2024年07月24日 10:00 弁護士ドットコム
ラジオ番組の放送内容を無断で書き起こし、有料のウェブマガジンに記事配信したとして、ラジオの「書き起こし職人」が謝罪し、活動休止に追い込まれた。このウェブマガジンはすでに廃刊したが、法的にどんな問題があったのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。
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ラジオ番組は、DJ(ディスクジョッキー)がゲストにインタビューして会話を進めていくものなので、マンガや音楽、映画と違って、「著作物」という意識はあまりないかもしれません。
しかし、たとえば、タレントをインタビューした記事は、創作的な表現物であり、著作物だと考えられています(参考:SMAP大研究事件・東京地裁平成10年10月29日判決/ただし、インタビュワーとタレントのどちらが著作者となるかという点は事案によって変わってきます)
このように、インタビュー記事が著作物である以上、紙面にするか、放送するかの違いはありますが、同じようにラジオ番組も著作物だと考えられます。
そして、著作物であるラジオ番組を書き起こす行為は、「複製」(著作権法21条)に該当するので、著作者の許諾なく書き起こした場合、複製権侵害になってしまいます。
「ラジオ番組をそのまま録音したわけではなく、単に書き起こしただけなのに『複製』になるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、たとえば、ある音楽を聞いて譜面に書き起こすことも『複製』にあたります。
もちろん、私的に楽しむ目的で書き起こすだけであれば「私的複製」(著作権法30条1項)として、著作者の許諾は必要ありません。
しかし、インターネット上で配信する目的で書き起こすことは「私的複製」に該当しないので、法律上は、書き起こした時点ですでに著作権侵害となってしまうのです。
また、著作者に無断で、その書き起こし記事をインターネット上で配信することは「公衆送信権」(著作権法23条1項)の侵害になります。
今回のケースは、有料のウェブマガジンだったということですが、法律上は、有料で配信しようと、無料で配信しようと、公衆送信権の侵害に該当します。
ただし、有料配信の場合、事実上、さらに「悪質性」が増します。著作権侵害で得られた利益額を著作権者の被った損害額と推定する規定があるので(著作権法114条2項)、いざ著作権者が損害賠償を請求する場合には、その金額にも影響してきます。
ちなみに、ネット記事でよく目にする「コタツ記事」と呼ばれるニュース記事があります。たとえば、あるテレビ番組で、タレントが発言した内容や、タレント同士のやり取りをまとめたものです。
テレビ番組も著作物ですので、このようなコタツ記事は、著作物を無断で複製・公衆送信しており、著作権侵害になるのではないか、という疑問も生じるでしょう。
しかし、このようなコタツ記事は、あるタレントがどのようなことを述べた、それに対して別のタレントがどのように応じた、という事実を記載したものにすぎないものがほとんどで、小説や映画のあらすじを記載したようなものです。
そのため、もちろんテレビ番組の創作的表現をそのまま記述するような内容になると問題になりますが、基本的に通常のコタツ記事は著作権侵害にあたらないと考えられます。
【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n
事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所URL:https://shibuyakakeru.com/