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中国の“音楽特化スマホ”「MOONDROP MIAD01」を試す 重厚なサウンドに驚き、作り手のエゴを存分に感じた

2024年07月25日 14:11  ITmedia Mobile

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ディスプレイは6.8型のOLEDパネルを採用。解像度はフルHD+とスマートフォンとしては標準的な構成だ

 市場にはさまざまなスマートフォンが存在するが、中には個性的な方面に差別化を図った製品も存在する。今回は「音」に特化したスマートフォンとして注目を集める「MOONDROP MIAD01」をご紹介したい。なお、今回は電波法第103条の6の解釈のもと「海外で開通した携帯電話」を日本に持ち込んで確認を行った。


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●水月雨から初めてのスマートフォン 日本での発売もアナウンス


 MIAD01は水月雨(MOONDROP:すいげつあめ)のブランドで製品を展開する中国の成都水月雨科技有限公司が発売したスマートフォンだ。同社はイヤフォンやヘッドフォンを主に展開するメーカーで、特徴的なサウンドかつコストパフォーマンスに優れる製品群で日本のファンも多い。近年ではスマートフォン向けのスティック型DACや完全ワイヤレスイヤフォンも展開している。


 そんなメーカーが初めての音楽プレーヤーを発売すると思いきや、ふたを開けたらスマートフォンだったから驚きだ。既に日本向け公式X(旧:Twitter)が技適をはじめとした各種認証手続きを行っていることを公表しており、価格や発売時期は未定ながら、日本での発売もアナウンスされている。


 水月雨の商品といえば「美少女」が描かれたパッケージがおなじみだ。日本のアニメ文化からインスパイアされたもので、同社の大半の製品に描かれている。それはスマートフォンのMIAD01といえど例外ではない。


 まずはスマートフォンとして見てみよう。プロセッサはMediaTekのDimensity 7050を採用するミッドレンジだ。ゲームなどは厳しいが、ブラウジングやSNS閲覧程度なら快適に動作する。メモリは12GB、ストレージ容量は256GBと必要十分。音楽プレーヤーとしての側面が強いことから、microSDスロットも備える。


 通信周りはデュアルSIMに対応。5G規格にも対応しており、高速通信も可能だ。「ストリーミング対応音楽プレーヤー」という側面で評価すると、5G対応は初の製品となる。VoLTEにも対応しており、日本の通信キャリアでも問題なく利用できた。


 ディスプレイは6.8型のOLEDパネルを採用。120Hzのリフレッシュレート、1920HzのPWM調光に対応するなど、意外にも高性能な仕上がりだ。指紋認証も光学式の画面内指紋認証に対応している。


 一方で、LTPO(可変リフレッシュレート制御)に対応せず、現行トレンドではないエッジディスプレイを採用するなど、コスト削減のための選択と思われる部分もある。


 カメラは6400万画素の標準カメラと800万画素の超広角カメラを備える。インカメラは3200万画素とハードウェア的に不足はない。光学式の手ブレ補正は備えないが、価格を考えれば妥当だ。


 その一方で、メーカーが直々に「It's not good.but it works」(直訳で「よくはないが、使える」)と商品ページに記載するなど、あくまで機能として備えていて、他スマホメーカーほど注力はしていないようだ。


 この他の機能としてNFCやステレオスピーカーといった一般的なスマートフォンに備わる機能も備える。バッテリー容量は5000mAhとスマートフォンとしては標準的。33W PD規格の急速充電にも対応している。


 スマートフォンの本体は樹脂製だ。音質特化の製品ではノイズや共振を抑えるために、重厚な金属製のボディーとすることもあるが、この機種ではスマートフォンとしての利便性に主眼を置いたのか、軽量な本体に仕上げている。メーカーの公式情報に防水・防塵(じん)性能の記載はない。


本体のケースなどは付属しないが、メーカーがケースの3Dデータを配布しており、ユーザー自身が3Dプリンタなどを用いてケースを製作することができる。


 ソフトウェアは中国メーカーの機種としては珍しく、AOSP(Android オープンソース プロジェクト)のデザインがほぼそのまま採用されている。アイコンのテーマはレトロゲームからインスパイアされたドット調のものになっているが、通常のテーマに変更もできる。基本的な操作体験はGoogle Pixelなどに近く、日本語も選択できた。


 今回入手した中国向けモデルはGoogleサービスが利用できないが、公式サイトでも案内されている通り。別途ユーザーがGoogle Play Storeをダウンロードすることで、これらのサービスを利用することができる。端末自体にはもともとGoogleのコアサービスが入っているので、日本で販売される際は初回から有効になっていると思われる。


●専用DACと4.4mmバランス端子でスマホらしからぬ高品質サウンドに驚く


 MIAD01の最大の特徴は「音」にフォーカスしたスマートフォンであることだ。近年ではカメラやゲーム性能にフォーカス当てたスマートフォンが多く登場しているが、イヤフォンジャックのサウンドにフォーカスを当てたスマートフォンはかなり少ない。


