する戦略的集中と事業成長: 経営課題に対して目指すべき姿と具体的な課題解決策のロードマップが明確となり、戦略的なリソースの集中と事業成長が可能になる


2. 事業拡大・競争力強化: 実績のあるシナリオを基に事業環境や市場動向の変化のスピードに対応しながら課題解決に取り組めることで、事業拡大・競争力強化につながる


3. 実績とノウハウを持つパートナーのサポート: コンサルティングや製品・サービス、システム構築・運用の実績とノウハウを持ち、戦略立案から実行まで責任の持てるパートナーのサポートがあることで、安心して課題解決や事業拡大に取り組むことが可能になる


●DXのシナリオ作りは、外の知恵を借りつつも自社が主導せよ


 Scenarioとオファリングおよび製品・サービスとの関係性は、三層構造からなる(図3)。下層に位置する製品・サービスを顧客ニーズに応じて組み合わせたものが、中層に位置するオファリングだ。オファリングにはIT構築系やコンサルティング系、運用面でのリカーリング(継続課金)系などがあり、それらを顧客企業の経営課題の解決に向けたDXの取り組みシナリオに適用していく形で、上層のScenarioを構成するイメージだ。


 ただ、この三層構造はあくまでもScenarioの構成を示したもので、製品・サービスやオファリングを顧客ニーズに応じて提供する形は、従来から変わらない。


 Scenarioの内容を具体的に示したのが、図4だ。左側に提示された顧客課題に対し、Scenarioのグループと個別の名称が付けられた内容が記されている。「社会とビジネスのイノベーション」という課題に対しては、個別のScenarioとして「データ利活用によるデータドリブン経営の実現」「Digital IDによる安全で快適な新しい体験の提供」などを用意している。


 岡田氏によると、「Scenarioについては、現時点で5つのアジェンダに対して8つの取り組みを整備しており、今後もお客さまのニーズに応じて拡充する。Scenarioの事業推進についても現在はおよそ400人の専門組織が中心となって進めているが、今後は各業種の事業部門でもScenario作りを担う体制を整備する」とのことだ。


 今回のScenarioの話は、NECの顧客に限らず、DXに取り組む企業にとって大いに参考になるだろう。とりわけ筆者がScenarioに着目したのは、冒頭で述べたように、DXをうまく進めるためには「目指す姿を描き、それに向けてDXを進める」ためのシナリオ作りが不可欠だからだ。


 その意味では、図4を見て感じることがあった。それは、DXの「D」はNECのようなデジタル技術のスペシャリストであるベンダーから支援を受けるとしても、ビジネスやマネジメントの「X」の核心部分は、DXに取り組む当該企業でなければ分からないし、ましてやそこを変革するのはその企業にしかできない。従って、例えばNECの知恵を借りるとしても、DXのシナリオは自社で主導するという強い覚悟と姿勢、そして実行が必要だと筆者は考えている。


 もう一つ気になるのは、さまざまな企業におけるDXの取り組みを取材する中で、その進捗とともに「期待ほど効果は出ていない」という声を耳にすることが増えているように感じる点だ。関連の調査レポートを見ても、DXの着手率は上がってきているが、進捗や効果についてはまだまだ途上、むしろ苦労しているという印象が強い。筆者は効果を出すための勘所は、まさしくシナリオ作りにあると見ている。今回のNECの話が、多くの企業のDX推進を後押しすることを期待したい。


(注)「NECの取り組みから探る『ユーザー企業がDXを成功に導く3つの要件』」


著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。