トップへ

【F1第14戦決勝の要点】メルセデスにとってあり得ない選択肢だった1ストップ。賭けを提案したラッセル

2024年07月29日 02:10  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

2024年F1第14戦ベルギーGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)
 2024年F1第14戦ベルギーGPは近年稀に見る、超僅差の優勝争いだった。勝者となったジョージ・ラッセル(メルセデス)と2位ルイス・ハミルトン(メルセデス)との差は0.526秒。3位のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)もハミルトンから0.647秒差という僅差でチェッカーを受けた。

 シルバーアローの復活ぶりがワン・ツー・フィニッシュという結果で現れた一戦だった。しかし、スタート直前に誰がこの結果を予想できただろう。

 ドライ路面で行われた金曜日のフリー走行2回目(FP2)において、メルセデス勢はラッセルが6番手、ハミルトンが10番手と、FP2最速だったランド・ノリス(マクラーレン)に1秒以上の差をつけられており、レッドブル、フェラーリにも及ばなかった。ロングランもタイヤのデグラデーション(性能劣化)が大きく、ハミルトンは「ひどい1日だった」と吐き捨てた。

 雨の予選でこそハミルトンは3番グリッドを獲得したが、すぐ後ろにはマクラーレンのピアストリとノリスが控えていた。初日のロングランのペースやタイヤのデグラデーション状況からすれば、ハミルトンはレース序盤にマクラーレンの2台にあっさりかわされる可能性は十分にあった。

 ところが、ハミルトンはレース序盤にフロントロウ2番手スタートのセルジオ・ペレス(レッドブル)、ポールシッターのシャルル・ルクレール(フェラーリ)を次々に攻略。早くも3周目に首位に立つことになった。

 マクラーレンは軽めのダウンフォースセッティングが裏目に出たのか、初日の圧倒的な速さは影を潜めていた。この時点でラッセルは5番手。それでもハミルトンが2回目のピットストップで一時的に6番手に後退した27周目にはピアストリに次ぐ2番手まで上がっていた。

 ここでラッセルは、「1ストップをやってみよう」と、チームに提案した。この時点で、路面温度は43.5度。直射日光が照り付けていたとはいえ、スパ・フランコルシャンでこれほどの高温は異例だ。ましてや初日のメルセデスは、タイヤのデグラデーションにかなり苦しんでいた。普通なら、あり得ない選択肢だ。

 実際、チェッカー後に行われたヒーローインタビューでラッセルは「レース直前のミーティングでは、(1ストップ戦略は)話にも出なかった」と言った。さらに、「でも金曜の夜からセッティングを変更して、レースではどんどんタイヤが良くなっているのがわかったんだ」とも話した。

 とはいえ、ラッセル自身1ストップが100パーセント成功する確信はなかっただろう。しかし、ライバルたちに遅れて2回目のピットに入れば、ハミルトンに勝利を明け渡すだけでなく、ピアストリやルクレールにもアンダーカットされ、最高でも4位が精一杯だ。

 トラクション性能の極端に落ちたタイヤでは、通常はターン1の立ち上がりからケメルストレートエンドのレ・コームまでの約1.9kmのエンジン全開区間で抜かれてしまう。それでもラッセルは限界に近いハードタイヤでハミルトンの猛攻をしのぎ続け、フェルスタッペン以外では唯一の今季2勝目を挙げたドライバーとなったのだった。

※追記:レース後車検にてラッセルの63号車の車両重量が技術レギュレーションで定められた重量を下回っていたことが確認され、ラッセルに失格の裁定が下った。