 振り返ってみると、LGエレクトロニクスの一部スマートフォンやソニーのXperiaがこの部分にフォーカスしていた。「Quad DAC」を採用した「LG V60 ThinQ 5G」や、2024年6月に発売された「Xperia 1 VI」はイヤフォンジャックの音質をアピールしている数少ない端末だ。


 今回のMIAD01はそれらの端末を上回るポジションにいる。その理由は専用の高品質DACやアンプを備えること、4.4mmのバランス端子を備えることだ。


 専用のDACを持つ点は大きなアピールポイントだ。シーラス・ロジック製のモバイル向け上位のDACを採用し、音響回路部分にはノイズ対策のために金属製のシールドをかぶせている。このあたりはモバイル向けのスティック型DACを製造したノウハウが生きている。


 これが生きた結果か、スマホとしては優秀な132dbのダイナミックレンジを備える。アンプ部もアンバランス端子で2Vrms、バランス端子で4Vrmsの数値(いずれもメーカー実測値)を確保している。


音量も100段階で調整できるなど、音楽プレーヤーとしての側面もかなり高めた設計だ。これによって音量の取りにくい構成のイヤフォンやヘッドフォンも安定してドライブできる。


 音質面を強化したMIAD01のサウンドをチェックしてみよう。まずはアンバランス端子から聞いてみる。一聴して他のスマホとは異なる「格の差」を見せつけられる。スマートフォンのイヤフォンジャックでよく指摘される「薄っぺらさ」といったものを一切感じさせない、繊細かつ重厚なサウンドを体験できる。


 バランス端子では分離感、解像感が1段上がり、音の輪郭がハッキリしてくる。4.4mm端子は一般的なイヤフォンと異なる端子なので、別途対応する機種やケーブルなどを用意する必要がある。それでも、MIAD01の本領を発揮するのはこちらの端子であり、可能ならこちらの端子で常用したいものだ。


 もちろん、10万円を超えるような音楽プレーヤーやパワフルなポータブルヘッドフォンアンプを使用したサウンドには及ばない。好みの差もあると思うが、筆者としてはあくまでスマートフォンのカテゴリー内で群を抜いた存在と評価したい。


●MIAD 01は高音質スマホ「GRANBEAT」の後継モデルになれるか


 そんなMIAD 01は日本市場で特に高い関心を持たれている。その理由は、ポータブルオーディオが盛んな市場で水月雨の知名度が高いことはもちろん、過去にオンキヨーから「GRANBEAT」という音質特化スマホが存在していたことも大きい。


 GRANBEATは2.5mmのバランス端子を備え、専用設計の音響回路を備えたスマートフォンだ。本機種は2017年に発売され、高級音楽プレーヤーとスマートフォンを1つにできる製品として注目された。


 当時はMVNOでの取り扱いもあり、一定の層には売れたものの、会社の経営難などを理由に後継機種が現れることはなかった。年数の経過やVoLTEに非対応なことから継続利用も難しい機種のため、今なお後継機が待たれるスマートフォンの1つだ。


 また、現行のAndroidを採用した音楽プレーヤーを利用するユーザーからの関心も高い。これらの機種はノイズ対策や少数生産ゆえの調達価格の関係などから、今もなお性能の低いプロセッサを採用しているものが少なくない。


 Androidを採用して音楽ストリーミングサービス対応をアピールしていても、性能の低さから「動作はもっさりしていて、使いにくい」といった意見が数年前からあったのだ。


 GRANBEATの後継だけでなく、キビキビ動く性能の高い音楽プレーヤーの両者に白羽の矢が立ったのが、水月雨のMIAD01なのだ。バランス端子は主流の4.4mmを採用し、音質面でもスティック型DACを接続した端末と大きく変わらないレベルを達成している。


 5G通信に対応したことで、必然的にプロセッサにある程度の性能が確保されている点もストリーミングサービスを使う上ではうれしいところだ。


 過去のGRANBEATと比較しても、サウンドについては双方共にレベルが高い。MIAD01もここ数年で発売された機種の中では群を抜いて高いクオリティーだが、2017年に発売されたGRANBEATも引けを取らない。


 両者の違いはMIAD01が水月雨らしい女性ボーカルの帯域に重きを置いたチューニングに対して、GRANBEATは解像感を重視したオールラウンダーといったところ。ここは好みの問題もありそうだ。


 バランス端子は両者ともにスマートフォンらしからぬ高音質だが、3.5mmのアンバランスでは、GRANBEATの方に軍配が上がる。MIAD01も高品質だが、この機種はバランス端子とアンバランス端子は明確に音に差がある構成のため、よりピュアなオーディオに近かったモノはGRANBEATと評価したい。


