Text by 廣田一馬
『織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム』が9月16日までパナソニック汐留美術館で開催されている。
ポール・ケアホルムは、20世紀のデンマークで活躍した家具デザイナー。石や金属などの硬質な素材を取り合わせた当時では珍しいデザインが特徴となっている。
同展では、長年にわたり椅子研究と収集を続けてきた織田憲嗣のコレクションを中心にケアホルムの主要作品を網羅。建築家・田根剛氏(ATTA)が構成した会場で、家具約50点と関連資料を展示する。
開催に先立って行なわれた、内覧会と記者発表の様子をレポートする。
写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
会場は三章構成。第一章「ORIGINS」では、ケアホルムの出発点や原点、初期の重要な作品を資料と合わせて展示。
ケアホルムがコペンハーゲンの美術工芸学校の卒業制作としてデザインし、1枚の鉄板からつくられた『エレメントチェア(PK 25)』や、複雑な曲面で構成され、600脚限定で生産された『PK 0』などを見ることができる。
写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
第二章「DESIGNS」は、暗く黒い部屋で家具だけにスポットライトが当たるドラマチックな空間。初期から晩年までのデザインが基本的には時系列で並べられており、ケアホルムのデザインのプロセスを感じることができる。
写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
この空間について学芸員の川北裕子は「作品の解説を読むのではなく、なるべくオリジナルの家具そのものの魅力を味わっていただけるように工夫した」と語る。
第三章「EXPERIENCES」では、現代の建築や生活空間の中でのケアホルム作品のあり方を展示。
写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
織田憲嗣が実際に使用しているケアホルム作品も配置されている。
最奥にある常設展示「Rouault Gallery」では、実際にケアホルムデザインの椅子に座りながら同館が所蔵するジョルジュ・ルオーの絵画を鑑賞することができる。椅子は5脚設置されており、それぞれの素材やデザインによる違いがわかるのも楽しい。
写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
今回の展示空間を設計した建築家の田根剛は「デザインという価値観やものの考え方が非常に大切になってきている時代のなかで、『ポール・ケアホルム展』を開催できたことは大きな意味があると思っています」と話し、「今回のポール・ケアホルム展は非常に『難しい』です。この難しさがデザインの価値を高める展覧会としてのひとつの意義だと思います」と語る。
田根剛
また、タイトルにある「ミニマリズム」と「タイムレス」について以下のように解説した。
「1950年代の、戦後で物がつくれなかった時代にものをつくる創造的な力、またそこで開発された戦時中のいろいろな技術、それを人が機械を使ってかたちにしていくスタイル。いまは機械が人を使う、または人すら必要のない時代ですが、(当時のデザインは)クラフトを超えてものをつくろうとした時代から生まれてきた優れたものづくりです。いまこの時代につくろうと思ってもまずできないほどの技術力と、それに対するものをつくろうとするデザイナーの精神力が発揮されていると思っています」
「タイムレスというタイトルにもひとつの考え方があります。『美と崇高』という概念の『美』は時代によって変わってしまいますが、『崇高』はある種の厳しさであり、厳格さであり、畏怖の念を感じるもの。それがタイムレスという言葉のなかでケアホルムの作品に現れていると思います」
展示は9月16日まで。7月20日以降の土、日、祝日は日時指定予約制で、オフィシャルサイトから申し込みが必要となっている。