2024年06月19日 10:00 弁護士ドットコム
職場でトイレに行く時間が制限されているのがキツすぎる──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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相談者が所属する部署では、勤務時間中のトイレ利用は午前と午後それぞれ決められた時間2回だけと決められており、それ以外の時間帯では上司の許可が必要という運用となっているそうです。
トイレ時間が妙に長い人が一部にいることから所属長の指示で始まったルールで、「個室でスマホを見ている人がいるからこのような事態になったのでは」と推測する相談者。トイレ制限の厳しさに加え、タバコを吸うために席を離れることは自由という偏った決まりには疑問があるようです。
体調不良や女性特有の事情についても特に運用上の例外がないようですが、このようなトイレ利用の制限は法的に問題ないのでしょうか。草木良文弁護士に聞きました。
──職場でのトイレ利用制限は法的に問題ないのでしょうか。
トイレに利用制限を設けることは違法となる可能性が高いです。
トイレは生理現象ですので、回数や時間で利用制限をすることは無理があり、一般常識に反します。特に、体調、体質、女性特有の必要性を考えずにトイレを制限するルールはとても理不尽です。
そのため、トイレの利用制限が雇用契約や就業規則でルール化されていても、公序良俗違反(民法90条)として無効となることが多いでしょう。
相談者のケースでは、トイレの利用制限は所属部署の運用ということですので、上司からの業務命令かもしれませんが、その場合でも、トイレの利用制限は公序良俗違反で無効となります。
また、会社には従業員の安全に配慮する義務があります(労働契約法5条)。
トイレの利用制限自体が従業員に配慮していない場合、さらに実際に従業員の心身の不調が生じたといった場合などには、トイレの利用制限が安全配慮義務に違反するパワハラとなり、単にルールや業務命令が無効となるだけでなく、会社に慰謝料の支払義務が発生することもあり得ます。
──今回のケースのように時間制限や時間外利用の許可制の場合はどうでしょうか。
確かに、決まった時間にトイレに行くことはでき、それ以外の時間についても許可があればトイレに行くことはできます。
しかし、体調によっては決まった時間だけでは足りませんし、従業員の性格、上司との関係性、従業員と上司の性別によっては、トイレに行きたくても許可をもらいにくいこともあるでしょう。
そのため、ルール上、トイレにまったく行けなくはないものの、トイレに行くための不必要なハードルが設けられているといえます。こういった場合も安全配慮義務違反として違法となる可能性があります。
──相談者はトイレにこもる人がいたからできたルールではと推測していました。
会社や上司からすると、トイレに行く頻度や時間があまりに多い従業員について、トイレの中でさぼっているのではないかと考えることもあるでしょう。
従業員には、法律上、仕事に集中しなければならない「職務専念義務」がありますので、トイレでさぼっている場合には懲戒処分の対象になり得ます。とはいえ、いきなり処分を課すのではなく、まずは個別に注意を促すなどの対応が考えられます。休憩といえないような長い時間トイレにいるのであれば、その分を勤務時間にカウントしないといった対策も考えられるでしょう。
ただし、トイレの時間が長くても、体調や体質の関係でやむを得ないこともあります。そういった場合に証拠もなく懲戒処分を課したり、勤務時間にカウントしない対応をしたりすると、かえって違法となりかねません。厳しい対応をとろうとするのであれば、慎重に証拠を集めることが必要です。
もっとも、トイレの個室を撮影できる場所に防犯カメラ等を設置することはできませんので、個室内でさぼっているか否かを正確に把握することは難しいでしょう。
──証拠集めとしてはどのような対策が考えられますか。
トイレ時間があまりに長い従業員がいたら、上司が実際の離席時間について記録をとって残しておく、体調不良や配慮が必要なことがないかヒアリングする(体調不良などあれば診断書の提出を求める)などして離席にやむを得ない理由がないかを確認すると良いと思います。
──ボーナスでマイナス評価として加味するといった対策はどうでしょうか。
上司としては、「トイレに長い時間行っているから仕事の進捗が遅い」と感じることもあるかもしれません。しかし、トイレでさぼっているという証拠集めは前述のように容易ではありませんし、個人の業績の低い原因がトイレだと断定することも難しいです。
「トイレが長いからボーナス(賞与)を下げる」という安易な判断はせず、賞与の査定は全体をよく見て行うようにすべきでしょう。
【取材協力弁護士】
草木 良文(くさき・よしふみ)弁護士
東京弁護士会所属。不動産・飲食・イベント会社などを中心としたトラブル、労働問題、債権回収、離婚・男女問題などを扱う。2022~2024年度東京弁護士会・法教育委員会副委員長。
事務所名:小野瀬有法律事務所
事務所URL:https://kusaki-law.com/