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濡れるとやわらかくなる未来のタイヤ? ダンロップのシンクロウェザーを試す

2024年07月22日 15:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ダンロップが次世代タイヤ用の新技術「アクティブトレッド」を活用した新たなオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」を発売する。このタイヤ、濡れるとやわらかくなり、高温になると硬くなるという不思議な性質を持つらしいが、その実力は? いろんな路面で試してきた。

アクティブとレッドとは?

2023年11月にダンロップが発表した次世代タイヤ用の新技術「アクティブトレッド」は、水に濡れたり温度が下がったりするとゴムが柔らかくなるという、これまでの常識では考えられなかった特性を持っている。そのアクティブトレッドを初めて採用したのが、新発売のオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」だ。冬の北海道と初夏の岡山でテスト走行に参加してきた。

最初に、アクティブトレッドの技術を少しおさらいしておこう。

まず、水でゴムが柔らかくなるのが「TYPE WET」技術だ。ゴムの素材であるポリマーは通常であればヒモのようにつながっているのだが、イオン結合剤を使った新技術により、水なしだと結合したままで、水ありでは解離するという性質を持たせることに成功した。

もうひとつの「TYPE ICE」技術は、従来は高温で柔らかく低温で硬くなっていたゴムが、新ポリマーを採用することにより、全く逆の性能を獲得したというもの。0度付近で樹脂と軟化剤が混ざることでゴムが柔らかくなり、高温になるとそれが分離して硬くなるという仕組みだ。

どちらの技術も、水や温度の状態により、スイッチが切り替わるようにON/OFFを繰り返すので、路面状況に合わせて絶えずゴムの性質が変化し、最適な夏/冬性能が両立できるとの説明だった。
「シンクロウェザー」が雪上で実力を発揮?

新型タイヤの名称は「シンクロウェザー」に決定した。どんな天候や気温にも瞬時にシンクロ(同調)するオールシーズンタイヤという意味だ。名は体(性能)を表す。言い得て妙なネーミングだと思う。

さて、肝心の性能は。まずは2024年2月に、北海道・旭川にあるダンロップのテストコースで実力を試した。

コースは氷上路面で加速、ブレーキング、旋回性能を試すパートと、傾斜4%の上り下り坂と平坦路でスラロームを行う雪上路面のパートという組み合わせ。機材はFF(前輪駆動)のトヨタ自動車「カローラツーリング」で、タイヤサイズは195/65R15だった。既存のオールシーズンタイヤ「AS-1」、次に新型の「シンクロウェザー」、最後にスタッドレスの「ウインターマックス」の装着車に乗り、それぞれの性能を比べるという内容だ。

結論からいうと、氷上性能はスタッドレス>シンクロウェザー>AS-1の順。雪上性能はシンクロウェザー=スタッドレス>AS-1の順だった。

さすがにスタッドレスの性能は高くて安心感があったものの、シンクロウェザーとの差はわずか。氷の上での制動距離自体はほとんど差がなくて、最後にギュッと止まる感じがスタッドレスの方がほんの少し高かった。

一方の雪道では、AS-1で走ると進路が少し乱れたり、ステアリングの手応えが抜けたりする瞬間があり、たえずグリップする感覚がステアリングを通して感じられるシンクロウェザーの進化の具合がはっきりと伝わってきた。また、スタッドレスがサイプで雪をかきながら走っている感覚なのに対して、シンクロウェザーはタイヤの表面が雪の表面に吸い付いて走っているような滑らかな感覚が伝わってきて、発揮するグリップ力の性格がそれぞれ違うことがはっきりと感じられて面白かった。

コース外の外周路をシンクロウェザーで走る時間もあった。こちらの機材はAWD(4輪駆動)のメルセデス・ベンツ「GLC」。タイヤサイズは最新のSUVモデルらしく235/60R18と太く大きなものだった。圧雪状態の路面だったので、加速や減速、コーナリングなどどんな場面でもしっかりとしたトラクションを感じつつ、全く不安なしで走り回ることができた。

ドライ&ウェット性能はいかに

では、ドライ&ウェットでの性能はいかに。こちらは2024年5月、岡山県津山市近くにある住友ゴム「岡山タイヤテストコース」で試してきた。

まずはウェット性能を確かめるため、たっぷりと水を張ったスキッドパッドに侵入してみる。シンクロウェザーと比較したのはサマータイヤの「ル・マンV +」とスタッドレスの「ウインターマックスXX02」で、使用した機材はFFのカローラツーリングだ。

結論からいうと、サマータイヤとシンクロウェザーはほぼ同じスピードで、タイヤのグリップ力を感じながらぐるぐると周回を続けることができた。びっくりしたのはスタッドレスに乗り換えた時で、同じスピードで回ろうとすると一気にグリップが抜けてアンダーが出て、ズルズルと進路が乱れてしまう。濡れた路面をスタッドレスで走るのは本当にコワイと認識を新たにすることができた。

長い直線路と緩いコーナー、それにスラロームを組み合わせたアスファルトの路面では、やはりサマータイヤの良さが際立つ。ル・マンのタイヤ内には吸音スポンジが貼ってあって、その静粛性によるところがあるのだろう。

かといって、シンクロウェザーのロードノイズが決してうるさいわけではなく、十分に満足がいくレベル。V字トレッドパターンの走行音はどれも大きいものと勝手に思っていた(他のタイヤのイメージから)のだが、これは良い方向に裏切られた。

シンクロウェザーを装着した試乗車にはフォルクスワーゲン「ゴルフ」も用意されていて、スラロームパートではかなりクイックな操縦性能を発揮してくれた。ちょっとしたスポーツ走行まで耐えられる性能を持つタイヤなのだと確認することができた。

コース外の一般路の走行用には、冬性能を試した時と同じメルセデスのGLCが用意されていた。クルマの静粛性自体が高いこともあって、ロードノイズは全く気にならず、乗り心地も含めて誰が乗っても不満が出ないレベル。オールシーズンを履いていることによるネガな面が顔を出すことはゼロで、文字通り四季を通じての使用に全く問題ないことが証明された。

あとは価格面ということになるのだろうが、この原稿執筆時点ではまだ発表されていない。今までとは全く異なるアプローチ(アクティブトレッド)で開発したタイヤであるだけに、多少は価格がアップしたとしても目をつぶることができそう……そんな風に思えるほど進化した出来栄えだった。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)