2024年06月18日 09:50 弁護士ドットコム
近年、投資対象として、高級時計のロレックスが注目を集めています。人気モデルともなれば、購入時よりも高額で転売できるので、資産として保有する人も少なくないようです。
【関連記事:■カップル御用達「ラブパーキング」、営業拡大で3年目へ 70代男女管理人を直撃】
しかし、離婚時にはどうなるのでしょうか。弁護士ドットコムには、妻が昔、20万円で買ってくれたというロレックスの時計が、現在は数百万円になったことについて、相談が寄せられています。
男性は30年ほど前に妻にねだり、ロレックスを購入してもらったといいます。その後、使い続けていますが、現在価格が高騰しているそうです。男性はもし妻と離婚した場合、このロレックスが財産分与の対象になるのか、知りたいとのこと。男性自身は、「特有財産」だと考えているそうです。
資産価値の上がったロレックスは、誰の財産になるのでしょうか。財産分与の問題に詳しい関根翔弁護士に聞きました。
——離婚時に分与の対象となる「共有財産」と、対象とならない「特有財産」とは、どのようなものなのでしょうか。
財産分与(ここでは清算的財産分与の意味に限定します。以下同様となります。)とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を清算する制度となります。夫婦の一方が婚姻中に働いて得た収入には、他方の協力があったものと認められるのが原則であるため、婚姻中に働いて得た収入により形成した財産は、財産分与の対象となるのが原則です。
一方、夫婦の一方が婚姻前に既に形成していた財産、他者からの贈与により形成された財産、親等からの相続財産は、夫婦の他方の協力により形成された財産ではないため、特有財産として財産分与の対象とならないのが原則です。
また、夫婦の一方が婚姻中に働いて得た収入により形成した財産であっても、一方の専用のものは、特有財産として財産分与の対象とならないのが原則です。
例えば、夫が妻にプレゼントした装飾品(服、バック、ネックレス、指輪等)などは、妻の専用として財産分与の対象とならないと思われます。ただし、かかる専用のものが夫婦の収入状況からして特段に高価である場合など、事案により財産分与の対象となる場合があると思われます。
——この相談のケースでは、男性のロレックスは「特有財産」になるのでしょうか。
ご相談のケースで、夫が使用しているロレックスが財産分与の対象となるか否かは、判断が分かれる可能性があります。
問題のロレックスは妻が購入していることから、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産といえます。ただし、夫が妻にねだり購入してもらったものであり、夫が使用していることから、夫の専用として特有財産になるとも思えます。
もっとも、問題のロレックスは約30年前当時で20万円、現在は数百万円まで高騰している高価な物品であることから、財産分与の対象となるか否か判断が分かれる可能性があります。
ロレックスは高価な物品であり高騰も期待できることから、妻から夫への単純な贈与であったとは限らない可能性があります。例えば、妻が夫にロレックスを購入した際に、夫が使用するものとして購入するものの、家計が苦しくなった場合には売却して家計に充当する意図が含まれていたり、価格高騰を期待した投資目的が含まれていたと認定された場合は、財産分与の対象になる可能性もあると思われます。
——購入時の目的がどのようなものだったかが、ポイントになるわけですね。
ただ、ロレックスを購入したのは30年程前であり、当時夫婦間でどのような意図でロレックスを購入したのか、明確な証拠が残っていないことが想定されます。そのような場合は、客観的状況から当時の当事者の意思を合理的に推認することになるかと思います。
30年程前に購入した当時、ロレックスは20万円であり、当時の夫婦の収入状況にもよりますが、一般的な収入を基準とすれば高価なものと言えますので、夫が使用するものとして購入するものの、家計が苦しくなった場合には売却して家計に充当する意図が含まれていたと認定される可能性はあるかと思われます。
また、実際に現在数百万円まで高騰していることからも、価格高騰を期待した投資目的が含まれていたと認定される可能性はあるかと思われます。
一方、当時の夫婦の収入が一般的な収入を大きく上回っており、20万円程度のプレゼントは夫婦の間でめずらしくなかったとの事情があれば、単純な贈与の意思であったと認定される可能性もあるかと思われます。
夫婦間でプレゼントされた高価な物品については、事案によって判断が分かれるため、慎重な検討が必要となります。なお、裁判例には、ダイヤモンドの結婚指輪及びサファイヤの指輪を合計80万円と評価し、財産分与の対象としたものがあります(東京高判平7・4・27/家月48・4・24)。
【取材協力弁護士】
関根 翔(せきね・しょう)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学法学部、早稲田大学法科大学院を卒業。新司法試験に合格し、司法修習後、2013年に弁護士登録。都内法律事務所から独立し、令和元年5月に池袋副都心法律事務所を開設。離婚事件、借金問題、労働事件、相続問題、交通事故、不動産問題、刑事事件等の分野を扱っている。
事務所名:池袋副都心法律事務所
事務所URL:https://ikebukuro-houritsusoudan.com/