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「将来は、子どもの権利を守る弁護士になりたい」高校1年で行政書士試験に合格 S高生の挑戦

2024年05月06日 08:10  弁護士ドットコム

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合格率約14%(2023年度)の難関国家資格・行政書士試験を高校1年生にして突破し、法曹を目指して今も学び続ける16歳がいる。


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「法律を学べば、かつての自分のように辛い思いをしている子どもの役に立てると思ったんです」



こう話すのは、茨城県水戸市在住の高校生、悉知信(しっち・あきら)さん。通信制高校であるS高等学校・通称S高に通う高校2年生だ。現在の夢は弁護士として学校や教育行政の場に携わり、いじめ問題を解決すること。さらに政治の世界にも興味がある。



法律の力で世の中を変えたい。そんな悉知さんの挑戦が始まったのはS高に入学して半月あまりが経った頃だった。(ライター・遠野詢)



●いじめに苦しむ子どもを助けたい 「法律が武器になる」と思った日

小学校、中学校でいじめや不登校を経験した悉知さん。いつの頃からか弁護士を志すようになる。



「いじめに悩む子どもを救うために、弁護士や政治家になりたいと考えました。日本は法治国家です。『暴力以外の方法で人を助けるには法律しかない』と思ったんです」



小・中学校時代の経験もあり、高校は通信制のS高を選んだ。その選択が、悉知さんにとっては転機となった。



「通学が週3日だったこともあり、時間に余裕ができたんです。それで、今から法律の勉強をしようと思いました」



S高は「ネットの高校」として知られるユニークな学校だ。普段の授業は完全オンラインで受講でき、通学コースを選んだ場合は通学日数も選べる。さらに、生徒の興味関心に合わせた課外授業の実施も行っており、自由度が高い学習スタイルを実現している。



高校入学時には、すでに「弁護士になりたい」と考えていた悉知さん。自由な時間を活かして法律の勉強をしようと考えたとき、行政書士試験の存在を知った。



「受験資格のない行政書士試験なら、僕のような高校生でも受けられます。これだ、と思いました」



新高校1年生の挑戦が始まった。



●慣れない法律用語と格闘 イメージが湧きにくい民法に大苦戦

「法律系資格の登竜門」ともいわれる行政書士試験では、憲法、行政法、民法、商法・会社法など幅広い法律知識が問われる。



悉知さんが行政書士試験受験を決意したのは4月下旬。11月の試験までわずか半年しかない。「量より質で勝負しよう」と考えた悉知さんは、試験日から逆算して勉強計画を立て、さらに「エビングハウスの忘却曲線」をはじめとした学習テクニックも投入。



移動時間などの隙間時間も有効活用しながら、1日あたり平均3~4時間の学習を継続した。両親は、難関資格に挑む一人息子を積極的に応援してくれたという。



法律用語は難解なものが多く、一般的に初学者泣かせともいわれる。しかし、もともと政治や起業に興味があった悉知さんは、憲法、行政法、商法・会社法は楽しく勉強できた。一方、民法には苦戦した。



「高校生は不動産の売買もする機会もありません。イメージしにくくて苦労しました。債権者代位権とか、そもそも何を言っているのかわからない用語もありました」



悉知さんの家族や知人に法曹関係者を始めとする士業はおらず、法律の勉強について相談できる人は誰もいなかった。



そんな悉知さんの心強い味方になったのがICT技術ーースマホやタブレット端末をはじめとしたデジタル機器や、オンライン動画だった。



「独学は難しいと思ったので、市販の参考書や問題集に加え、理解のためにオンラインの通信講座やYouTubeの解説動画も活用しました。その他、スマホのリマインダーを使って最適な復習のタイミングを図ったり、テキストもデジタルで見るようにしたりと、ICT技術はフル活用したと思います」



ICT技術の活用といえば、気になるのはスマホとの付き合い方だ。問題演習アプリや単語カードといった学習に便利なアプリもたくさんある一方で、SNSやYouTubeをはじめ勉強に邪魔なアプリもたくさん入っているのがスマホである。



悉知さんは、どうやってこれらの誘惑と戦っていたのだろうか。



「スマホのアプリはブラウザアプリも含めて全部消していました(笑)。調べ物も電子辞書で済ませるようにして、とにかくスマホからインターネットにはつながない。つながるとSNSにログインできてしまうので、SNSアプリを消した意味がなくなってしまいます。勉強に関係のない機能には一切触らないようにしていました」



裁判傍聴、学校の部活動と精力的に学外での活動を継続しつつ、戦略的に学習を続けること約半年。11月に受験し、今年1月、悉知さんは行政書士試験に一発合格を果たした。



●高校1年生が初めて法律を学んで考えたこと、変わったこと

「法律を学んだことで、国や行政の仕組みがよくわかるようになりました。学校の活動などで政治家の先生や行政の方と話す機会も多いのですが、法律上の根拠を考えて話せるようになったと思います。また、高価な買い物をしてしまった友だちに契約を取り消せることを教えたり、適切な相談先につないだりといった、人助けに役立つ知識がついたのもよかったです」



行政書士試験の合格発表から約2カ月経った2024年4月、悉知さんは高校2年生になった。来年度には大学受験が控える。法学部への進学を希望し、受験準備も進めている悉知さんだが、同時に「法律の勉強も続けていきたい」と話す。



「法律の勉強はブランクができると、どうしても知識が抜けていってしまうので……。今後も判例を読む作業は続けたいですし、司法試験予備試験の短答式試験も受けてみたいですね。高校生の合格者も出ていますし、自分ももしかしたらできるかも、って」



自惚れかもしれませんけど、と謙遜する悉知さんだが、法曹という夢に向かって進むその姿に迷いはない。16歳の挑戦はまだ始まったばかりだ。