Appleは2024年5月7日、M4搭載のiPad ProとM2搭載のiPad Airを発表しました。それぞれ11インチ、13インチのサイズが用意され、特にiPad Airの13インチモデルは、大画面が欲しいが最先端の性能は必要ない、というニーズに応えるものでした。
アクセサリー類も刷新されましたが、この中での注目は、Apple Pencil Proです。日本での価格は21,800円となります。タッチアンドトライでApple Pencil Proを用いたフリーフォームでの描画を体験しましたが、特に新しい操作体系と触覚フィードバックは、Apple Pencilでの作業を異次元の心地よさに引き上げてくれていました。
新Pro・Air購入の際には、互換性に注意
Apple Pencilは、iPad Proの登場とともに第1世代が導入され、2018年にiPad Proが現在のフラットなデザインに変更されるタイミングで、側面に磁石でくっつけてペアリングと充電が可能となるApple Pencil(第2世代、以下「Apple Pencil 2」)が登場。
iPad ProにM2チップが搭載され、Apple Pencil 2では「ホバー」といわれるペン先が画面上のどこをポイントしているか、ペン先をタッチしなくても表示する機能が追加されました。
ペン先をタッチすると描画されてしまうことから、この機能を待ち望んでいたクリエイターは多かったようです。今回、iPad AirにもM2が採用され、Apple Pencil Proとの組み合わせでホバーを表示させることができます。
ただし、互換性については注意が必要です。
最新のiPad AirとiPad Proは、同時に発表されたApple Pencil Proと、iPad(第10世代)に合わせて用意されたApple Pencil(USB-C)のみの対応となっており、Apple Pencil 2など他の世代のApple Pencilは利用できません。
そのため、これまでiPad AirやiPad ProでApple Pencil 2を使っていたとしても、最新のiPadに買い換える場合、Apple Pencil ProやApple Pencil(USB-C)への買い換えが必要となります。
互換性がなくなったのはカメラ位置の変更が原因
Apple Pencil Pro以外の対応がなくなった背景には、FaceTime HDカメラの位置変更が関係しています。
これまで内側のカメラは、iPadを縦長に構えた際の上に配置されていました。しかし、第10世代のiPadで初めて、横長(ランドスケープ)に構えた際の上に移動してきました。
その位置には、これまでのiPad ProやiPad AirのApple Pencil 2のための充電ユニットが配置されていたため、カメラを中央に置く場合、Pencil用のユニットを左右のどちらかに逃がさなければならなくなります。
特にiPad Proは薄型化も進み、ディスプレイの縁も狭まっていくことを考えると、配置の変更以外に選択肢がなくなり、結果として、新しい配置に対応するPencilに変更することになったと考えられます。
Apple Pencil Pro、3つの新要素
Apple Pencil Proには、ハードウェア的に、3つの新しい要素があります。
1つ目は、ペンを握る軸の部分に感圧センサーが内蔵されたこと。これによって、スクイーズ(Squeeze)という機能が追加されました。
フリーフォームやメモなどのApple純正のアプリでは、スクイーズの動作で、ツールパレットの表示・非表示に割り当てられています。ペンを握るだけで、ペン先や色の変更ができ、ノート書きやメモ、走り書きなどの気軽なペン操作には非常に便利な操作性となりました。
2つ目は、ジャイロセンサーが内蔵されたことです。これによって、Apple Pencil Proは、ペンの回転という動作を認識できるようになりました。
例えば、メモで太いマーカーを選択している場合、ペンの向きによって太い線を引いたり、細い線を引いたり、線を描きながらペンを回転して太さを変えたり、といった表現ができるようになりました。
その際、ホバーの表示も、ペン先の方向を表すものになっており、どんな太さの線が引けるか、ペン先を画面に落とす前に知ることができます。
三つ目は触覚フィードバックの内蔵です。前述のスクイーズで表示させるツールパレットでは「やり直し」(Undo)の操作が拡張され、時計の針を戻すように何段階も戻ることができるようになりました。
その際に、1ステップ戻るごとに、ペンが「コツ」っといった触覚を返してきて、直感的にやり直しが反映されたことが分かるようになりました。
Appleによると、これらの新しいセンサーやフィードバックが備わっても、Apple Pencil Proのバッテリー持続時間には影響がないとしています。
アプリ開発者が新たな機能を割り当てられる
Apple Pencil Proのもう一つの進化は、Apple Pencil Proの新しい機能に対して、開発者がアプリ内で、独自の機能を割り当てることができるようになった点です。
AppleはPencilのフレームワークで標準的なツールパレットや描画機能を提供し、前述のスクイーズの動作でパレットを開くといった処理を再現できます。
しかし開発者は、Pencilの新しい動作に対して、アプリに即したメニューや操作を追加することができるようになりました。
アプリによっては、標準的なツールパレットではなく、その他の編集メニューを表示させたり、イラストの編集中に異なるレイヤーを選択する度にフィードバックを返したり、ジャイロセンサーを用いて、回転させることで描画を行ったり。
アプリ開発者がApple Pencil Proをよりアクティブに活かして操作性や生産性を向上できるようになった点に、発展性を感じることができます。
著者 : 松村太郎 まつむらたろう 1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程終了後、ジャーナリストとして独立。2011年からはアメリカ・カリフォルニア州バークレーに移住し、サンフランシスコ・シリコンバレーのテクノロジーとライフスタイルを取材。2020年より、iU 情報経営イノベーション専門職大学専任教員。 この著者の記事一覧はこちら(松村太郎)