2024年07月16日 10:10 弁護士ドットコム
富士山の山梨県側の登山道が7月1日から、静岡県側の登山道が7月10日から山開きを迎えた。今年から山梨県側の登山道では、登山者に通行料2000円が課される。なぜ、山梨県側でだけ通行料が課されるのだろうか。もし払わなかった場合、罰則はあるのだろうか。観光ビジネスにくわしい浅井耀介弁護士に聞いた。
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山梨県が登山者に対して課す通行料は条例(*)に基づいています。
この条例で「富士山吉田口県有登下山道を設置し、これを利用するものは1人1回につき2000円の使用料を納付しなければならない」と定められています。このような条例が制定できたのは、もともと山梨県側の登山口が県有地であったという点が大きいです。
つまり、県有地であったために、その土地の上に通行料を徴収するための「ゲート」や、富士山吉田口県有登下山道という「道」を、県が主体となって自由に設置することができ、その管理に関する事項(使用料など)を地方自治法に基づき条例で定めることができたわけです。
一方で、静岡県側の登下山道はそうではありません。静岡県側の登山口は国有地であり、そのような他人の土地の上に「ゲート」や「道」を設置するためには、県が国から土地を借り上げるなどしなければならないからです。
したがって、今回は山梨県側だけで条例に基づいた通行料が課せられることとなりました。
条例において、使用料を納付しなかった人に対する罰則は定められていません。
しかし、富士山吉田口県有登下山道を通る人は、かならず県が設置したゲートを通過しなければならず、そのゲートにおいては警備員により使用料を納付したことを証するリストバンドをつけているかどうかが確認されます。
したがって、もし払わなかった場合にはゲートで止められることになるでしょう。そして、それを振り切った場合には業務妨害罪が成立しえます。
今後、山梨県側の登山ルートにおいては、ゲート設置による通行料の徴収や入山者数の制限などで、登山客の急激な増加に伴うトラブルの発生を一定程度抑制することができるのではないかと見込まれます。
しかし、登山者が通行料のかからない静岡県側のルートに集中してしまっては、また別の問題が生じえます。そのため、静岡県も対策を立てることが必要だと考えますが、先に述べたとおり条例制定による対策は山梨県に比べてハードルが高いです。
そこで、静岡県においては「エコツーリズム推進法」に基づく対策を検討しているそうです 。この法律の特徴は、地方公共団体が全体構想を定め、それについて政府が認定した場合には、入域料の徴収等のルールを定めたり、罰則を伴う入山規制を設けたりすることが可能になるという点にあります。
(*)山梨県富士山吉田口県有登下山道設置及び管理条例
https://www.pref.yamanashi.jp/somu/shigaku/reiki/reiki_honbun/a500RG00001868.html?id=j3
【取材協力弁護士】
浅井 耀介(あさい・ようすけ)弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所退所後、レイ法律事務所に入所。観光ビジネスや旅行業をはじめとして、芸能案件や学校問題、刑事事件を主に扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/