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ドコモ前田社長が語る「d払い」の強み ポイント還元率は「他社に負けていない」、コンテンツは“ファン”を巻き込む

2024年07月18日 18:21  ITmedia Mobile

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2024年10月3日にdポイントクラブを改定する。2つ星に上がるための基準を下げ、d払いを利用することでポイント還元率を上げる

 ITmedia Mobileでは、2024年6月にNTTドコモの社長に就任した前田義晃氏にインタビューを実施。通信品質、金融サービス、料金プラン、端末ビジネスなど幅広くお話をうかがった。今回はその中から、決済、ポイント、コンテンツビジネスのお話をお届けする。


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●Amazonと組むことでポイントの価値が上がる d払いは中小個店への導入も強化


―― 2024年は、dポイントの強化やサービスの改訂が目立っています。Amazonとの協業やdポイントクラブ改訂の狙いを改めて教えてください。


前田氏 競争軸が通信だけではなく、経済圏での戦い方になります。われわれも8年間ほどdポイントで、通信とは別にお客さんを広げる構造を作ってきました。その中でお客さまの使い方にいい意味で影響を与えられるのが決済の部分です。


 5月にポイントプログラムの改定を発表しましたが、今までのプログラムはどちらかというと、共通ポイントとしての加盟店でポイントバックされる魅力の部分を強めていました。そこも今まで通りお使いいただけますが、決済加盟店もどんどん広がっていって、決済してどれだけポイントを得られるのか。そう見られているので、決済したときのリターンを上げることを強めています。


 1億ポイント会員になったとはいえ、いかにアクティブにお使いいただけるかが重要なので、ライトな人たちも恩恵を受けやすくしました。これら2つ(還元率アップとライト層の取り込み)をやると、決済の頻度もどんどん上がっていきます。


 リアル加盟店の動きは、共通ポイントを広げると言っていたときから強めていました。一方でECの部分に関しては、ECから始めている楽天さんもいれば、ソフトバンクやヤフーさんもある中で、大きなECが持てていませんでした。


 より広く利用できて便利だよね、お得だよねと思ってもらうためには、大きなECと組む必要があります。今までも、決済分野ではご一緒させていただいていましたが、Amazonさんがポイント加盟店になり、お客さんには全体感で便利にお得に使えるようにすることで、ポイントの価値も上がりますし、決済の頻度も上がってくると思います。だいぶそろってきたなと思います。


―― ドコモも「dショッピング」というECを自前で持っていますが、そこを強化するというよりは、既存の大型ECと組む方が、しっかりお客さんを取れていけるという判断だったのでしょうか。


前田氏 多くのおお客さんに喜んでいただけるかを考えると、現時点でAmazonさんと組んでご理解いただく方がお客さまのためにもなりますし、経済圏全体の発展に寄与します。もちろん、既存のサービスをやめるわけではなく、便利にお使いいただいている方もいらっしゃいます。


―― ポイント還元率を見ると、楽天モバイルは(楽天市場のSPUで)5倍、ソフトバンクもペイトクで最大10%の還元を行っています。ドコモの場合、Amazonで買い物したときの還元率が最大3.5%、dポイントクラブは(d払い特典で)最大4%ですが、還元率についてはどう見ていますか。


前田氏 Amazonさんとの取り組みにdポイントクラブを合わせると、けっこうな倍率になります。決して、他社に対して負けている状態ではないと思っています。ベースの還元率も、ポイントクラブの改定でかなり上げていますので、トータルではわれわれの方がお得になっている部分があると思います。


―― 金融・決済サービスは競争が激しいですが、d払いの強みはどこにあると考えていますか。また、シェア1位のPayPayに対抗すべく、どのように裾野を広げていくのでしょうか。


前田氏 決済サービス全体で見ると、d払いも重要視していますが、dカードが規模としては大きくなっています。この観点でいえば、昨年度(2023年度)の取扱高が13.1兆円ですが、その前の年に比べると20%弱くらいの成長率なので、ここはPayPayさんに負けているレベルではないと思っています。ただ、ジャイアントとしては楽天さんがクレジットカードにはいるので、彼らに追い付け追い越せで頑張っていければと思っています。


 コード決済は、PayPayさんが中小個店に強いところは認識しています。大手さんやチェーン店では変わらないと思っていますが、地域での加盟店開拓の体制はもっと強化しようとしています。


