2024年06月26日 11:31 弁護士ドットコム
精神障害によって被疑者に刑事責任を問えない重大事件の被害者や遺族などでつくる「医療観察法と被害者の会(通称・がじゅもりの会)」は6月25日、東京都千代田区の弁護士会館で「第2回医療観察事件における被害者の関与と情報へのアクセスを考えるシンポジウム」を開いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
【関連記事:■「客に禁止行為をさせろ」メンズエステ店の秘密のルール 逮捕された女性スタッフの後悔】
医療観察法は、心神喪失や心神耗弱の状態で殺人などの重大な事件を起こした人に対して、刑罰ではなく適切な治療を提供することで再発防止や社会復帰を促すことを目的としている。
2001年に大阪教育大学附属池田小学校で児童8人が殺害された事件をきっかけとして2005年に施行された。
重大事件を起こしながらも心神喪失・耗弱によって不起訴になったり無罪とされたりした場合、検察の申し立てを受け裁判所が審判を開き、通院や入院などの処遇を決める。
加害者に手厚い医療が提供される一方、被害者や遺族へのケアや情報提供の仕組みが十分に整っていないことなどの問題が指摘されてきた。
この日のシンポジウムでは、医療観察法に関わった経験のある弁護士や元裁判官、医療機関の関係者などが登壇し、それぞれの立場から現状を報告した。
濱口文歌弁護士は、通常の刑事事件では被害者が裁判に参加できたり受刑者に心情を伝えたりできる制度があるのに、医療観察法の対象となる事件の被害者や遺族には用意されていないことを指摘。
被害者や遺族の多くは加害者が治療によって事件を起こしたことや被害者に対する認識をどう変えているのかを知りたいのに十分な情報が開示されない点に触れ、「厚労省のガイドラインでは、対象者の同意があれば社会復帰が促進されると見込まれる場合は被害者などへの情報提供が認められているので、これをもっと活用して積極的な情報提供ができればいい」と話した。
最後に、シンポジウムを主催した「がじゅもりの会」が2023年11月に国に提出した要望書を改めて紹介。加害者が心神喪失などで不起訴になったり入院したりした際の情報提供の機会や範囲の拡大や、被害者や遺族を支援する機関の創設などを求めた。
「がじゅもりの会」代表で、2019年に児童養護施設の施設長だった夫を殺害され被疑者が不起訴となった経験を持つ大森真理子さん(57)は「医療観察法は被害者のことを考えたものではない。通常の刑事事件の被害者とはむしろ格差が開いている。重大な事件の陰にいる被害者のことに思いをはせて、どうしたら被害者の権利利益につながるのかを一緒に考えてほしい」とあいさつした。