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生活費は親が全負担「ニート歴」20年の兄、妹は相続にモヤモヤ「せめて遺産は多くもらいたい!」

2024年05月18日 10:40  弁護士ドットコム

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健康なのに働かず、ずっと実家に経済的に頼っている兄について、ほかのきょうだいからの不満が、弁護士ドットコムに寄せられています。


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ある女性は「ニートの兄は20年間働かず、両親からお金をもらい遊んだり、光熱費を払ってもらったりしていました。総額数千万円になると思います。親の遺産相続では、ニート時代に兄が親からもらっていたお金は考慮され、妹の私が兄より多く遺産をもらうことはできるのでしょうか?」と悩んでいるそうです。



また、自身が「20年あまりニート生活をしている」という男性からも、父親の財産の相続について疑問が寄せられています。



男性は父に生活費を負担してもらった上、飲食費やタバコ代、社会保険料なども出してもらっていたそうです。ところが、男性の兄は、ニート生活の費用について、「特別受益だ」と指摘しており、男性は自分の遺産相続がどうなるのか悩んでいるとのことでした。



成人の子どもの一人が親に生活費などを負担してもらっていた場合、遺産相続はどうなるのでしょうか。村田篤紀弁護士に聞きました。



●「特別受益」は相続人間の公平を図る制度

——ニートの生活費は「特別受益」との指摘がありましたが、「特別受益」とはどのようなものなのでしょうか。



特別受益とは、被相続人からの贈与や遺贈によって共同相続人が受けた利益を遺産の分割に反映させ、相続人間の実質的公平を図る制度です。



もっとも、被相続人からの贈与すべてが特別受益になるのではなく、婚姻や養子縁組のため、または「生計の資本」として受けた贈与が対象となります。



ここにいう「生計の資本」というのは、贈与された金額の多寡、贈与の趣旨から判断されますが、相続分の前渡しと評価できるほどに高額な贈与であれば原則として特別受益に該当すると考えられています。



●金銭の授与なければ「特別受益」は困難

——ニートの生活費は、「特別受益」にあたりますか?



共同相続人が子どもたちのみであり、そのうちの一人だけが被相続人に扶養されていたという家族関係の場合に、遺産分割において、他の相続人から特別受益の主張がなされることがあります。



その場合、どう判断されるかは個別の事情により異なります。



まず、金銭の贈与ではなく、被相続人と同居して子の生活費を負担していた(住む場所と食事を提供していた)ケースでは、金銭の贈与がありませんので、生活費相当額が特別受益と認められるのは困難です。



次に、病気等の理由により収入を得られないという事情がある(要扶養状態)場合です。このケースでは、金銭の贈与による援助があったとしても、親の扶養義務(民法877条第1項)の範囲であれば、特別受益になりません。扶養義務の範囲内かどうかは、扶養を必要とする状態や扶養義務者の財産内容等により判断されます。



必ずしも扶養の必要がなく、毎月一定額の贈与が長期間にわたって行われ、その合計が高額になる場合には、金額からすると相続人間の公平の観点から特別受益に該当するとも考えられます。



しかし、定期的な贈与があったとしても、短期間で費消されてしまうような金額の贈与は、それが結果的に多額になったとしても、「生計の資本」としての贈与とはいえないと判断される可能性が高いと思います。



●「ニートを許容していた」と判断される可能性に注意

——では、ニートの生活費が「特別受益」として認められない場合、ほかの子どもたちと同じ条件で親の遺産を相続できるということでしょうか?



被相続人が、ニート状態でも扶養の趣旨で援助していた(ニートを許容していた)というような場合には「持ち戻し免除の黙示の意思表示」(被相続人が特別受益分を遺産に戻さなくてもよいとする意思を暗黙のうちに示すこと)があったと判断される可能性があります。つまり「特別受益」として認められず、ほかの子どもたちと同じ条件で相続できることになりますので注意が必要です。



しかし、自力で生活する能力がある(要扶養状態にない)にもかかわらず、仕事をすることもなく、その訓練も受けていない(いわゆるニート)相続人が親から援助を受けていた場合には、他の相続人は不公平感をより強く感じることでしょう。



私個人としては、ニートの子に対する継続的な金銭援助は、公平の観点から、特別受益に該当する可能性が高くあるべきだと考えています。




【取材協力弁護士】
村田 篤紀(むらた・あつのり)弁護士
名古屋市内の事務所にて相続及びこれに関連する事件を主として扱っています。相続の問題は、ご両親の相続として考えると、例えば、父の遺産分割、母の遺産分割と2度発生します。各相続では、一次相続の時点から二次相続を踏まえた相続対策(紛争防止や相続税対策)を講じることが最も有益です(対応策の選択肢が最も多いです)。また、残念ながら紛争状態となってしまった場合にも、相続は法的構成の検討や立証方法など裁判所の手続が必要な場面が多くあります。このように、専門的な知見を要する場面が多くありますので、後悔しない解決のためには弁護士に相談することをお勧めしています。
事務所名:弁護士法人ロウタス法律事務所
事務所URL:https://www.horitsusodan.jp/