夫妻の仲は壊れても、父と子の関係を壊すようなことはするまいと両親ともに思っていたのだろう。こういう離婚なら、おそらく子どももいつか理解してくれるはず。それがうまくいく離婚といかない離婚、どこに違いがあるのだろう。
息子は当時4歳、夫から離婚を切り出された
「ある日突然、夫から離婚を切り出されたんです。他に好きな人ができた、と。ショックだったし別れたくなかったけど、その少し前から私たち夫婦の関係が微妙に変わってきたことに気づいてはいた。夫は『このまま家庭は家庭として暮らすこともできるかもしれないけど、それは誠実ではないと思う』と。そういう人だとわかっていたので、離婚を受け入れるしかありませんでした」
アキさん(49歳)はそう言う。15年前のことだ。ひとり息子は当時4歳だった。夫は息子に「パパとママは別々に暮らすけど、ふたりともきみが大好きだからね」と噛んで含めるように説明した。
離婚後も息子と良好な関係を続けた元夫
「元夫は月に数回は息子とふたりで会っていました。ときには私も一緒に食事をしたり。彼を憎む気持ちがなくはなかったから、当時はつらかった。でも息子の笑顔を見ると、父親と会うなとも言えない。その後、元夫は再婚し、私はその再婚相手の出産時にはなぜか手伝いにいくはめになったりして。息子も異母妹を自然と受け入れているように見えました」
中学生のころ、息子が少し情緒不安定になった時期には元夫が旅に連れ出したこともある。元夫のそんな努力が見えたからこそ、アキさんも彼を憎みきれず、息子の父親として尊重するようになったのかもしれない。
「息子は無事に大学生になりました。息子の異母妹も11歳。先日、元夫の母が亡くなり、みんなが一同に介したんです。なんだか和気藹々でおもしろかったですね。息子も『こうやってみんなで集まってるのを見て、おばあちゃんも喜んでるよね』と。
息子には『おかあさんも再婚すれば?』と言われます。その気はないけど、そこまで言える大人になったのかと感慨深いものがありますね」
これからは息子の人生を、そっと見守っていこうとアキさんは決めている。さりげなく、なにげなく子離れしていくのが今の目標だそうだ。
娘8歳で離婚を選択、元夫とは会わせなかった
20歳になった娘から、ショッキングな指摘を受けたばかりだというのはナナミさん(48歳)だ。娘が8歳のころ離婚し、女手ひとつで育ててきたのだが、元夫に娘を会わせたことはない。「娘は、『お母さんは私がお父さんを憎むように仕向けたんだよね』と言ったんです。そんなひどい言い方をされるなんて思ってもいなかった。ただ、元夫の不倫で離婚したので、どうしても許せなかったのは事実。こんな人に父親面されてたまるかと思ったんです。
夫は養育費を送ってきては、『たまには会わせてほしい』と言ってきたけど、会わせたくなかった。娘にはお父さんがどんなにひどい人か、あなたも愛されてないのよと言ったかもしれません」
娘はここ1年ほど父親と連絡をとってきたこと、何度も会ったことも白状した。母から聞いていた印象と、実際に会った感じがあまりに違っていた。離婚後、父に会わせてもらえなかったことも知ったと激しい口調でナナミさんに詰め寄ったという。
娘に「私とお父さんの関係を裂いた」と指摘され
「『お母さんは私とお父さんの関係を裂いたんだよ、わかってる?』と。そんなつもりはなかった。でもよく考えると、私にとってひどい夫でも、娘にとってひどい父親とは限らないんですよね。娘は小さいころからパパっ子でしたし、離婚当時のことも覚えているからどうして父親に会えないんだろうとひとりで苦しんでいたみたいです。それをわかってあげられなかったのは私がいけなかった……」
ナナミさんは心から娘に謝罪したが、娘の心は今、母親から離れているという。いつかわかってくれるはずだと信じているが、やるせない日々は続く。
「元夫から連絡もきました。1度、3人でちゃんと会おうと。元夫にも娘にも責められるかもしれないけど、やはりそうするしかないと思っています。これからの娘のためにも」
夫を嫌う気持ちを、娘に押しつけてしまうのは離婚家庭でなくてもありがちなことだ。だが、子どもには子どもの気持ちがあること、子と父との関係をどうするかは子どもの意志を尊重することが、なによりも重要なのかもしれない。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))