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賃貸マンションの契約「外国人お断り」に日本人妻が激怒 こんな対応、法的に許されるの?

2024年06月25日 09:50  弁護士ドットコム

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賃貸物件を借りようとしてたのに、夫が外国人であることがわかった途端拒否された──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。


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日本人である相談者名義で契約するつもりで、マンスリーマンションへの入居を申し込み、契約前までの手続きはすべてスムーズに進んでいた。ところが、一緒に住む予定の夫が外国人だとわかるやいなや、マンションオーナーの意向で外国人の入居を受け入れていないと言われ、契約を拒否されてしまったという。



夫は日本に数年住んだ経験があり日本語も流暢に話せること、マンションへの入居では不要とされていた敷金や保証人を用意することを伝えても「ダメ」の一点張りだったようだ。



「非常に悲しい。差別とほぼ変わらない行為だ」と憤りを隠さない相談者だが、同居者が外国人というだけで契約を拒否するというオーナー側の対応は法的に問題ないのだろうか。古賀麻里子弁護士に聞いた。



●基本的には貸主の自由だが…

──外国人の入居を断るようなケースは珍しくないのでしょうか。



不動産実務上、外国人との賃貸借契約では、入居中や退去時のトラブルが日本人との契約の場合よりも多く発生するのではないかという不安から、外国人の入居を拒否しようとするオーナーがいることは事実です。



国土交通省のホームページでは、入居拒否を防ぐため、オーナーや仲介会社、管理会社向けの実務対応マニュアルとしての「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も作成されています。



──同居者が外国人という事情のみで賃貸契約を拒否することは問題ないのでしょうか。



賃貸物件の契約では、契約自由の原則(私的自治の原則)が妥当するため、貸主が誰に対して物件を貸すかは、基本的には貸主の自由や判断に委ねられます。



しかし、どのような場合でも貸主の自由というわけではありません。



今回のケースのように、手続きが既に進んでいた中で、同居者が外国人であるということのみを理由として契約締結を拒否するような場合には、損害賠償等の問題が生じる可能性があります。



外国人を入居させることに対してオーナーが不安要素を持つことがありうるとしても、契約者が日本人であれば、そのような不安要素は一般的には払拭できそうです。



そのため、契約者が日本人、同居者が外国人であるケースは、契約者と同居者がともに外国人であるケースと比べると、契約締結を拒否する理由が外国人であることのみであると主張した責任追及は行いやすくなるのではないかと考えます。



●本当に「外国人」が拒否理由なのかは留意すべき

──今回のようなケースで注意すべき点は何でしょうか。



一般に、外国人であることを理由に契約の締結を拒否されたというケースで注意すべき点は、それが外国人であることだけを理由とした拒否なのか、別に合理的な理由が存在するのかを検討することです。



オーナーが自分の所有物件を、きちんと家賃を払い入居中のトラブルを起こさない相手に貸したいと思うことは当然です。



たとえば、賃借を希望する外国人が、外国人に対応している家賃債務保証業者の活用を拒否して家賃保証会社の利用ができないような場合、日本に来て日が浅く安定した勤務先がない場合などは、契約締結を拒否する理由が外国人だからというより、家賃保証会社の利用ができないことや、安定した勤務先がないことが理由ということとなります。



このような場合は、外国人であることだけを理由とした拒否とはいえないでしょう。



今回のように、契約者が日本人、同居者が外国人であるケースでは、契約者と同居者がともに外国人であるケースと比べると、契約締結を拒否する理由が外国人であることのみということはわかりやすくなりそうです。その点では責任追及が行いやすくなる可能性があります。



また、契約成立に向けてどこまで手続きが進んでいたのかということも問題となります。



契約自由の下では、本来交渉の打ち切りは自由で、契約が成立しなかった以上、契約に基づく権利義務は発生しません。



しかし、交渉の結果、相手方に対して契約成立への強い信頼を与える段階にまで至っていたのにこれを打ち切ったといえるような場合には、「契約締結上の過失」という判例法理により責任を問いうることとなります。



──似たようなケースが裁判で争われた例はあるのでしょうか。



過去に裁判で争われた類似のケースとして、「所有者が、もっぱら入居申込者の国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒むことは、およそ許されない」と判示し、賃貸借契約の締結を拒絶したことにつき不法行為責任を認めた事例(京都地裁平成19年10月2日判決)があります。



また、相手方が外国籍であることを理由に契約締結を拒否したことが、契約準備段階における信義則上の義務に違反し損害賠償義務を免れないとされた事例(大阪地裁平成5年6月18日判決、契約締結上の過失)等もあります。




【取材協力弁護士】
古賀 麻里子(こが・まりこ)弁護士
東京弁護士会所属。借地借家トラブル(事業者の立ち退き問題、土地建物の明渡問題、テナント賃料の増減額請求、サブリース解約交渉等の不動産問題)、各種損害賠償問題を多く扱う。
事務所名:古賀法律事務所
事務所URL:https://kogalaw.net