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フェラーリ「12チリンドリ」の名前と形に込められた意味とは?

2024年07月12日 12:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
フェラーリの新たなフラッグシップモデル「12(ドーディチ)チリンドリ」が日本に上陸した。なぜ「12気筒」という言葉をそのまま車名としたのか(チリンドリ=シリンダー)。デザインはこれまでのフェラーリと比べてどこが特徴的なのか。実車を確認してきた。


今だからこそ「12気筒」



フェラーリは2024年5月に米国マイアミ州で12チリンドリを世界初公開した。日本上陸は、そのわずか1カ月後だ。数ある輸入車の中でも、かなり早いタイミングと言えるだろう。それだけ、日本には熱狂的なフェラーリファン(フェラリスタ)が多いということかもしれない。


それにしても、まず印象に残ったのは車名だ。イタリア語で12気筒を表すドーディチ・チリンドリをそのまま使っているのだから。



昔はエンジンのシリンダー数を車名にする例が多かった。日本車ではトヨタ自動車「センチュリー」の前身にあたる「クラウンエイト」などがあったし、イギリスではアストンマーティン初のV型8気筒エンジン搭載車が、そのまま「V8」と名付けられていた。



でもそれは、シリンダー数の多さや排気量の大きさがステイタスだった時代だからだ。近年は環境対策が重要で、ターボの装着や電動化などでエンジン本体は小さくなる傾向なので、シリンダー数を車名にすることはほとんどない。



数少ない例外が、つい最近まで販売されていたフィアット「500ツインエア」だが、こちらは昔とは逆に、シリンダーの数が少ないことをアピールしていた。



そんな中で、フェラーリが12チリンドリという名前を使ってきたのは、この時代であっても電動化せず、ターボもつけず、自然吸気のV12を積んでいることが、むしろフェラーリらしさであると考えているからだろう。


さらに言えばフェラーリは、第1号車がすでにV12を積んでいた。その後も12気筒はフェラーリのフラッグシップに積まれ続け、F1やル・マン24時間レースで勝利を重ねてきた。こうしたヒストリーも車名に込めているはずだ。

「デイトナ」を思わせる顔つきの理由は?



東京都内で開催された発表会では、フェラーリのプロダクトマーケティングのヘッドを務めるエマヌエレ・カランド氏が来日し、車両の特徴を説明した。同氏によれば12チリンドリは「フェラーリDNAを完璧に体現したクルマ」だ。具体的には、1950~60年代のV12エンジン搭載モデルからインスピレーションを得たという。


スタイリングについては、4リッターV8ターボにモーターを組み合わせてシステム最高出力1,000psを発生するプラグインハイブリッド方式のミッドシップスポーツカー「SF90ストラダーレ」からインスパイアを受けたという説明があった。


12チリンドリはクーペのほか、オープンボディの「スパイダー」も用意されることになっており、発表会場ではクーペの実車を見ることができた。



ガラスルーフを採用することでキャビン全体を「ブラックスクリーン」とし、ジェット戦闘機の翼のように後退角をつけたボディパネルを組み合わせたデザインは、たしかにSF90ストラダーレに似ている。


12チリンドリではエンジンフードのアウトレットにも同じモチーフを取り入れ、ダイナミックな雰囲気を出している。



一方でフロントマスクは、昔からフェラーリを見てきた人であれば、「デイトナ」の愛称で知られる「365GTB/4」を思い出したはずだ。プレゼンテーションでは明言はしなかったものの、歴代12気筒を紹介する画像の中にはデイトナがあったので、意識しているのではないだろうか。


そしてボディサイドは、前任車の「812スーパーファスト」では抑揚の強いラインだったのに対して、フロントにV8ツインターボエンジンを積んだ「ローマ」に近い、シンプルな造形になっている。


12チリンドリのボディサイズは全長4,733mm、全幅2,176mm、全高1,292mm、ホイールベースは2,700mm。ローマよりやや長く、大幅に幅広く、やや低い。実車を見ても、横方向はともかく、縦方向はそれほど大柄ではないと感じた。

シートからも伝わるヘリテージ性重視の姿勢



発表会では現在のフェラーリ5車種の位置関係についても説明があった。横軸の右端がパイロット(レーシングドライバー)、左端がスポーツカードライバー向けとあり、右端がSF90、左端がローマで、12チリンドリは中央に位置していた。


つまり12チリンドリは、スーパーカーとグランドツアラーのキャラクターを併せ持つことから、それぞれの車種とつながりのあるディテールを取り入れ、そこにフラッグシップならではの華、12気筒スポーツカーとしての伝統を加えるために、デイトナを思わせるフロントマスクを採用したのではないかと見ている。



インテリアはローマで初導入され、4ドア4シーターの「プロサングエ」にも採用された左右対称のデュアルコクピットを受け継いだ。インパネの造形はプロサングエに似ていて、エクステリア以上にグランドツアラー色が濃い。


ほかの現行フェラーリと明らかに違うのはシートで、中央の縦畝の左右に通気孔の開いたストラップを配したスタイルは、デイトナなど1970年前後のフェラーリに採用されていたパターンを思わせる。フロントマスク同様、ヘリテージ性を感じる部分だ。



荷室はプロサングエ同様、ハッチゲートでアクセスする。2シーターのスポーツカーということで、開口部の幅は限られており、容量は270リッターとのことだが、2人の旅行のための荷物を収めるには十分だろう。


エンジンの排気量は6.5リッターでプロサングエと共通だが、最高出力は105psも上回る830psを発生する。トランスミッションが8速のデュアルクラッチであることも同じであるものの、4輪を駆動するプロサングエに対し、伝統を重んじる12チリンドリは当然ながら後輪駆動だ。



デザインを見て感じたのは、12チリンドリは昔からフェラーリに憧れ、何台かを乗り継いできたベテランにこそふさわしいのではないかということ。伝統の自然吸気12気筒エンジンを積み、車名でもそれを誇示し、電動化はせず、デイトナを思わせる顔つきやシートを取り入れているからだ。



選ばれた人のための特別なクルマというプレゼンテーションの言葉に納得した。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)