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あえて5人乗りを選ぶ意味は? ホンダの新型「フリード」開発陣に聞く!

2024年07月24日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ホンダのコンパクトミニバン「フリード」が8年ぶりにフルモデルチェンジを実施したということで、さっそく公道で走らせてみた。走りの質感は上がっているが、ちょっと非力? あえて5人乗り仕様を選ぶ意味は? いろいろと気になることがあったので開発陣に聞いてきた。


走りは二の次?



新型フリードの公道試乗では、ガソリン車とハイブリッド車をおよそ半日かけて試乗した。そこでいくつか気になる点があったので、開発担当者に質問してみた。



まず、走行性能についてだ。新型フリードでは、高速道路での合流や追い越しなどでアクセルを思いっきり踏み込むと、非力さを感じる部分があった。新型フリードの排気量は、ガソリン車もハイブリッド車(HV)も1.5Lで変わりない。馬力(最高出力)はガソリン車が118PS、HVはエンジンが106PS、モーターが123PSだが、どちらのモデルも加速力が弱めだと感じた。先代モデルは排気量こそ新型と変わらないものの、最高出力は129PSとなっていて、新型フリードよりも力強い加速力が得られた。


なぜ非力と感じたのか、開発陣に率直に聞いてみた。回答は次のとおりだ。



「新型フリードのコンセプトは『余裕』です。特に走りについては、『安心感と、快適でみんなにやさしいダイナミクス』に由来した設計となっています。アクセルを踏み込んで急加速してしまうと、乗員が驚いてしまうかもしれません。体が強く抑えつけられたり、振られたりしてしまうこともあるでしょう。そういったことがないように、アクセルを踏み込んでも急激な加速にならないように配慮しています」(以下、カッコ内はホンダ開発陣の発言)



マイルドな走りはファミリーカーならではの味付け、ということなのかもしれない。



「加速力がなく、遅いと感じてしまったかもしれませんが、フリードの特性上、街中をゆったりと走ることに重点を置いた走行性能を持っていると思ってください。走りにこだわっていないわけではありませんし、走りは二の次とまではいいません。とはいえ、車体が重いこともあり、走りはかなりマイルドになっています。最優先にしたのは、快適性や使い勝手のよさなんです」


もちろん、走りの面で先代モデルよりよくなっているところもたくさんある。例えば、走行中の車体の剛性感だ。頻繁に右左折を繰り返したり、カーブを曲がったりしても、新型フリードは体が振られることが少なく、安定して着座していられたように思う。この点について担当者は「サスペンションなどのチューニングを実施して、剛性を上げています」と話していた。先代モデルと比較すると、安定感が増しているのは明らかだ。

一番人気のボディカラーは?



新型フリードでは、淡いブルーの「フィヨルドミスト・パール」やオフロードを連想させるベージュの「デザートベージュ・パール」など、約10色という豊富なラインアップからボディカラーが選べる。エアーとクロスターで選べる色は若干異なる。


豊富なカラーパレットの中から選べるのはありがたい一方で、迷ってしまうのも確かだ。今回の新型フリードでは、どのカラーが人気なのか。



「エアーでは、ご注文いただいているお客様のうち45%が定番の白色である『プラチナホワイト・パール』をお選びいただいています。次に多いのは、さわやかなブルーが特徴の『フィヨルドミスト・パール』で20%の割合です。クロスターでは『デザートベージュ・パール』が30%と最も多くなっています。フィヨルドミスト・パールもデザートベージュ・パールも、テレビCMで使用しているため人気なのかもしれません」


かつては、迷ったら白か黒を選んでおけば間違いないといった意見も多かった。白や黒なら中古車でも需要があり、売却する際に価格が下がらないからだ。



ただ最近では、中古車でも赤や青、黄色などの鮮やかなボディカラーが売れているそうだ。つまり、白や黒だからといって、売却時に(鮮やかなカラーのクルマと比較して)必ずしも高く売れるとは限らないのだ。つまりこれは、新車を買う際、単純に好きか嫌いか、あるいはクルマに似合っているかどうかでボディカラーを選べるということだ。

スライドドアを装備したSUVは存在しない?



新型フリードはシンプルなエアーとアクティブなクロスターの2種類から選択できる。クロスターでは5人乗りを選べば2列シートとなり、広大なリアスペースを自由にカスタマイズできる。シートをアレンジすれば車中泊も余裕でこなせる。


しかし、5人乗りで室内空間が広く、アウトドアに適した車を選ぶとすれば、フリードではなくSUVを選んでもいい気がする。あえて2列シートのフリードクロスターを選ぶ理由はどこにあるのか。この点について担当者は次のように説明する。



「フリードクロスターを選ぶお客様は、スライドドアを採用したコンパクトなミニバンでありつつ、アウトドアにも適したクルマであることを評価されています。アウトドアならSUVでもいいのでは? とのお話でしたが、スライドドアを備えたアクティブなSUVというのは、市場にはほぼ存在しません。そういった意味で、フリードクロスターは唯一無二の存在といえます」


筆者が調べたところ、スライドドアを備えたSUVは今のところ三菱自動車工業「デリカD:5」しか存在しない。しかしデリカはコンパクトとはいえないし、SUVというよりミニバンに近い。そのほかでいえば、2017年の「東京モーターショー」で発表されたトヨタ自動車「Tjクルーザー」もスライドドアを備えたSUVだが、こちらは市販すらされていない。「アウトドア」「スライドドア」「コンパクト」「ミニバン」の全てを備えたクルマとなると、フリードクロスターが唯一の選択肢になるのだ。

フリードといえば3列? 2列?



フリードは3列シートを備えたミニバンというイメージが強いが、2列シートのクルマとしても、実はとても使い勝手がいい。これまでのところ、2列シートを選ぶ購入者はフリード全体の24%くらいだったそうだが、今後は割合を増やしていきたいそうだ。



「これまでは、3列シートのイメージが強いフリードにおいて、あえて5人乗りを選ぶメリットを訴求できていなかったと感じています。5人乗りでも使い勝手がよく、アウトドアにも最適で、幅広い用途でお乗りいただける1台です。純正アクセサリーも豊富に用意して、クロスターの販売比率を高めていきたいと考えています」


冒頭で走りは非力と書いたが、豊富なカラーバリエーションと多彩なシートアレンジは多くのユーザーにとって使いやすく、積極的にフリードを選ぶ理由になる。



発売して間もない新型フリードだが、想定以上の注文が入っているそうで、滑り出しはかなり順調な様子だ。これまでのサイクルを考えると、しばらくフルモデルチェンジはしないだろうし、シンプルなデザインであるため、長く乗り続けても飽きがこないはず。コンパクトで3列シートを備えているということばかりに目がいきがちだが、コンパクトなSUVを探しているユーザーにとっても、もうひとつの選択肢として新型フリードは魅力的な1台になるだろう。



室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)