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鈴鹿8耐:スズキのレース復帰と新たな試み。サステナブル仕様のマシンは「すごく普通に走るから驚いた」と佐原伸一氏

2024年07月15日 14:40  AUTOSPORT web

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Team SUZUKI CN CHALLENGEプロジェクトのリーダー兼チームディレクターを務める佐原伸一/2024鈴鹿8耐 合同テスト
 3月に開催された『第51回 東京モーターサイクルショー』にて、サステナブルな素材を使用したバイクで『2024 FIM世界耐久選手権”コカ・コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第45回大会』に参戦することを発表したTeam SUZUKI CN CHALLENGE。スズキの社内で立ち上がったこのプロジェクトのリーダー兼チームディレクターである佐原伸一氏に、このチームにおける立案の経緯と2度のテストでの感触を聞いた。

 Team SUZUKI CN CHALLENGEのCNは『カーボン・ニュートラル』の略称だ。このチーム名の通り、ベースとなるGSX-R1000Rのパーツやタイヤ、燃料にサステナブルなものを使い、次世代のバイクを開発することがプロジェクトの趣旨となる。参戦クラスはエクスペリメンタルクラス、ライダーにはエティエンヌ・マッソン、濱原颯道、生形秀之の3名を起用することが発表されている。

 では、このプロジェクトはどういう経緯で立ち上がったのだろうか。佐原氏は次のように話す。

「始まりは『サステナブルな燃料を使って鈴鹿8耐に出よう』という話からでした。その話にタイヤ、オイル、カウリング、ブレーキなど、『自分たちもこういう新しい挑戦していますよ』と会社が一緒にやろうと色々協賛してくれて。そういった新しいサステナビリティなアイテム使ってレースをするというチャレンジが立ち上がりました」

「そもそもスズキがMotoGPから撤退したのは、会社としてサステナビリティという方向に会社のリソースを向けようという理由からでした。なのでそういう取り組みは、会社として続けなければいけないというのは前からありました」

「それが会社の取り組みのベースの考え方としてあった上で、去年の鈴鹿8耐時点でEWC、FIMとスズキで話し合う機会がありました。そこで、『スズキさんがこういう取り組みをするのだったら応援する』と言って頂けました。それなら真剣に検討するか、ということでプロジェクトが本格的にスタートしました」

「その時点では具体的な目標はまだなく、いつ何がやれるのかを検討していきました。そこで頑張ったら今年の鈴鹿8耐に出られるのではないか、という結論を出して今に至ります」

 1回目のテストではヨシムラの開発ライダーである渥美心がマシンを走らせ、2回目のテストではヨシムラSERT MotulとピットをシェアしていたTeam SUZUKI CN CHALLENGE。マシンにも大きく『ヨシムラ』のロゴが入っていた。

「スズキは2022年にMotoGPを撤退したタイミングでレースグループを解体しているので、会社の中にレースをする母体がありませんでした。だけどこのレースというフィールドを使って開発をしていこう、ということで、スズキのバイクでEWCのレースを戦っているヨシムラさんに協力をお願いしたら、快く『一緒にやりましょう』と言って頂きました」

「ベースのバイクもヨシムラさんで作ったものを使わせてもらっていますし、本当に力になってくれていますね。だから第一のパートナーと言ってもいいかもしれません」と話す。

 2回目のテストでは、鈴鹿8耐本番で実際にマシンを走らせるライダー3人が揃い、マシンとのアジャストを行った。ライダー選出に関しては、以下のように話す。

「1人目のマッソン選手は、このヨシムラのベースのオートバイのことをよく知っているし、耐久レースのベテラン選手でもあります。もちろんパフォーマンスは一流のものだということで、迷いなく決めました」

「濱原颯道選手は鈴鹿で速いです。過去にはSERTから鈴鹿8耐に出たこともあるし、ヨシムラに所属していたこともあります。彼がオートバイの何たるかを知っているということは、開発にもすごく役立つなと思って。オファーを出したら、すごく快く『やりたい』って言ってくれて、相思相愛的な感じで決まりました」

「生形秀之選手は、チームオーナーとして自分でチームを運営したり、ライダーとして走ったりしています。我々のチームは非常に若いので、彼のアドバイスは、オートバイに関しても、チーム運営についても非常に助けになるな、という考えで来てもらうことにしました。ライダーの中では一番年上ですし、他の2人を引っ張ってくれていると思います」

