2024年06月04日 10:10 弁護士ドットコム
俳優・東出昌大さん主演の映画『天上の花』の脚本を同意なく書き換えられたとして、脚本家の女性が、脚本を共同で担当した男性を相手取り、損害賠償110万円などを求めた裁判で、大阪地裁はこのほど、5万5000円の支払いを命じる判決を下した。
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報道によると、原告の女性は、同意なく大幅に脚本を書き換えられたことで、著作者人格権を傷つけられたうえ、脚本家としての名誉も傷つけられたなどと主張。一方、男性は、加筆修正の同意があったと反論していたという。
大阪地裁は、原告の同意を得ていなかったことは明らかとして、「同一性保持権」を侵害したことを認めた。著作者人格権は、漫画『セクシー田中さん』ドラマ化のトラブルでも注目を集めたが、今回のケースをどう見たのか、舟橋和宏弁護士に聞いた。
今回の裁判で、原告が主張していたのは、著作者人格権のうち「同一性保持権侵害」(著作権法20条1項)です。同一性保持権は、著作物に関して「意に反する改変」を防ぐ権利であり、もし権利侵害があった場合は、著作者側が差し止めや、損害賠償を請求することができます。
ちなみに、『天上の花』の脚本は、原告が執筆し終えたあとに被告が手を入れたということですので、脚本は共同して著作したとも言えるところですが、著作者間においても、著作者人格権(同一性保持権)の侵害は成立します。
報道によると、被告は「原告の同意を得ていた」と主張していたということですが、脚本の改変があったとしても、その改変がやむを得ないものであった場合は、同一性保持権の例外規定により権利侵害と判断されません。また、そもそも同意があれば「意に反する改変」となりません。
この点について、大阪地裁は「原告の同意を得ていないことは明らか」「意に反する改変」であるという判断をしています。改変がやむを得ないものとも認めなかったと考えられます。
また、原告は、脚本の改変によって名誉を傷つけられたとして、名誉声明保持権(113条11項)についても主張していたとみられます。しかし、大阪地裁は「映画の上映によって原告の名誉が害された事実は認めがたい」として、こちらの主張は棄却したようです。
同一性保持権は、差し止めなど、効力が強い権利でもあり、ビジネス上も著作者人格権の不行使特約が結ばれることがよくあります。今回のケースにおいても、そのような合意がされていたのであれば、トラブルを防げた可能性が十分あります。
昨今、漫画『セクシー田中さん』のドラマ化に関するトラブルが注目されましたが、あらかじめ書面のかたちにしておくことである程度トラブルを回避できるケースがあります。
取り決め・約束事を明確化することは、リスク回避において極めて重要ですが、そもそも当事者間においてどういう条件面であるのか、などが話し合われなければ意味がありません。当事者間で条件面を詰めて、明確化することを是非していただきたいと思うばかりです。
【取材協力弁護士】
舟橋 和宏(ふなばし・かずひろ)弁護士
芸能・エンターテインメント案件を多く取り扱うレイ法律事務所に所属。同事務所においては、マンガ・アニメ・映像コンテンツ等の知的財産権(特に、著作権・商標権保護)を多く扱う。著書として「実務がわかるハンドブック 契約法務・トラブル対応の基本[国内契約書編](第一法規)」等。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/