メガハウスの「解体パズル」シリーズは、2016年12月に始まって、2024年1月に発売された最新作「解体パズル ホホジロザメ」まで、ラインアップも10種類を超える人気シリーズです。
その第1作、「一頭買い!!特選 焼肉パズル-ウシ-」は、牛の肉の部位がそれぞれパズルのピースになっていて、焼肉でおなじみのメニューが、牛のどの部分の肉なのか遊びながら学べてしまうだけでなく、組み上がったらフィギュアとしても飾れることから、焼肉店にも喜ばれて、大ヒット商品になりました。
「『一頭買い!!特選 焼肉パズル-ウシ-』は新聞に掲載されたり、焼肉店さんが取り上げてくれたり、食肉業界の業界紙にも載りました。本当に一世を風靡(ふうび)したんです。
それなら、シリーズで次作を考えようということになって、解体だったらマグロでしょうということで、翌2017年に『一本買い!!本マグロ解体パズル』を発売しました」と、解体パズルの歴史を教えてくださったのは、現在、解体パズルのプロジェクト全体を統括している株式会社メガハウス トイ事業部企画チームの押尾雅弘さん。
実はこの解体パズル、そもそもの発端は2014年に発売された「人体模型」をモチーフにしたアクションゲーム『放課後の怪談シリーズ 恐怖!ドキドキクラッシュ人体模型』でした。
これが評判がよく、「放課後の怪談」シリーズとして展開した「模型復元パズル」のひとつとして、牛の解体パズルも発売されました。ただ、人体模型は人気があったものの、放課後の怪談シリーズ自体は継続しませんでした。
焼肉店にも好評だった、温めると色が変るパーツなどのギミック
「シリーズ自体を一旦見直そうという中で、牛を“焼肉”というコンセプトで出したというのが最初なんです。パーツ自体は、以前に出したものと同じなのですが、焼肉なので特殊な塗料を使って、指先で温めるとパーツの色が赤色から茶色に変わる機能を入れたり、焼肉っぽさを強調するためにお皿のパーツを入れたりしました」と押尾さん。
このシリーズ、実際にパズルとしても楽しいのですが、飾ったりできる工夫や、ちょっとしたユーモアが入っていたりするのが特徴で、そのスタイルは最初の「一頭買い!!特選 焼肉パズル-ウシ-」から現在でも継承されています。
実際、この製品が発表されたときの東京おもちゃショーを取材した際、その発想の面白さに感動して記事を書いた覚えがあります。パズルで知育玩具でフィギュアで、細部までよくできている上に、きちんとユーモアやおふざけを入れる、その姿勢が素晴らしいと思ったのです。
牛、マグロ、豚、カニ、鶏、フグ、羊と続き世界的なヒットに
シリーズは、牛、マグロ、豚、カニ、鶏と続きます。これが、海外でも評判を呼び、中国やアメリカでは人気商品となり、外国人観光客のお土産としても人気になりました。
特に「一頭買い!!黒豚パズル」は、中国で大ヒットして、中国ではお祝いなどの席で欠かせない“豚の丸焼き”をモチーフにしたバリエーション「一頭買い!!豚の丸焼きパズル」も発売。実際に丸焼きになった豚を食卓に載せた姿を再現できるディスプレイスタンドなども付属する凝った製品です。
「豚の次が鶏ではなくカニになったのは、牛、マグロと陸のもの、海のものという順序だったので、そこを踏襲しているからです。肉だけで作ると広がりがないという考えもありました。また、最初はパズルのパーツに部位名を刻印していたのですが、海外版を出しやすくする意味もあって、途中からタンポ印刷(※)に変えています」と押尾さん。
※インクをつけたシリコンゴムのパッドをスタンプのように押し付けて印刷する方法
解体パズルシリーズは一見して面白そうだということが伝わるから、話題になるのですが、実際に遊んでみると、最初の印象以上に面白く、興味深い製品だということが分かります。
まず何より、生き物の「解体」というデリケートな題材であることをメーカー側が十分に理解した上で、楽しく遊べる製品として成立させていることが、実際に遊んでみるとよく分かるのです。
「企画の最初には理科室がモチーフだったこともあってカエルもあったのですが、それが製品化されず牛が残ったというのも、内蔵をガッツリ見せるのではなく肉の部位にしたのも、“ファンシー”に見せるためという考えが最初からあったからです。その代わり、肉の部位自体は、きちんとリアルにこだわります」と押尾さん。
食材から離れた野心作「解体パズル ホホジロザメ」ができるまで
食材がモチーフになっているのも、そういう部分への配慮なのでしょう。ところが、今回ついに、食材を離れてホホジロザメが取り上げられました。当然、パズルのパーツも内臓です。
「食材に縛られると、どうしても狭い展開になってしまうというのがあって。それでも中身が気になる生き物はかなりたくさんいると思っていました。それでちょっと変わった生態で、中身が気になって、中を開けた状態が人間的に拒否反応の起きない、グロくないものはないかと考えたんです。
犬や猫は正直イヤですし、中身にも興味が持てません。そう考えていって、モチーフとして人気があるものならサメ、それもホホジロザメだよねと企画がまとまりました」と今回、「解体パズル ホホジロザメ」の開発を担当されたトイ事業部企画チームの芳賀智江さん。
2025年は映画『ジョーズ』の公開50周年ですし、サメ映画は日本でも大人気です。しかも、この「解体パズル ホホジロザメ」は、それだけの製品ではありません。実際に組み立ててみると、サメの体内がいかに興味深い構造であるかが理解できると同時に、ディテールまで徹底的に作り込まれている製品としての楽しさに圧倒されました。
例えば、目が片方、別パーツになっていたり、頭の骨の中に小さな脳を差し込むようになっていたり、子宮の中には子サメがいて、胃の中には何か分からない謎の骨が入っていたりします。
「サメは何でも食べるから、胃の中から正体不明の謎の骨が見つかることがあるらしいんですよ。そういったサメの性質を表現したくて、骨を入れました。製品を作るにあたって、ホホジロザメについてかなり調べたんです。そこにかなり時間がかかりました」と芳賀さん。
リアルとかわいいの絶妙さにユーモアもプラスするバランス感覚
さらに、このシリーズ全体の特徴として、各パーツはリアルに造形しつつ、全体はかわいらしく見えるような配慮がなされているという点があります。牛にしても顔がかわいくて、足がちょっと短いことで、全体のフォルムに愛嬌(あいきょう)があります。
マグロの顔もそうですし、サメに関しては、芳賀さんはつぶらな瞳になるように、何パターンも提案されたのだそうです。
「サメって目が死んでいるというイメージがありませんか? でもそこをリアルにしてしまうと怖くなりすぎる。それはこのシリーズでは微妙だなと思っていて。サメに関しては、それこそ『ジョーズ』みたいに怖い顔にしてもいいかとも思ったのですが、愛らしさがないと、体半分の中身が見えてしまっているから、かなり怖いモノになっちゃうなと。
なので、歯茎は見えているけどあごや歯は控え目になっていたり、少し寸詰まりなフォルムにしたりと、いろいろ考えています」と芳賀さん。
水しぶきを上げてサメが水上に現れているように見える台座が付属しているのですが、これにも仕掛けがあって、サメの背びれのパーツだけを、このスタンドに装着できるようになっています。そうすると、サメ映画でおなじみの「水上を背びれだけが近づいてくる」あのシーンが再現できるわけです。
それこそ、最初の焼肉パズルのお皿に始まり、「一尾買い!!トラフグ解体パズル」のフグ調理師免許証、「一本買い!!キングサーモン解体パズル」のサーモンの寿司など、何かひとネタを仕込むことが、この「解体パズル」シリーズの伝統になっているようです。
「初代の担当者がとにかく凝る人で、今回私がサメのパズルを制作するにあたっても、その人にいろいろ教えていただいたんです。もう本当にモノづくり全般に渡って勉強になりました。
一応、私が解体パズルの2代目担当ということになるのですが、緻密でこだわりが強くて、愛情を持って要素を詰め込むといったところは受け継いだと思っています」と芳賀さん。
さらに広がる「解体パズル」の世界
解体パズルシリーズは、基本的には食材から始まって、実在の生き物を解体する形で展開していますが、そこから派生した別シリーズも登場しています。それが、「解体パズルLite」や「解体パズル・サイエンス」、「解体パズルFANTASY」です。
「『解体パズル・サイエンス』は、恐竜などの最新の研究結果などを踏まえたモチーフを扱うカテゴリーです。元の解体パズルはおもちゃから派生したので遊びの要素を生かしたいなと考えて作っていますが、サイエンスは組んで、並べてという知育的な要素が強めですね。FANTASYは、キャラクターをモチーフにしたシリーズです」と押尾さん。
「解体パズルFANTASY」のシリーズからは、例えば『ウルトラマン』に登場する宇宙怪獣「ゼットン」を設定に、忠実に内部が再現されています。また、サンリオのキャラクターを使ったシリーズなどもラインアップされているから驚きます。
もちろん、こちらは内臓パズルなどではなく、夢のある中身が詰まっているといった構成になっていますが、ちょっとした毒やユーモアは健在で、そのあたりのバランスが、本当にうまいメーカーなのだなと思いました。
「解体パズルLite」は食材を扱いながら、「にんにく」「納豆」「うに」「寿司」、そして新製品の「たこ焼き」と、中身を解体するというものではなく、そのものがバラバラのパーツになっていて、それを組み立てるという、パズルとしてはむしろ本道の製品になっています。
「サメもそうですが、やはり解体できるグルメのネタは限られている中で、これ以上の広がりをどうするかというところで立ち上げたシリーズが『解体パズルLite』です。まずは身近にあって親しみやすいにんにくや納豆から始めました。
解体パズルの知育的な部分や、洒落っ気のような部分は少ないですが、立体ジグゾーパズル的な面白さがあると思います。あと、パーツが少ない分、価格も低めに設定しています」と押尾さん。
「私は、今回、サメを担当して、たこ焼きも担当したのですが、開発的にはたこ焼きの方がすごく大変でした。“Lite”といっていますが、パズルとしては本格的です」と芳賀さん。
現在、芳賀さんは新製品に取り掛かっているそうですし、メーカーとしても、このシリーズはまだまだ育てていく方向で動いているそうです。
食材からサメへ、また途中でLiteではなく解体パズルのシリーズで「へいおまち!!醤油ラーメン解体パズル」が出ていたりと、さまざまな試行錯誤が続く中で、確実に面白い製品を出し続けられているのですから、新製品にも期待してしまいます。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))