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ギャンブル依存症の「自死遺族」が自助グループ立ち上げ「悲しい思いする人が増えないように」

2024年07月26日 10:10  弁護士ドットコム

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ギャンブル依存症で自殺した人たちの遺族がこのほど、自助グループ「ギャンブル依存症自死遺族会」を立ち上げた。これまでも自死遺族の自助グループは全国にあったが、ギャンブル依存症に絞った団体は初めて。厚生労働省・依存症民間団体支援事業の一つで、7月20日に設立セミナーが東京都内で開かれ、代表をつとめる神原充代さんが講演した。(ライター・渋井哲也)


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●長男は電車に飛び込んで亡くなった

神原さんの長男は2022年4月3日、29歳の若さで亡くなった。



この日、埼玉県警から神原さんに電話があり、長男が事故か自殺で亡くなったことを直感したという。すぐに二男に連絡して、大阪から埼玉に向かった。



長男の死因は轢死だった。電車に飛び込んで亡くなったので、神原さんは「最後の姿」に対面できず、遺骨となった翌日に会えたそうだ。



「亡くなった姿を見ていないので、今でもどこかで生きているんじゃないか、どこかで元気に生きているんじゃないか、ギャンブルしているんじゃないかと思っています」



神原さんは、自分の両親、つまり長男の祖父母に直接会って伝えるかどうか迷った。埼玉から遺骨を持って帰りながら考えていると、二男が「俺が言う」と代わってくれたという。



●なかなか「居場所」を見つけられなかった

「お金を渡していれば。友だちを作ることができていれば。私がついていれば。施設に行かせた私が悪かったんじゃないか。一人暮らしをさせたのが悪かったんじゃないか。連絡を取っていれば。もうこればっかり毎日考えていました」



大阪に戻ってからも苦しんだ神原さんだが、話を聞いてくれる友人がいたので、少しずつ元気を取り戻した。



しかし、もっと楽になりたいと期待して、ギャンブルの問題の影響を受けた家族や友人の自助グループや自死遺族の会に行ってみたところ、逆に辛くなって「私の居場所はここじゃない」と思ったという。



その後、仕事に没頭して、長男のことを忘れる時間が長くなった。生活も落ち着いて、再び自助グループへ行ったが、やはり涙が溢れた。ある仲間は「無理して来なくていい」ということを言ってくれたという。



「私は救われました。仲間に恵まれていました。みんなが私のことを気にしてくれ、長男の命日には自宅まで手を合わせに来てくれました。本当にうれしかった」



●「悲しい思いをする人が増えないようにしたい」

そんな中で、ギャンブル依存症自死遺族会の設立の話が浮上した。



「私の経験が誰かの役に立てるのであればいいと思いました。(ギャンブル依存症の家族が)死んでしまうと、こんな悲しい思いをする。そういう人が増えないようにしたい。そして、私自身が話せる場がほしいと思いました。



何よりもギャンブル依存症で自死する人がいるということを伝えたい。そして、ギャンブル依存症で自死する人をなくしたい、撲滅したいという思いが一番にあります。



正しい知識を持てば、ギャンブル依存症は回復できます。しかし、死に至る病気でもあります。まずは当事者や家族も仲間につながってほしい。



恥ずかしいことではありません。隠さずに助けを求めてください。そして、仲間を信じて行動してください」



●専門家「依存症が自殺関連行動を引き起こす」



ところで、なぜギャンブル依存症が自殺に結びつくのかだろうか。精神科医の松本俊彦さんが設立セミナーの講演で解説した。



自死遺族に聞き取りをする「心理学的剖検」調査を松本さんたちがおこなったところ、自殺既遂者の21%がアルコールの問題を抱えていたことがわかったという。そのすべてが男性で、中高年の有職者だった。



中には、返済困難な借金や事業の失敗、失業、ギャンブルの問題を抱えていた人もいた。あるいは、うつ病の問題が関連して、それらが男性の自殺の要素になっているそうだ。



また、松本さんの臨床経験によると、依存症によって借金や多重債務となり、職場で横領したり、失職したりすることで失踪につながるという。そのような中で、自殺をくわだてるパターンがあった。



また、子ども時代の暴力被害によるフラッシュバックがあり、その中で死にたい気持ちが湧き、それらの感情を紛らわせるためにギャンブルにおぼれて、経済的な困窮が訪れて、やはり自殺をくわだてるパターンがあったという。



これらを踏まえて、松本さんは下記のように分析して、依存症者本人だけでなく家族の自殺リスクも高めると注意を呼びかけている。



(1)依存症が衝動性を高め、直接的に自殺関連行動を引き起こす
(2)依存症によって人間関係が破綻するなどで孤立を深め、間接的に自殺を引き起こす
(3)依存症によって短期的には自殺を抑止するが、長期的には自殺リスクを高める



●タレントの高知東生さんも登壇した



設立イベントのあとにおこなわれたパネルディスカッションでは、タレントの高知東生さんも登壇した。高知さんは高校生の頃、母親が自殺している。



当時を振り返り、高知さんは「お袋が死んだあとも、その気持ちに触れないでいました。だから、そのときの出来事が第三者に起きているような感じで日々を過ごしていた」「何気ない、よかれと思う言葉が、そのたびに突き刺さり、苦しかった。感情にフタをし、なんでもないふりをして、高校を卒業すると喧嘩三昧になっていった」などと話した。



イベント終了後、筆者の取材に対して、神原さんはこう答えた。



「現在のメンバーは全国バラバラに住んでおり、今日初めてつながった人もいます。私自身、まずは話すことで楽になるという経験をしています。話していい場所の提供が一番です。



もちろん、ギャンブル依存症の当事者本人や家族も(考える会などに)繋がってもらい、死ななくていいようにしてほしい。それでも不幸にして自死した人の家族は、私たちにつながってほしいです」



現在、ギャンブル依存症自死遺族会のメンバーは6人。当面は、オンラインのミーティングで痛みや苦しみを共有したり、全国各地で設立セミナーを開いて体験を発表する。さらに相談窓口や法的なサポートもしていく。