 なお、テスト2回目時点でのチーム内トップタイムは濱原颯道が出した2分07秒557。ここから予選や決勝までにどこまでタイムが上がるか、楽しみにしたいところだ。

 そしてこの3名のライダー以外にも、スズキのテストコースである竜洋テストコースで津田拓也が、そして6月頭の事前テストでは渥美心が、Team SUZUKI CN CHALLENGE仕様のGSX-R1000Rを走らせた。

「鈴鹿に来る前に、バイクをレースで乗れるレベルに仕上げなければなりませんでした。津田選手は竜洋のテストコースを走り慣れていて、もちろんスズキのバイクにも乗り慣れているので、ベースのラインが体に染み込んでいる。それを加味し、サステナブルなアイテムを正確に評価できると考えて彼の力を借りました」

「鈴鹿に来た後、今度はヨシムラのテストライダーとして鈴鹿を走り慣れている渥美心選手に乗ってもらいました。彼も鈴鹿での自分の基準を持っているので、乗り始めてすぐ2分07秒台、そしてその日のベストで2分07秒前半ぐらいのタイム出してくれました」

「最初のコメントでどう? と聞いたら、『普通』と。すごい褒め言葉だと思いました。その『普通』のレベルにしっかり準備段階で持っていけたっていうのは、やっぱりチームスタッフみんなの頑張りがあってこそ。すごく嬉しかったです」

 佐原氏によると、テストは2回とも全くトラブルや問題なく進めることができたそうだ。

「渥美選手が乗って『普通』って言ったのと同じで、今回初めて乗ったマッソン選手にどう? と聞いたら『すごく普通に走るから驚いた』と。新しいものが色々ついているから、どうなんだろうと心配だっただろうし、どういうコメントをすればいいんだろうと身構えていたところもあったと思いますが、普通だったと」

「もちろん、簡単にそのレベルに行っているわけではありません。『普通』に持っていくまでのアジャストが技術の蓄積にもなっているので、チャレンジも半分の目標点にまで行っているのかな、くらいの頑張りをしたというのは自負するところです。ただ、残りの半分はまだこれから到達しなければいけないところ。合格点だけど、100点満点かというとそうじゃない。まだトライしていきます」

 Team SUZUKI CN CHALLENGEはエクスペリメンタルクラスという、EWCクラス、SSTクラスとは別のクラスでの参戦となり、マシン改造やパーツ、タイヤ、燃料などの自由度が高い。特にタイヤは、ブリヂストン製の再生資源・再生可能資源比率を向上したタイヤを使用することで注目が集まっている。

「タイヤについてのコメントは一切できません。でも、タイムが物語っていると言えるでしょう。そこはブリヂストンさん、品質はもう間違いない。安定性はベースとして確保されているので、そこを心配することなく、セッティングも含めて色々トライできています。しっかりレースができるパッケージになっています」

 また、バイクの外観では、ウイングがついていることが話題となっている。

「ウイングは、確かにサステナビリティに直接的には関係ないかもしれません。ただ色々なパーツの100%に近いパフォーマンスを引き出すためには、やはりタイヤをしっかり路面に押し付けなければならない。この空力の部分は、サステナブルなアイテムを実用化するために間接的に役立つのではないかという考えです。そこはプロジェクトにも合うと思って使っています。かっこいいですからね」

 チームが掲げる目標は『完走』。ただ、テストの結果を見る限り、さらに高い目標も狙えそうな位置にいるように感じる。

「今年の公式の目標は、しっかり完走すること。それによってデータをしっかり採取して、そのデータをもとに新しい課題を見つけて、また将来に繋げていくことを目指します」

「とはいえ、レースが好きでやっている人が集まっているので、自分もそうですけど、ダサいレースはしたくない。入賞もあり得るんじゃないかな、というライダーも来てくれています。そこは120%頑張るつもりでいますよ」

 さまざまな企業の協力のもとで成り立ち、スズキという会社を背負って鈴鹿8耐を戦うTeam SUZUKI CN CHALLENGE。2年前のMotoGP撤退により寂しい思いをしていたファンにとって今回の鈴鹿8耐でのレース復帰は、サステナビリティのためのチャレンジとはいえ、待ち望んでいたものだろう。青いスズキのマシンがもう一度レースをする姿が楽しみでならない。