「電人ファウスト」などで知られる上山徹郎の描き下ろし新作「ティコの冒険」の発刊プロジェクトが、クラウドファンディングサービス・うぶごえで本日7月26日にスタートした。
【大きな画像をもっと見る】これは豪華本に特化したマンガ専門の出版社・MANGATRIXによる、描き下ろし新作マンガ支援のクラウドファンディング第2弾。第1弾として2023年12月から行われた、山本貴嗣の描き下ろし新作「鉄腕魔女伝説 紅のベニー」発刊のためのクラウドファンディングでは、目標額の約2倍の金額が集まっていた。
今回、新たに全1巻で発刊される「ティコの冒険」は、遠くない未来の地球に月から転校してきた少女ティコが、見知らぬ土地で、人と出会い友情を育み、 動物と触れ合い、心を通わす体験を綴った物語。目標金額は300万円に設定されており、 9月29日23時59分まで募集を受け付ける。支援者には返礼品として、「ティコの冒険」印刷版などを用意。150人限定の直筆サイン入りプリント色紙と「ティコの冒険」手渡し会への招待、さらにPDF責了校正紙のセットや、直筆サイン入り複製原画と作品証明書2種などが贈られる。
■ 編集者コメント
お待たせしました!! 上山徹郎先生、待望の最新作です。上山先生初の、全原稿デジタル作画の作品です。新作支援プロジェクト第一弾となる、山本貴嗣先生の「紅のベニー」発刊プロジェクトに続く、第二弾企画として、上山徹郎先生の「ティコの冒険」をご紹介いたします。
スタートは絵コンテを見せていただいた 2020年12月でした。昨年12月に最終5話の完成原稿をいただいたので、作画に丸三年かかった大仕事となりました。上山先生、本当にお疲れ様でした。驚かれる方も多いと思いますが、フランスのバンド・デシネでは、48~64Pくらいの作品を1年かけて1冊の単行本に仕上げることは珍しくありません。大判やハードカバーだったり、オールカラーだったり、本の仕様も凝っているものが多いのも特徴です。雑誌連載が中心の日本ではモノクロ主体、本のサイズもコンパクトですが、描き下ろしが一般的な海外では、作品作りから本のスタイルまで、かなり異なるわけです。上山先生や弊社の方向性は、日本では珍しいかもしれませんが、これは量産指向でないことが影響しているのだと思います。
すでにカラー原稿はデジタル作画をされていましたが、今回からモノクロ原稿もアナログからデジタルに完全移行です。初の試みですので、試行錯誤を繰り返しながらの作業でご苦労されたでしょうし、おひとりで描かれているわけですから、時間がかかるのは当然でした。こちらも急かすつもりは毛頭ありませんでしたので、催促がましい連絡は控えるようにしました。先生もメールで「長かった執筆に一区切りついてホッとしました」と書かれていました。DLした原稿に目を通しながら、待った甲斐があった出来栄えの作品に感謝の思いしかありません。昔なら、目の前の先生にねぎらいの言葉をかけたい場面ですが、リモートでの原稿の受け渡しには、未だに慣れません。
日頃から「ファンのいるところが作品を送り出す場になる。これからは世界の漫画ファンに作品を届けなくちゃいけない」と偉そうなことを言っていた私に、絵コンテを手渡された先生が「気をつけて読んでください」と、一言声をかけられました。何かトラップが隠されているのかと身構えた私は、次の瞬間に目の前の原稿が左から右へ読み進む、西洋開きの進行になっていることに気づき愕然としました。左右逆版になることを嫌って、翻訳を断る作家までいた時代もありましたが、今は海外でも日本の漫画は、国内と同じ、右綴じで右から左へ読み進む形が受け入れられているので、これには意表をつかれました。世界市場に向けて作品を作るにしても、わざわざ作家本人が西洋開きの漫画にチャレンジすることは予測していませんでした。たしかにセリフが縦組みから欧文の横組みになった場合は、左から右に読み進めるのが自然ですので、コマの配置もS字状でなく、Z字状に読み進む配置の方が理にかなっているのです。セリフも、初めから横組みで書かれていました。面倒だろうからとその問題はパスしていた私は、上山先生の本気に気付かされたわけです。
残念なことですが、上山先生の作品は、今まで海外ではほとんど紹介されてきませんでした。アメリカでも「電人ファウスト」が翻訳されただけで、代表作の「LAMPO」も未翻訳のままで、他の作品も台湾や韓国でしか翻訳されていないはずです。「ティコの冒険」は、日本語版と同時に英語翻訳版も電子書籍化する計画ですので、そのことがネームに着手された段階から先生の念頭にあったのだと思います。単行本一冊で完結する作品ですから、実験的な意味合いが大きいかもしれませんが、作家も新たな一歩を踏み出そうとする意欲の現れとご理解ください。
海外の漫画を読み慣れていない方は、最初は戸惑われるかもしれません。しかしわかって読めば、意外とサクサク読み進められますからご安心ください。上山先生は、画像データのほかに、テキスト付きのデータも作られ、先生ご自身が選ばれたフォントを参考にして組版(文字組み)してほしいというリクエストまでありました。書き文字は作家のデザインセンスが感じられる部分ですので、翻訳時にもオリジナルの書き文字を残し、翻訳を付加する方式にしていますが、絵の一部を占める吹き出しの中のテキスト部分だけは、編集側のルールで書体を決めて使っていました。ご要望を受けて、今回の日本語版では印刷版も電子版も、先生の使われているフォントに近似の書体にしてあります。完全に同じものにできないのはフォントも著作物ですので、商用利用可のフォントであっても海外では許諾範囲外だったりすることも考慮しました。
先生にもご参加いただいて翻訳チームの英訳をチェックしながら作業を進めています。微妙なニュアンスの差や英語では表現できない日本語の多様性に気付かされたりして、とても勉強になりました。海外の出版社任せでは、こういった経験はできなかったと思います。
翻訳版だけでなく、日本語版も海外の電子書店で販売します。以前海外の漫画ファンのヒアリングをした際に、日本語の勉強になるので、海外でも翻訳版と同時に日本語版も販売して欲しいと要望されたことが記憶の片隅にありました。海外のファンが、アニメで聞き覚えたという日本語を楽しげに喋る様子を何度も目にしていましたから、今度は「日本語で何が書かれているのか知りたい」という声に応えた形です。同様に国内でも英語版を同時発売します。漫画は言葉の壁を越えるツールになると確信しています。面白い時代になりました。