2024年06月10日 10:00 弁護士ドットコム
自転車の交通違反に反則金納付を通告できる交通反則切符(青切符)による取締りを導入する改正道路交通法が5月17日、参議院本会議で可決、成立した。
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改正法は、携帯電話の使用や一時不停止、信号無視など113の違反行為を対象に、16歳以上による交通違反に対して適用する。2年以内での施行が予定されており、自転車の取締り現場に大きな影響があるとみられる。
交通事故全体に占める自転車関連事故の割合が増加し、実効性のある取締りが必要であるとともに、反則金納付で簡易迅速に違反処理を終結することで、違反者・警察双方の負担軽減を図る狙いがある。
自転車利用者にとって、交通ルールを守り安全第一で走行しなければいけないことに何ら変わりはないが、改正法による取締り強化はどう影響するか。自転車のルールやマナーの啓発などに取り組んでいる一般財団法人日本自転車普及協会の専務理事・田中栄作氏と理事・栗村修氏に話を聞いた。(ライター・望月悠木)
改正法が可決された背景として、交通事故の発生件数が減少傾向の中、自転車に関する事故割合が増加していることがある。警察庁の統計によると、2023年に自転車乗車中の死者数は346人と(前年比+7人)と2015年以来8年ぶりに増加に転じるなど対策が求められている状況だった。
田中氏は、自転車の事故割合が増加している理由について、コロナ禍が落ち着いたことによる外出する人の増加、自転車を利用したデリバリーサービスの普及などを挙げつつ、「主要因は高齢化社会ではないか」と指摘する。
「若い人にはなんてことない自転車との接触も高齢者であれば大怪我につながってしまう。運転する側も高齢化しているため、若い人なら避けられる歩行者や障害物にも接触しやすい。その結果、他者を怪我させたり自分自身が怪我をしたりなども多くなっていることが事故件数の増加を招いていると思います。
近年普及している電動アシスト自転車も、少しペダルをこいだだけでも簡単にスピードが出るため、ちょっとした接触でも怪我をさせてしまいます」(田中氏)
栗村氏は、事故が起こりやすい要因として「自転車に乗っている時の心理状態も影響しているのでは」と語る。
「街中で自転車に乗っている人は比較的急いでいる印象があります。せっかく自転車に乗っているのだから、少しでもはやく目的に辿り着きたい。歩行者よりもむしろ自転車の方が信号などを無視しているように感じます。
加えて、自転車は一度立ち止まると、ペダルをもう一度強く踏んでこぎ始めなければいけません。そのことが億劫なため、立ち止まるべきところで立ち止まろうとはなかなか思えない。自転車は事故を引き起こすリスクを多く含んでいる乗り物と言えます」(栗村氏)
青切符による取締りを導入する改正法の成立について、田中氏は「事故が増えている以上、政府は当然の対応をしたと思う」と前向きに捉えている。
「改正法によって自転車に関する新しいルールが追加されるわけではなく、以前から存在するルールを破った場合の取締りが強化されるだけです。
ルールを守らない自転車利用者はここ最近増えており、私たちとしてもマナー講習を積極的に実施してはいるのですが、そもそもルールを守らない人はマナー講習に参加しません。ルールを守らない自転車利用者にルールを守らせるために取締りを強化する方向に動くのは致し方がないです」(田中氏)
栗村氏も「歩行者感覚で自転車に乗っている人は依然として多い」とし、「ただ、自転車は“車両”。そのメッセージを伝える意味で、改正法の影響力に期待している」と法改正をポジティブに受け止めている。
栗村氏はまた、「改正法は自動車ドライバーの意識を変えることにもつながる」と話す。
「20~30年前、車道の端を自転車で走っている際に自動車運転者から『自転車のくせに車道を走るな』と怒鳴られることは日常茶飯事でした。今は堂々と走れるようになりました。
自動車ドライバーに対しても自転車に関する交通ルールやマナーを周知させるようになったと感じますが、それらを知らない人も依然として珍しくありません」(栗村氏)
自動車ドライバー側が交通マナーとして知っておくべき一例として、「車道の自転車専用レーン(自転車専用通行帯)に路上駐車する自動車」を挙げる。
「駐停車禁止の標識がなければ、原則として自転車専用レーンでの駐停車は違反にはなりません。それでも、自転車利用者にとって、自転車専用レーンに路駐された自動車は障害物でしかなく、その右側を抜けて自転車で走ろうとすれば自動車と接触する危険性が高まります。
改正法が可決されたことで、自転車に関するルールやマナーを知る機会が増え、そして自転車利用者を困らせる自動車ドライバーも減っていくのではないでしょうか」(栗村氏)
一方で、制止している自転車に乗ってスマートフォンを操作している姿を警察に見つかり、「運転しながらスマートフォンを触っている」と勘違いされて青切符を切られるといったような“誤認”が施行後は発生するかもしれない。
栗村氏も「そういうケースは発生すると思う」と懸念を示すが、「ただ、やはり自転車の交通違反をする人は多い。現行の法律でこの流れに歯止めをかけることは難しいです」という。
「ミクロ的な視点で見ると、誤って青切符を切られるといったトラブルに見舞われる人も出てくるでしょう。しかし、マクロ的な視点で見ると、自転車関連の事故を減少させる働きが改正法には期待できます。
結果的には改正法が施行されたことにより、不幸になる人を減らせる可能性が高い。もちろん、誤った取締りがないように警察も慎重かつ冷静な対応をしてほしいところです」(栗村氏)
また、改正法のデメリットとして“自転車離れ”も想定されるが、栗村氏はそれほど心配していない。
「短期的には自転車を利用・購入する人は減るかもしれません。しかし、誰もが自転車のマナーやルールを守るようになれば、自転車がいかに快適な乗り物であるのかを今一度実感できると思います。
横に広がって車道を走るロードバイクの集団、無茶な運転をする配達員などがSNSで“チャリカス”と揶揄されていますが、そのような運転をする人も減っていくでしょう。長期的に考えればプラスの面が大きいです」(栗村氏)
改正法成立を受け、日本自転車普及協会は今後どのような取り組みを実施していくのか。
田中氏は「施行まで2年あるので、引き続き自転車の交通ルールやマナーの啓発に努めたい」と引き続き安全対策に取り組む意欲を見せる。
「車道を走りたくても自転車専用レーンが整備されておらず、自動車との接触を恐れるために歩道をしぶしぶ走る自転車利用者も一定数います。自転車を利用しやすくするためのインフラ整備の推進なども発信していきたいです」(田中氏)
交通安全対策として何より重要なのは、一人ひとりの“安全意識”の向上だろう。法改正が「自転車のマナーやルールを今一度確認しておこう」という意識を持つきっかけになれば、“改正した甲斐があった”といえるのではないか。自転車事故減少のキッカケになることを期待したい。
【筆者プロフィール】望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki