2024年07月16日 10:40 弁護士ドットコム
顧客からの悪質なクレームや威圧的な言動などによって、従業員の就業環境が害される「カスタマーハラスメント」(カスハラ)が問題視されています。
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対策も講じられるようになっており、東京都では今年度中に、カスハラ防止条例の制定に向けて、議論を本格化させています。また、厚生労働省は、パワハラ防止を義務付けた労働施策総合推進法を改正して、カスハラについても従業員の保護を企業側に義務付ける方向で検討中です。
弁護士ドットコムでは、登録弁護士に、インターネット上の誹謗中傷の相談動向についてアンケートを実施し299人から回答を得ました(実施時期:2024年6月9日~15日)。
その結果、弁護士の半数以上が新たな法規制が「必要」と回答しています。また、自身がカスハラ被害を経験したという弁護士も半数以上にのぼりました。
東京都のカスハラ防止条例制定の動きについて尋ねたところ、カスハラ防止や抑止に「期待できる」「一定程度は期待できる」が55.6%と半数超となりました。一方で、「あまり期待できない」「期待できない」が20.8%となりました。
期待する人からは、「条例の存在により抑止や毅然とした対応ができる」「罰則はなくても、顧客からの過剰なクレームやセクハラまがいの発言を防止する効果は多少なりとも期待できる」など、企業が顧客対応する際の後ろ盾になるという指摘がありました。
期待しない人からは、「カスハラを行う顧客が東京都の条例を意識するとは思えない」「強制力がないため抑止力にならなそう」「既に各事業者が取り組みを行っており、ガイドライン作成などが大きな効果を生むとは考えにくい」など、問題解決につながるのか懐疑的な声が聞かれました。
企業に対して、パワハラやセクハラ対策などと同様に、カスハラ防止対策について義務付けが必要かを尋ねたところ、「必要」が19.1%、「どちらかといえば必要」が32.8%と、約半数にのぼりました。「どちらともいえない」が31.4%、「どちらかといえば不要」が10.4%、「不要」が6.4%となりました。
自由回答では、「努力義務では企業はあまり本腰を入れない」「安全配慮義務の具体化になる。労災認定にもつながる」など、労働者を守るために対応強化を求める声がありました。
一方で、「行為主体が使用者の管理外の者である」「セクハラ・パワハラと異なり、対社外の問題のため、義務付けることまでは必要ではない」「顧客の行為が問題であって使用者にその防止を義務付けるのはやり過ぎ」など、企業への責任の押し付けではないかと懸念する声もありました。
カスハラをなくすために何が必要かを複数回答可とした上で尋ねたところ、「悪質な客に対して、企業が実際に法的手段をとる」が65.6%と最も多く、次いで「悪質な客に対して、警察がきちんと対応する」が58.9%と、顧客に対して厳しい対応を求める声が多くありました。
実際に顧問先の企業などから、カスハラについての法律相談を受ける機会があるかを尋ねたところ、「よくある」が5.7%、「たまにある」が38.1%と4割超となりました。
カスハラの相談が「ある」と回答した人に、その内容を複数回答可とした上で尋ねたところ、「加害者への対応(法的措置を含まない)」が77.1%と最多となったほか、「加害者への対応(損害賠償請求や刑事告訴など、法的措置を含む)」が47.3%、「被害に遭った従業員への対応」が31.3%、「社内のカスハラ防止体制の整備」が19.8%などとなりました。
弁護士への相談は、被害者への対応や対策よりも、理不尽な要求をしてくる加害者への対応で、法的措置を含まないものが多いことがわかりました。
特に印象に残っている相談について自由回答では、「顧問先の結婚式場で、新婦の母が太って見えるので、写真を取り直すよう要求された」「釣り銭の渡し方が悪いと謝罪文の提出を求められた」「不当な支払いだと約10年前のカード利用明細の返金を求められた」など、ごく最近の接客や対応についての理不尽な要求だけでなく、過去に遡って言いがかりをつけるなどの迷惑行為もありました。
カスハラの相談が「ある」と回答した人に、この3年間で、カスハラの相談は増えているか尋ねたところ、ほぼ同率ですが「変わらない」が52.7%とやや上回りました。「減っている」という回答はありませんでした。
依頼者や相談者から、カスハラだと感じる言動・行動を受けたことがあるかを尋ねたところ、「よくある」が7.0%、「たまにある」が48.8%と、5割超がカスハラ被害に遭った経験があることがわかりました。
依頼者や相談者からのカスハラ経験者に、その内容について複数回答可とした上で尋ねたところ、「暴言を吐く」が68.9%と最も多く、次いで「些細なミスで過度な対応(費用の減額など)を要求する」が51.5%、「面談などで長時間拘束する」が34.7%、「口コミサイトやSNSに誹謗中傷を投稿する」が27.5%、「不当な懲戒請求」が19.8%などとなりました。 自由回答では、「思い通りにならない相談結果に逆上し、机を叩いて立ち上がり、渡した名刺を破り捨てられた」「一方的に解約して減額を要求してきたり、費用を支払わない」「委任契約書に明記されていないことを「約束したはず」と言い張ってきかない」などの経験をしている人がいました。
一方で、「カスタマーハラスメント禁止条項を作成して、サインしていただけない方の依頼は基本的にお断りしている」と、しっかりと事前に対策して相談に臨んでいる人もいました。
自由回答で、カスハラ対策について聞きました。以下のようなものです。
【企業の意識改革や対策強化】
「不当な要求などには決して屈しない」
「ハラスメントを受けた事業所がもっと強気に対抗していくのが本質的な解決になる」
「カスハラへの法的手段の基準を明確化して、その基準に抵触した場合は、採算度外視で法的手段を取るべき」
【弁護士の介入】
「弁護士に相談しやすい環境整備が必要」
【法整備】
「威力あるいは偽計業務妨害罪としての通報体制を整える」
「見せしめとしての意味も込めて、法的対応まですべき」
「録音、録画したものを国に提出すれば、国又は地方公共団体が審査し、本当に悪質なカスタマーに対しては、罰則を科す」
【基準の策定】
「何がカスハラなのか判断が難しいので、通常の苦情が抑止されないように明確な基準を設ける必要があると思われる」
「カスハラの認定基準とカスハラ発生時の対応策を具体的に策定しておく必要がある」
【警察の介入】
「悪質なカスハラについては警察が対応すべき」
「迷惑行為防止条例などを活用して、警察が立件して、悪質な客は現行犯逮捕する」
「警察の取り締まりを強化すべき」
【社会全体の意識改革】
「事業者ができることには限度があることを社会が共有し、徐々に変わっていくのが良い」
「国民の倫理観、道徳観をあげる」
「世論形成と、企業がカスハラに対して厳正な対応をとる」