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『選手の声は大事』だが『寄りすぎ』は禁物。FRDA会長・山本尚貴に聞くSUGOの悪天候の教訓と今後

2024年07月19日 12:20  AUTOSPORT web

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悪天候に見舞われた2024年スーパーフォーミュラ第3戦スポーツランドSUGO
 今週末、富士スピードウェイで第4戦を迎える全日本スーパーフォーミュラ選手権。4週間前にスポーツランドSUGOで行われた第3戦は、悪天候、そしてクラッシュによりサーキット設備が破損したことから、序盤にして赤旗終了となった。

 このレースでは、多くのドライバーがグリップ不足を訴えるなか、最終コーナーでアクシデントが立て続けに発生。レース後に記者会見やミックスゾーンに姿を現したドライバーたちは、コース上がいかに危険なコンディションであったかを口々に訴えていた。

 それから約2週間後の富士公式テストで、スーパーフォーミュラに参戦するドライバーで構成される組織であるフォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション(FRDA)会長を務める山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)に、SUGOの一件についてのドライバー側からの総括や、今後の課題・見通しなどについて聞いた。

■目指すのは「ジャッジする側の材料になるような情報の提供」

 山本はSUGOの決勝前、ウォームアップ走行の際に最終コーナーでアクシデントに見舞われた“当事者”でもある。心配された身体のコンディションについて山本は「大丈夫です」と富士テストの現場で語り、まずはアクシデント当時の状況を振り返った。

「計測1周目でした。前にマシンが1台いて、そんなに(コースコンディションは)悪くなさそうだったので、早いところ抜いてクリアな視界で走りたいなと思っていて、最終コーナーもそんなに無茶する感じではなく、普通にアクセルを開けていったら、突如後ろが抜けてしまいました」

「まさかこんなところで(リヤが)出るとは思いませんでしたし、だいたい後ろが出るときというのは、カウンターを当てる余力も残されているものなのですが、本当にいきなりタイヤが外れてしまったくらいな感じで、すっぽ抜けてしまいました」

 その後、決勝でもコースオフが相次ぎ、レースは赤旗終了に。FRDA会長としてSUGOの状況について総括を聞くと、山本は「いろいろと良くないことが全部重なってしまった感じがあります」と答えた。

「起きてしまったことから、改善につなげていかなくてはいけないと思います。ドライバーたちも協力して、『どうしたら自分たちのパフォーマンスをしっかりと発揮できる場になるのか』という部分で、ドライバーからの意見として持ち上げました。同時に、競技団の方々とも、どうしたらレースが良い状態になったのかという話し合いは何回もしていて、そのなかではいくつか改善するところが出てきていているので、それをひとつひとつやっていくしかありません」

 その上で山本は、多くのドライバーが無線を通じて、そしてチームがチャットアプリ(Wow Talk)を通じて、レース運営側に危険を訴えていた状況について、「ちょっと勘違いもあるのかなと思います」と指摘した。

「結局、自分たちドライバーが『危ないから、止めてくれ』と無線で言ったところで、レースが止まるシステムとかルールには、現状はなっていません。無線はオープンにはなっていますが、それを判定の基準にするというルールではありません。そもそも“僕らの声が届くツール”ではないので、その部分でちょっと勘違いをしていたドライバーもいたかもしれないし、『選手の声を聞いていないじゃないか』と(周囲も)ヒートアップしていた部分もあったのかなと思います」

「そこはまずみなさんに理解していただいた上で、ただ僕らにはWow Talkというツールがあることは事実なので、そういったツールを使って、チームとドライバーが、『ジャッジする側の材料になるような情報の提供』ができるのであればした方がいいよね、ということで、その部分の改善は第4戦からされる予定です」

 JRP日本レースプロモーションの上野禎久社長は、富士テストでの定例会見のなかで「(チームからの声は)参考にしてジャッジをしています」と述べていたが、今後はこれらの“声”が、判定材料としての存在感をより高めていくことになる方向のようだ。

 状況は好転しているように感じられるが、一方で競技団側が『ドライバーやチームの意見を聞きすぎる』ことになりかねない状況に対しては、山本は慎重な姿勢を見せている。競技の公平性を左右しかねないからだ。

 たとえば、タイトルのかかった最終戦が大雨に見舞われた場合。そのときに走っているポジション、ランキング上の得点などでも、それぞれのドライバーがレースを続けたいか否かは、意見が分かれることが予見される。また、そもそも雨天では、車列の先頭を走るドライバーと、中団以下のドライバーでは視界が大きく異なる、という事情もある。

「どの時代も、どのスポーツでも、選手の声は大事だと思いますが、あまり選手寄りになりすぎても別の問題が生じてしまうので、ここは慎重にいかないといけません」と山本。

「ただ、この前(のSUGOの雨の状況)に関しては、どのドライバーも、タイヤのウォームアップを含めてうまくグリップさせられなかったなかでのことでしたし、濃霧で視界もかなり遮られたなかで、みんな『厳しい』と訴えていたと思うので、今後はそういった声が判定の材料になってくれたら、ジャッジする側の人たちもより賢明な判断ができるのかなと思います」

 SUGOは、新スペックのウエットタイヤが導入されて初めての本格的な雨となったこともあり、「あそこまで(雨で)走れないとは、選手も、競技団の人たちも、誰も思わなかったと思うので、そこはちょっと悪いことがいろいろと重なってしまったレースだったのかなと思います」と山本は今回の件の特殊性も強調した。

 ウエットタイヤについては、第4戦からは2022年以前のスペックが持ち込まれることが、上野社長から明らかにされている。Wow Talkの運用方法等については一部課題もあるようだが、ドライバー側と運営側のコミュニケーションは取れている様子であり、今後はさらなる安全かつ公平なレース運営がされることに期待したい。