2024年07月13日 09:20 弁護士ドットコム
仕事で失敗した従業員に「反省文」を書かせるのは、パワーハラスメント(パワハラ)にあたるのだろうか。
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「営業成績が未達成の場合に反省文の提出を求められている」という会社員から弁護士ドットコムに相談が寄せられている。
あるサービスの会員数を増やすように会社から指示されたが、実績がまだゼロ件のため、「今月末までに取れなかった場合、反省文を書くように」と他の社員の前で言われたという。
会員獲得によるインセンティブは一切発生せず「未達成による反省文という処罰は適切なのか」「パワハラに抵触しないものなのか」と疑問に感じている。
反省文をめぐっては、体重が増加したことに対する罰として、陸上自衛隊の隊員に上司が1万字の「反省文書」を書かせたことなどをパワハラと認定して国に150万円の支払いを命じた判決(東京地裁・2024年3月14日)も注目された。
今回のケースも法的に問題はないのだろうか。大野薫弁護士に聞いた。
——従業員に反省文を書かせることは「パワハラ」にあたるのでしょうか
パワハラとは、職場においておこなわれる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるもの――とされています。
これらすべてが認められて初めてパワハラとなりますが、このうち(1)と(3)は比較的わかりやすいので問題になることは少なく、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたかどうかが主たる争点となります。
これを踏まえて、反省文を書かせることがパワハラにあたるか検討します。通常、反省文を書かせることは、会社の業績向上を妨げる行為や、業務上のトラブルによる悪影響を二度と起こさないために課される「業務上必要」な作業だと思われます。
そうすると、従業員の行為によって問題が生じた場合に「相当な範囲」であれば、原則として、パワハラにはあたりません。
ただし、そもそも問題行動がない場合に反省文を書かせれば、「業務上必要」ではないのでパワハラにあたりえます。「業務上必要」であっても、要求される反省文の程度が度を超えている場合には「相当な範囲を超えた」ものですから、パワハラにあたるでしょう。
——今回のケースではどうでしょうか
今回のケースでは、パワハラにあたる場面は限定されると考えられます。
前提として、新規会員獲得が嫌がらせのような無理難題でない場合、その命令を受けながらも、達成できなかった従業員に反省文を命じることは、その従業員を業務に真剣に取り組ませる効果があると思います。
それゆえ、業務上の必要があると言え、さらに相当といえる範囲の反省文であれば、パワハラにあたらないと判断されると考えられます。
このように、強い指導や叱責と思われる行為であっても、会社の存続・発展のために必要となるものも少なくないため、従業員側がいわゆる「パワハラ」と考える行為であっても、パワハラと判断されないものもあります。
陸上自衛隊をめぐる裁判で、被害者の体重が増加したことを理由に、上司らが自衛隊法の文言を繰り返し1万字に至るまで書かせたことがパワハラと認定されたのは、例外的なケースと考えられます。
体重増それ自体が業務上の問題となることは少ないと思いますし、自衛隊法の文言を書かせても業務が改善することはありません。また、そもそも、反省させるために無意味な行為をさせるという罰を与えただけであり、自衛隊法の文言を書かせるのは一般的な「反省文」ではありません。そのため、業務上必要かつ相当な範囲を超えたと認められたのだと思われます。
また、今回の自衛隊の裁判で150万円を認めたのは、反省文だけでなく、他のパワハラと合わせて認められたものです。パワハラは、パワハラによってうつ病に罹患したり、自殺に追い込まれた場合には多額に上ることもありますが、多くは数十万円程度しか認められません。反省文を書かされたことだけで150万円もの慰謝料の支払いを命じられることは想定しがたいですから、注意が必要です。
【取材協力弁護士】
大野 薫(おおの・かおる)弁護士
2014年弁護士登録。東京大学経済学部経営学科卒業、神戸大学法科大学院修了。企業でインハウスローヤーとしてキャリアをスタート。2017年大野薫法律事務所開業。インターネットの問題や中小企業の法務に注力。第一東京弁護士会。
事務所名:大野薫法律事務所
事務所URL:http://www.kaoruono.com/