 直近では「d払いタッチ(※iDでd払いが利用できる非接触決済サービス)」を入れました。d払いタッチですと、必ずしもd払い加盟店でなくてもiDが使えます。例えばイオンさんでは、今でもPayPayすら入っていないと思いますが(※一部店舗を除く)、iDは使えますよね。同じように中小個店でも、オールインワンのターミナルを入れているお店もあるので、d払いタッチを使えます。こういうところは、もっとコミュニケーションをした方がいいと思っています。


●コンテンツは配信だけでなく「作ること」で付加価値を生み出す


―― 前田さんと言えば、コンテンツ畑の方というイメージが強いのですが、実は2011年に「dマーケット」が始まったときに、前田さんを取材させていただきました。そのときに、「付加価値があれば必ず買っていただける」と力強くおっしゃっていました。あれから13年がたち、コンテンツを取り巻く状況も大きく変わりましたが、今、キャリアが提供するコンテンツの意義について、どう考えていますか?


前田氏 僕らの業態は当時、コンテンツの配信が手掛けやすかったですし、お客さんもたくさんいらっしゃった。当時はサブスクのサービスがそれほど流行していたわけではないので、そこを先駆けてやらせていただいたことは先進的でしたし、うまくいっていた部分もありました。ただ、そこにどんどんいろんなプレイヤーが出てきて、単純に配信するだけではお客さんに振り向いてもらえない状況になっています。


 もともと、エンタメサービスのバリューチェーンはそこ(配信)だけではありません。当たり前ですが、コンテンツを作るところから始まっています。近年、バリューチェーンの上流、コンテンツを作るところや、近しいところではタレントさんが発掘されて、その周辺でサービスを提供することもあると思います。芸能だけでなく、スポーツもそう。(ドコモがメインスポンサーを務める)井上尚弥さんもそうですし、Jリーグにも協賛させていただいています。


 こういった形で、コンテンツそのものに対する取り組み方や利用機会を突っ込んで作りに行くという方向に変えてきています。そういう意味では、コンテンツ勝負になっています。そういう所にまで入っていかないと、付加価値が付かないと思うんですよね。ですから、われわれは野心的にパートナーと一緒にやらせていただいています。


 もっと広げるという意味では、新国立競技場の話も出ていますが(※国立競技場の民営化に向けて、ドコモが運営事業者の優先交渉権を獲得)、ああいうアリーナやスタジアムの事業に対して、お客さまの体験価値をどう上げていくのか。スポーツやライブは体験価値が高い。だからビジネスとしても成長していますし、よりお客さんの体験価値を上げる機会を作りに行くことは、お客さんにとっても、豊かさが広がっていきますし、われわれにとっても大きなビジネスチャンスだと思っています。


―― Leminoでオリジナル作品を作るみたいなことを安直にイメージしていましたが、もっと広い視点でコンテンツを作っていくということですね。


前田氏 そうですね。例えば今、吉本興業さんと一緒に作った会社の「ドコモ・スタジオ&ライブ」で作っている映像は、もちろんLeminoにも流しますけど、Lemino以外で流すこともあります。吉本興業には、松本人志さんがプロデュースした「FREEZE(フリーズ)」という番組がありますが、この番組フォーマットを、海外のテレビ局とライセンス契約を結んで販売するということもやっています。


 コンテンツそのものを作る、持つことで広げられるビジネスがたくさんあります。今、各陣営(キャリア)は、エンターテインメントにそれほど力を入れているわけではないですよね。たぶん、うちが一番力を入れているんじゃないですかね? こういうことをすることで、そこから出てくるコンテンツ、タレントさん、スポーツ選手、そしてファンの方々とのつながりを持てます。


―― スポーツでいうと、今は大谷翔平選手が熱いですが、いかがでしょう?


前田氏 大谷さん、高いでしょう?(笑) いや、こちらの方(井上尚弥選手の看板を指して)も高いですけど。昨年もJリーグさんと一緒に主催させていただいた、マンチェスター・シティとバイエルン・ミュンヘンとの試合なども、現時点で抜かれているか分からないですけど、国立競技場で6万人ぐらい入ったんですよ。エンターテインメントにおけるファンの威力はすごいなと思いました。ビッグネームでそれだけ集まってくれるということですから、そういう方々と、ビジネスのチャンスは積極的につかんでいきたいと考えています。