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なぜ? 駐車券紛失したら、料金「3万6000円→3000円」に 弁護士は「罪に問われることはないが…」

2024年06月04日 09:50  弁護士ドットコム

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コインパーキングの駐車券を失くしてしまったので精算機で「紛失ボタン」を押したら、本来払うべき金額よりもかなり安くなる“激安料金”が表示されたけどこのまま出庫していいのだろうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。


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相談者は、24時間ごとに600円加算される駐車場に2カ月以上停めており、久しぶりに車を出そうとしたら駐車券を紛失してしまったようだ。やむなく精算機で紛失した際に利用するボタンを押したところ、「3000円」という料金が表示されたという。



仮に駐車期間が60日(約2カ月)だとしたら、1日600円で駐車料金は「計36000円」。3000円ぽっきりで出庫できてしまっては“紛失得”になってしまうことから、相談者も不安になったようだ。



もし紛失ボタンで表示された金額以上の料金が発生しているにもかかわらず、紛失ボタンで表示された金額のみを支払って出庫した場合、罪に問われるようなことはあるのだろうか。清水俊弁護士に聞いた。



●意外な結論?「罪に問われることはないと考えられる」

──何かしらの罪に問われることはあるのでしょうか。   今回のケースで罪に問われることはないと考えます。



まず、窃盗罪(刑法235条)ですが、窃盗は「財物」の占有を奪う犯罪であり、本件のような「差額の3万3000円得する」というような「利益」については窃取の対象になりませんので成立しません。



次に、詐欺罪(刑法246条)ですが、確かに『つり銭詐欺』に少し似ています。ただ、精算機での処理であって人に対して騙す欺罔行為がありませんので、詐欺罪も成立しません。



最後に、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)ですが、紛失したことが虚偽であれば成立の可能性もあるかと思います。しかしながら、今回のように駐車券を真に紛失したということであれば、精算機に「虚偽の情報若しくは不正な指令」を与えたとはいえず、電子計算機使用詐欺罪の成立もないと考えます。



●“激安突破”したら「後から差額の返還請求受ける可能性ある」

──このまま“激安料金”を支払って済ませて問題ないのでしょうか。



民事上は、3000円支払った後の差額3万3000円につき、「不当利得」が問題となり得ます。



不当利得とは、法律上の原因なく利益を受け、他人に損害を及ぼした場合には、その利得を返還しなければならない、という民法上のルールです。



ここで問題となるのが、相談者が得た利得は、駐車場側が設定した「紛失ボタン」及びその精算金額に基づいて発生しているため、「法律上の原因」があり返還不要ではないか、ということです。



確かに「紛失ボタン」及びその精算金額が終局的な精算方法の合意だと考えれば、そうした見解もあり得なくはないのかもしれません。



最終的には個別事情によりますが、「紛失ボタン」は駐車券を紛失したために出庫することができない事態を救済するための暫定的な措置に関する合意であって、事後的に入出庫時間が特定されれば、過不足についての精算が必要になるのではないかと個人的には考えます。



そうだとすれば、本件では、相談者は客観的には差額の3万3000円を駐車場オーナー側に返還すべき立場にあるため、もしその事実を駐車場側が把握した場合には返還請求を受け得る状態だといえます。



なお、多くの駐車場では、設置されている看板に緊急連絡先の電話番号が記載されています。支払い方法に迷った場合、まずは問い合わせてみるのが良いでしょう。




【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/