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食いしん坊のうさぎが登場する漫画、一見完璧なのにプロが添削すると? ビフォー・アフターで見る漫画家の恐るべき技術

2024年06月21日 21:00  リアルサウンド

リアルサウンド

動画サムネイル(https://youtube.owacon.moe/watch?v=URgnkV1VXkI)より

 各種アプリやウェブサービスの広がりにより、多くのクリエイターが世の中にイラストや漫画を届けることができるようになった。漫画においては、SNSでオリジナル作品を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。一方で、多くの競争相手の中で抜きん出ることがなかなかできなかったり、「独学」ゆえの悩みを抱えているクリエイターも少なくない状況だ。


(参考:【画像】食いしん坊のうさぎが登場する漫画、一見完璧なのにプロが添削すると? 納得のビフォー・アフター


 そんななか、プロの漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝えるYouTube動画が人気を集めている。「漫画」というジャンルで信頼を獲得しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、読者から募った作品を添削する人気企画では相談者の個性に寄り添ったアドバイスが心地よく、自分では漫画を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴だ。


 そんなペガサスハイド氏の活動の影響もあるだろう、「添削」といってもかなり絵が上手く、漫画という表現の面でも力のあるクリエイターが多い。最新の動画「【注意】絵がうまい人ほど気が付かない間違い~漫画添削No.93~」で取り上げられた作品も、一見してとても上手に見えるものだ。果たしてハイド氏は、どんなポイントを指摘するのか。


 今回添削することになった漫画は、まさに「添削動画」を見て漫画制作に関心を持ったという匿名希望さんの作品。コンビニの前でホットスナックを頬張ってご満悦のウサギが、タマゴが落ちているのを見つけて大喜びする、という楽しい1シーンだ。


 ハイド氏はいつものように、まずは作品の優れたポイントを解説していく。まずシンプルに「絵が上手」という評価。ウサギのキャラクターは可愛らしく、タマゴを発見したところで広がる卵料理もおいしそうだ。漫画については日が浅くても、イラスト等は多く描いてきたことがわかるタッチで、また動画をチェックしてきただけあって、1コマ目で背景を含めてシチュエーションをわかりやすく描き、見せゴマを大きく取るなど、ハイド氏がこれまで解説してきたポイントも押さえられていて、漫画に真摯に向き合っていることがわかる。「絵や漫画を描いたことがない人から見れば、プロの原稿と同じくらい上手に見えると思います」というのがハイド氏の評価で、確かにとても上手に見える。


 しかし、プロの目線から見ればまだまだ改善点があるようで、ハイド氏は元作品をベースにネームを引き直していく。詳しくは動画を直接視聴してもらいたいところだが、まずは初級者向けのアドバイスとして、「背景」に関するポイントを指摘。1コマ目で「コンビニ前」というシチェーションが描かれているが、ポストが目立ちすぎているため、郵便局にも見えてしまう。「場所」は重要な情報であるため、誰が見てもコンビニだとわかる背景にする必要があり、ハイド氏はやや引きの画角で、コンビニらしいロゴや看板も配置され、ラフに描いたネームでも「誰がどう見てもコンビニ」な背景に添削していた。


 さらに中級者向けのポイントとして、キャラクターの描き方をチェック。元作品を見ると、キャラクター自体は可愛らしくデザインされているが、大きめのコマで表情が見えず、これが「もったいない」とハイド氏。漫画を「描く側」からすると、キャラクターより背景の方が描くのが大変で、時間もかかるため気を配りやすいが、「読む側」が見たいのはキャラクターだという。そして、キャラクターの中でも一番気になるのは「顔」。言われてみれば確かに、最後の見せゴマでは卵料理が目立ち、キャラクターの顔が見えていない。匿名希望さん自身も「画面が地味でつまらない気がする」と語っているが、その原因はまさに、キャラクターが目立っていないことにあるようだ。ハイド氏の添削後を見てみると、タマゴを発見して喜ぶウサギの背景に、表情のアップを描き込んでその喜びを強調している。


 今回の動画で学べる大きなポイントは、「引き算」の効果だろう。背景を丁寧に描き込むという意識が、「ポスト」というコンビニというシチュエーションを表現する上で必ずしも効果的でないアイテムを配置することに繋がり、また上手に描けている卵料理も、結果としてキャラクターを目立たなくさせてしまっている。これは実際に手を動かし、絵を丁寧に仕上げているからこそ、逆に見えづらくなってしまうことのようで、プロだからこそ瞬時に気づき、解説できるポイントのようだ。


 その他にも細かな添削があり、もう一歩踏み込んだプロ志望者向けにはメンバーシップでの深掘り解説も。「すでに上手じゃん!」から「プロはさすがだわ……」という流れはそれ自体がエンターテインメントであり、漫画好きの人はぜひチェックしてみよう。


■参考動画:https://youtube.owacon.moe/watch?v=URgnkV1VXkI


(向原康太)