F1第6戦マイアミGP土曜日の予選後、車両パフォーマンス部門を率いるギヨーム・デゾトーは日曜日のレースに向けて、こう語っていた。
「今夜は明日のレースに向けて、2台のマシンに様々なシナリオを検討していく。10番手からスタートするユウキに関しては、周囲のマシンのペースを見ながらも、よりオーソドックスな戦略を採り、ベストなレースタイムを目指していくことになるだろう」
コース上で抜きにくい最近のレースを考えると、通常はトラックポジション(コース上の位置)を重視し、相手よりも早めにピットインするアンダーカットを考える。
今シーズン、ここまで角田裕毅(RB)とポイント争いを繰り広げ、このレースでも11番手からスタートしていたランス・ストロール(アストンマーティン)が11周目にピットへ向かったのは、まさにそれだった。
そして、その翌周、7番手を走行していたニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)がストロールのピットインに反応して、ピットインした。
しかし、RBは角田をステイアウトさせた。その理由をデゾトーはこう説明した。
「第1スティントはユウキにロングランをさせるつもりだった。だから、12周目にピットインしたヒュルケンベルグには反応しないことにした」
なぜか。それはこの週末のRBと角田のペースがハースとアストンマーティンを上回っていたこと。そして、マイアミ・インターナショナル・オートドロームはDRS区間が3つあり、ペースがあれば、たとえピットストップで後ろに下がっても、オーバーテイクが可能だと信じていたからだ。それが、デゾトーが考えていた「ベストなレースタイム」戦略だった。
もちろん、第1スティントでロングランをする理由には、セーフティカーウインドウを広げられるというメリットもあり、今回角田はそのセーフティカー導入による恩恵を授かったことは確かだ。しかし、入賞できるレースペースがなければ、セーフティカー明けの再開されたレースで、ルイス・ハミルトン(メルセデス)に抜かれた後、同じメルセデスのジョージ・ラッセルにもかわされていたはず。
ところが、この日の角田はラッセル以下を寄せ付けなかった。つまり、この日の角田とRBは5戦目までポイント争いを繰り広げていたハースやアストンマーティンを見て戦っていたのではなく、メルセデスを意識してレースを戦っていた。
角田はそんなレースをしたことに驚き、そして喜んだ。
「開幕する前は、メルセデスと戦えるなんて考えていなかった。信じられないスピードでクルマが改善されています」
ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)も、マイアミGPでの角田の成長を次のように表現した。
「中国GPの結果を引きずらずにやっていたように思います。またチームもアップデートを投入するなどして、クルマを改善してきたことで、角田選手は自信を持って走っていたように見えました。レースではハミルトンに抜かれた後、冷静な走りでラッセルを寄せ付けなかったあたりはタイヤのマネージメントを含めて、レースの組み立てがうまくなったなと感じました」
さらにメルセデスの1台とアストンマーティン勢を抑えての7位を、折原GMは次のように讃えた。
「今回戦った相手が、これまで手が届かなかったアストンマーティンやメルセデス。その2チームと戦い、彼らと同等のペース、あるいは上回って獲得した7位。セーフティカーに助けられた部分もありますが、ペースを見ても、しっかりとアップデートが機能しており、今シーズンこれまでの入賞よりも一段上のステージに上がって獲得した7位という感じです」
ヨーロッパラウンドが楽しみになってきた。