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ウイスキー、どうやって”推し”を見つける? 擬人化イラストでわかりやすい“好みの味”に出合う方法

2024年07月13日 13:00  リアルサウンド

リアルサウンド

『推しモルトを見つけよう! ウイスキー愛好会へようこそ』(奈田久遠/著、玄光社/刊)
■名探偵コナンとウイスキー人気が関係?

 近年、若者の間でも人気が高まっているウイスキー。おなじみの「山崎」を筆頭に日本のウイスキーが世界的に評価されて、高騰しているニュースなどが報じられているが、そのせいでハードルの高さを感じている人も少なくないはず。ウイスキーに興味をもったものの、そもそもどう楽しめばいいのか、迷ってしまう人も少なくないのではないか。


  そんな人におすすめなのが、『推しモルトを見つけよう! ウイスキー愛好会へようこそ』(奈田久遠/著、玄光社/刊)である。かわいいキャラクターのイラストが満載だが、個々のウイスキーの歴史から特徴まで丁寧に綴られている、本格派の一冊である。「ウイスキーを気軽に楽しんでほしい」と語る奈田久遠氏にインタビューを行った。


『推しモルトを見つけよう! ウイスキー愛好会へようこそ』の作品詳細をみる


――奈田さんは、以前にバーでマスターを務めておられたそうですね。


  奈田:3月末まで、高円寺で4年半ほどバーを経営していました。その前は大阪の北梅田で10年ほど、いい雰囲気のなかでお酒を楽しんでいただけるようにと、オーセンティックな雰囲気のバーをやっていました。


――バーの経営に関わっておよそ15年というわけですね。まさに近年のウイスキー人気の上昇を体感して来られたと思うのですが、これほどまでに人気が高まっている背景はどんなところにあるのでしょうか。


奈田:2つの理由が考えられます。まずは、日本国内のウイスキー蒸留所がこの10年くらいで増加していること。今までは、サントリーやニッカの2強のイメージだったのですが、クラフトウイスキーの文化が起こり、今では100を超える蒸留所があります。海外からの需要も高まり、興味を持たれた方が増えています。


  それに小学館の漫画、『名探偵コナン』に登場するキャラクターが、作中の“黒の組織”から与えられたコードネームがバーボンなのです。このことをきっかけでバーボンに興味をもった女性の間に、ウイスキー文化が広まっています。作中でもバーでウイスキーを飲むシーンが描かれているので、家にボトルを置いておきたい、と考える方が増えているようですね。


■ウイスキーの歴史をキャラに投影

――さすが、『名探偵コナン』の影響力は絶大ですね。そんななかで、奈田さんが今回の本のアイディアを思いついたきっかけを伺いたいです。


奈田:いわゆる擬人化ブームがサブカル界隈で流行っていた15年くらい前から、バーを訪れたウイスキーマニアのお客さんと、ウイスキーの擬人化の話をしていたんですよ。このウイスキーは優等生タイプだなとか、髪の毛の色は赤だろうなとか。私も面白くなって、深く歴史を調べては設定をつくり、お客さんにイラストを描いてもらったりしていました。漫画のネタも考え、Twitter(現:X)に流していました。


――バーカウンターを囲みながら、そんな話をしていたのですか! なかなかオタク層の方々に優しいバーですね(笑)。


奈田:お店がとあるゲームと公式にコラボしたメニューを提供していたり、Twitterで『名探偵コナン』関連のツイートも頻繁にしていたせいか、オタクフレンドリーな店だと評判になりはじめ、アニメファンのお客さんがたくさんいらしていたんですよ。やがて玄光社の方と知り合いになり、かねてからあたためていたウイスキーの擬人化の本を提案させていただいたというわけです。


――結果的に擬人化ではなく、“ウイスキー愛好会”というキャラ設定になった理由は、どこにあるのでしょうか。


奈田:実在の銘柄を擬人化すると自社製品に特定のイメージがついてしまう……というメーカーさんの事情もあり、あくまでもメンバーがそのウイスキーを“推し”ている設定にしたんですよ(笑)。逆に上手くはまったと思います。最初は男性キャラで考えていたのですが、女性にしたほうが男性も女性も目を通してもらえると思い、女性にしました。


――キャラ一人一人の設定もかなり凝っていますよね。


奈田:スコッチウイスキーをベースに、ウイスキーの200年の歴史の中で起こったドラマを1人のキャラの生い立ちに投影すべく、侃々諤々の議論をしながら考えました。女の子たちが20人位一緒にいる設定にしたかったので、キャラの描き分けなど、デザインが難しかったですね。