 そのため、MIAD01はストリーミングアプリなどを主眼に置いた「高音質スマホ」に対し、スマホでありながら電波を発さない状態で使用する「スタンドアロンモード」といった音楽プレーヤーとしての側面が強いGRANBEATという印象だ。


 高音質なサウンドハードウェアを組み込んだスマホか、音楽プレーヤーとして設計したものにスマホ機能を付けたか。両者のコンセプトは根端から異なるものだと感じた次第だ。


●粗削り感もあるが「作り手のエゴ」を感じる個性派スマホ 2台目のスマホにもアリ


 ここまでスマートフォンと音質面をチェックしてきた。筆者としては、音楽プレーヤーとして見れば高く評価できる点があるものの、スマートフォンとしてはまだまだ「荒削り感」が否めない状態だった。


 音楽プレーヤーとしては、比較的軽量なボディーでかつ、サクサクと動作する点が魅力だ。OPPO Reno11 Aとほぼ同等の性能があるため、ストリーミングアプリの動作などで困ることはないだろう。


 音質周りで気になった点は、3.5mm端子のノイズだ。電源周りの設計が甘いのか、画面を操作した際やスリープから復帰した際にイヤフォンから「ジッ」というノイズが聞こえてくるのだ。


 このノイズはある程度の音量で音楽を再生していればほぼ気付かないレベルだが、無音の状態で画面をタップするとイヤフォンからかすかに聞こえてくる。接続したイヤフォンによっては気になる方もいることだろう。


 一方で4.4mm端子ではこのようなことは感じなかったため、マイク端子などが少なからず影響しているのではないかと考える。このあたりは電源部のノイズ対策までしっかりテコ入れしたGRANBEATの方が一枚上手な印象だ。


 スマートフォンとしては、ソフトウェア周りの荒削り感が目立つ。特に音声ミキサー周りがクセモノで、音楽再生中にSNSなどの通知が割り込むと通知音が爆音でイヤフォンと本体スピーカーから再生される。また、音楽再生中にカメラで撮影すると爆音のシャッター音がイヤフォンから再生されたりする。


 アピールポイントの4.4mm端子でのSRC回避(SRC=サンプルレートコンバーター※ダウンコーバートを回避すること)についても、現時点では一部ストリーミング配信アプリで利用できないようだ。このあたりはアップデートでの改善に期待したい。


 また、端末のビルドクオリティーも決して高いとはいえず、筆者の個体では製品出荷時から一部塗装がはげているといった点も確認できた。端末の耐久性も、一般的な樹脂筐体のスマートフォンに比べると劣る。同社初のスマホということもあって、OSアップデートも含めたサポート面も不透明だ。


 それでも、MIAD01は「音質特化」という他社のスマートフォンにはない圧倒的な個性を備えており、それを比較的リーズナブルな価格で抑えてきたことは評価したい。


 MIAD01は399ドル(約6万2000円)で販売されており、音楽プレーヤーとしては普及価格帯に位置する。スマートフォンとしてもミッドレンジの性能であり、同等クラスの製品にスティック型DACを内蔵したモノと考えれば納得の価格だ。


 正直、水月雨の規模を考えると、このスマートフォンは商業的な成功を狙うような製品ではないものと考える。特殊な設計ゆえに生産数も大手メーカーに比べたらかなり少なく、単価は高価になりやすい。画面やカメラのイメージセンサーは数世代前のパーツを使って工面してもなお、よくぞこの価格に抑えたと驚きを隠せない。


 MIAD01は「音質特化」のコンセプトで専用のDACや4.4mm端子も備えるなど、製品企画者のエゴやこだわりを感じる製品だ。一般に「高音質スマホ」はスイートスポットが狭く、日本でもなかなか市場に根付かなかった。これはGRANBEATが1世代で終わったことや、ウオークマンを有するソニーも市場投入していないことから、カメラ特化スマホ以上に難しいものと考える。


 そのような意味では、MIAD01は市場動向うんぬんよりも「自分たちが作りたいものを形にした」という強い思いが伝わってくる。この熱意と製品開発力、パッケージイラストを含め、MIAD01は肯定的な意味で「コミケで売っていそうな同人スマホ」が適切な表現と考える。


 本機種は日本向けにも発売がアナウンスされている。価格や発売時期、日本向けに何らかのカスタマイズがされるかは不明だが、GRANBEATに近いスマホの再来ということもあって、オーディオマニアを中心に関心の高さは折り紙つきだ。


 水月雨が出してきた「音質特化スマホ」というカテゴリーはかなりニッチだが、日本ではGRANBEATの存在などから、一定のニーズがあるといえる市場だ。ここにうまくアプローチできるかどうか、MIAD01をフックにした今後の製品ラインアップも含め、注目していきたい。


●著者プロフィール


佐藤颯


 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。


 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。


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