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覚醒した那須川天心─。来春に世界挑戦か? 武居由樹との「元キックボクシング王者対決」が実現する!?

2024年07月23日 18:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
元キックボクシング王者・那須川天心(帝拳/25歳)がプロボクシングのリングでも覚醒した。7月20日、東京・両国国技館『PRIME VIDEO PRESENTS LIVE BOXING 9』でWBA世界バンタム級4位のジョナサン・ロドリゲス(米国/25歳)を圧倒、左ストレートを炸裂させ3ラウンドでマットに沈めたのだ。


これまでとは異なったスタイルで進化を見せた那須川の戦績は、これで4戦全勝(2KO)。世界ランキングのアップも見込まれ、いよいよ世界王座挑戦の刻が近づいている。ファン待望の「元キックボクシング王者対決」武居由樹(WBO世界バンタム級王者/大橋)戦は実現するのか?

○■「倒せるパンチ」を体得した



「KOっていいっすね。パンチでアンチを黙らせた(笑)。でも、まだまだもっと強くなります。一歩一歩上がっていって、誰からも文句を言われないところまで強くなる」



7月21日、帝拳ジム(東京・新宿区)での一夜明け会見。顔に傷一つない那須川天心は上機嫌で、そう話した。

正直、驚かされた。那須川が、この半年でとてつもなく強くなっていたことに。

世界ランキング4位のロドリゲス相手に、彼は1ラウンドから果敢に攻め込んだ。左ストレートがグーンと伸び的確に顔面を捉えていく。そして、アッサリと倒し切ったのだ。



動きが、これまでのとはまったく違った。

過去の試合では、デフェンス重視、速さで相手を翻弄するスタイル。だが今回は間合いを支配し、的確に踏み込んで体重を乗せたパンチを繰り出していた。持ち味のスピードに加え「倒せるパンチ」を体得していたのだ。


「やってやりましたよ! KOできないって言った人、誰ですか?」

勝利した直後、那須川はマイクを手にそう叫んだ。

デビュー以降、「KOできないようでは魅力がない」「パンチが軽い」「速さだけ見せられても面白くない」など、さまざまなことを言われてきた。

そんなアンチの声を覆すKO勝利を収めたことで、喜びの感情を一気に爆発させていた。

那須川は、ようやく自らが理想とするボクシングスタイルを得たのだ。

(次戦で世界タイトルに挑む資格は十分にある)

私だけではなくボクシング関係者、ファンの多くが、そう感じたことだろう。


○■ドリームマッチ実現の条件



いま、4本の世界のベルトはすべて日本人選手の腰に巻かれている。

〈WBA王者〉井上拓真(大橋/28歳)

〈WBC王者〉中谷潤人(M.T./26歳)

〈IBF王者〉西田凌佑(六島/27歳)

〈WBO王者〉武居由樹(大橋/28歳)



この中で中谷が頭一つ抜けている観があるが、ほかの3人に那須川が挑めば互角以上に闘えるように思う。

今回の勝利でランキングが上昇、次戦で世界のベルトに挑んでもおかしくない。


だが帝拳サイドは、慎重だ。

次戦で地域タイトルに挑み、その先で世界戦とのプランを立てている。

地域タイトルとは、OPBF(東洋太平洋)王座、WBO AP(アジアパシフィック)王座の2つを指す。

現在のOPBFバンタム級王者は、栗原慶太(一力/31歳)、WBO AP王座は空位になっている。そして那須川のランキングはOPBF3位、WBO APでは1位だ。

年内に彼が栗原に挑むか、WBO AP王座決定戦を行う可能性が高い。



そこで勝利したなら、来春にいよいよ世界挑戦となろう。

4人の日本人王者の誰に挑んでも面白いが、ファンがもっとも望むのはやはり武居由樹との対峙か。那須川は元RISEバンタム&フェザー級王者、武居は元K-1スーパーバンタム級王者である。元キックボクシング王者同士の世界戦となれば、ボクシングファンのみならず、広く格闘技ファンも熱狂の渦に巻き込むことになる。

「来たるべき時になれば、ぜひ闘いたい」

そう両者が口を揃えるドリームファイトだ。



実現には条件がある。

武居は9月3日、東京・有明アリーナで比嘉大吾(元WBC世界フライ級王者、志成/28歳)を相手に王座初防衛戦を行うことが決まっており、これをクリアせねばならない。同様に那須川も地域タイトル挑戦となるであろう次戦での勝利が求められる。

互いに勝ち進めば、元キックボクシング王者同士の世界戦が見える流れだ。



「来年は、さらに面白くなるんじゃないですか。すべてにおいて期待してもらって構わない」

そう話す那須川は、ロドリゲス戦のKO勝利で一つの殻を破った。今後に期待大だ。

思えばプロボクシング転向以降、勝利しても試合後の那須川の表情に真の明るさがなかった。ファンの期待に応えきれていない、との思いを抱いていたのだろう。だが、7月20日の試合後はキックボクサー時代の自信に満ちた表情に戻っていた─。



文/近藤隆夫



近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。~ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実~』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら(近藤隆夫)