■様々な人と繋がれるのがバーの醍醐味

――本文のイラストが瑛之介とナツミさんに決まった経緯は。


奈田:女の子を描けるイラストレーターが知り合いにいなかったので、Twitter、Skebで絵柄を見て、印象に残ったのが瑛之介さんです。私から直接お願いしました。曖昧なイメージだと難しいと思いましたので、かなり詳細に指定させていただきましたね。例えば、双子のアシマとラシマは髪形、色、アクセサリーなどのイメージを事細かに指定しています。漫画を担当されたナツミさんは、玄光社の担当編集者さんの紹介でした。


――特にお気に入りのキャラクターはどなたですか。


奈田:エヴァちゃんですね。15年前からその原型が決まっていて、いわばこの本が生まれるきっかけになったキャラといえます。ちなみに、カウンター越しでアイディアを一緒に考えたお客さんとは、今も連絡を取り合う関係です。その方はこれまでバーで出会った方のなかでも一番のオタクで(笑)。アニメや漫画からお酒まで、とにかくあらゆる分野のオタクの方なんですよ。


――そういったマニアックな方がふらりとやってくるのも、バーの魅力ですよね。


奈田:普段生活していても会えない方がいらっしゃったりしますし、バーテンダーとお客さん、そしてお客さんとお客さん同士でも距離が近い。だから、バーでの出会いは、貴重な出会いになることが多いと思うんですよ。そして、バーの雰囲気も魅力だと思うんです。映画やアニメのかっこいい登場人物が、バーでウイスキーを飲んでいるシーンがあるじゃないですか。そんな創作物でしか見ないような憧れのシチュエーションを体験できるって、素晴らしいと思うんですよね。


■ウイスキーをもっと気軽に楽しむ本

――『推しモルトを見つけよう! ウイスキー愛好会へようこそ』は、表紙の絵のイメージと本文のギャップも面白いですよね(笑)。先ほど歴史の話がありましたが、ウイスキーの歴史をしっかり解説していて、通でも楽しめる内容になっています。


奈田:日本に入ってくるウイスキーの情報って、偏っているものが多いんですよ。例えば味の解説や蒸留所の設備に言及することが多く、「山崎」や「余市」を除くと、歴史をまとめた本がまったくと言っていいほどないんですね。執筆にあたっては海外の文献を取り寄せて歴史を調べましたし、蒸留所同士の関係についても書かせていただきました。メーカーや正規輸入代理店にも原稿を確認してもらい、ウイスキーに詳しい方でも知らないかもしれないような情報も盛り込んでいます。


――ワインのように、歴史や産地などの蘊蓄を知っていれば、初心者でもウイスキーをより深く味わえるようになるものなのでしょうか。


奈田:ブレンデッドはスコッチウイスキーの中心的な存在で、初心者も上級者でも満足できる味わいですから、まずはここから試して欲しいですね。ただ、そのまま飲むと40度で辛いと思いますから、何かで割って飲むことをおすすめしたいです。特に、初心者は水割りやソーダ割りよりも、甘みがある飲み物で割るのがおすすめです。ジンジャーエールやリンゴジュース、紅茶飲料などで楽しんでいただき、よりウイスキー本来の味が知りたいと思ったら、その割合を減らしていってみてはいかがでしょうか。


――身近なジュースで割ってもいいんですね。一気にウイスキーのイメージが軽くなった気がします。


奈田:こういうふうに飲んだ方がいい、という強いこだわりをもつバーテンダーもいますが、結局は自分が一番おいしいという飲み方が正解だと思うんですよ。お湯割り、水割り、ソーダ割などいろいろな飲み方を試し、自分にはこの飲み方が合うなと思ったら、それを追求していく。ウイスキーは自由に飲むのが主流です。最近はメーカーさんも、楽しくわいわい飲めればいいという風潮になってきています。


――この本を読んで、ウイスキーに興味を持たれた方に向けてコメントを頂戴できますと幸いです。


奈田:ウイスキーはもちろん専門的な知識があれば楽しめますが、かといって、必ずしも知識が必要というわけでもありません。知らないことに劣等感を抱く必要はなく、知っていても知らなくても楽しめるものです。なんとなくいいな……という気軽な思いで、ウイスキーに触れて欲しいですね。あと、バーはお好みのウイスキーを探す場としても最適ですし、酒屋さんの試飲では味わえない飲み方を知ることができるので、ぜひ足を運んでいただきたいですね。


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