2024年05月16日 10:40 弁護士ドットコム
4月28日に投開票された衆議院東京15区の補欠選挙をめぐり、警視庁は5月13日、他の陣営の選挙活動を妨害した公職選挙法違反の疑いで、政治団体「つばさの党」の事務所などを捜索した。
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報道などによると、つばさの党の候補者たちが、他候補の街頭演説に重ねるように拡声器で大声を張り上げるなどし、有権者が演説の内容を聞き取ることができなくなるようにしたり、選挙カーを追い回したりするなど選挙活動を妨害した疑いがあるという。
これに対し、同党幹事長の根本良輔氏が自身のXアカウントで、「候補者以外の安倍へのヤジが合法な時点で、候補者である俺らが違法なわけがない」と反論。
「北海道のヤジも、俺らがやったヤジも全く同じ。なぜならヤジの定義が曖昧だから。音量がデカかろうがなんだろうが定義が曖昧な以上、ヤジであると一括りにされる。だから警察は、小池(百合子都知事)に圧力かけられて警告を出したりガサ入れするぐらいしかできない」と持論を展開した。
「北海道のヤジ」とは、2019年7月の参院選で、安倍晋三首相(当時)の札幌市内での選挙演説に「やめろ」「増税反対」などとヤジを飛ばした複数の市民が警察により演説現場から遠ざけられた「ヤジ排除事件」のこととみられる。排除行為が表現の自由を侵害したとし、2人の当事者が地元警察に損害賠償を求めた裁判では、札幌高裁が2023年6月、2人のうち1人の排除については道警の控訴を棄却し、違法とする一審判決を維持していた。
つばさの党代表の黒川敦彦氏は5月13日、捜索後のメディア取材に対し、「我々は表現の自由の中で、適法なことをやっていると理解している」などと話したとされるが、つばさの党陣営の行為が捜査対象となったことをどう捉えるべきか。作花知志弁護士に聞いた。
選挙活動は、当然「民主主義の原則」を前提として行われますので、表現と表現のやり取りの中で、社会が認める政策や候補者が浮かび上がることを理念としています。
ただ、選挙活動として行われている表現について、その場にいる聴衆などが、その「表現」の内容そのものを知ることができないような妨害行動は、「表現に対しては表現で対抗するのが民主主義である」という理念そのものに反することになります。
その場合には、選挙の自由妨害罪(公職選挙法225条)に該当する可能性があります。また、選挙カーで執拗に追いかけるなど「交通の便を妨げる行為」についても、同様に違反となる可能性があります。
本来であれば、選挙活動について、表現で対応するのではなく、刑事処罰で対応することは例外中の例外でなければならないはずです。しかし、選挙活動という表現を保護するためにも、選挙活動そのものに対して具体的かつ現実的な妨害がされている場合には、表現に対する具体的かつ現在の危険が存在するものとして、刑事処罰で対応することもやむを得ないのだと思います。
公職選挙法の選挙の自由妨害罪に違反した場合、4年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金となります。
もっとも、刑事処罰の可能性が、選挙活動という表現を萎縮させるような効果を生んではいけません。
妨害行為の具体的な内容や、妨害行為を行っている人物などを具体的に評価して、真に選挙活動や表現への具体的な妨害と言える限定的・制限的な場合にのみ、刑事処罰が許されると考えるべきだと思います。
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/