缶ビールの箱(6個入り)に頭から滑り込む、コミカルな猫の動画をご存知でしょうか。2008年にYouTubeで公開され1900万回も再生されている「元祖猫動画」ともいえる存在です。飼い主のmugumoguさんによると、登場していた猫の「まる」さんは17歳で、まだまだ元気だそうです。
いまは猫ミームが世界中でブームですが、15年以上前に投稿を始めたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。そして、いまでも「まる」さんは箱が大好きなのでしょうか。猫をこよなく愛するライターがじっくりお話を伺いました。(取材・文:辻ひかり)
子猫のときから色んな遊びを自分で考案していた。
YouTubeチャンネル「I am Maru.」は、猫YouTubeの草分け的な存在です。チャンネル登録者数が88万人超、総再生回数が5億5600回超で、世界各国にファンがいます。最近はInstagramでも人気です。
箱に入ってご満悦のまるさん。mugumoguさん提供、以下同
ところでmugumoguさんは、「当初はYouTubeを始めたという意識は全くなかった」といいます。どういうことでしょうか。
「ブログに埋め込む用の動画だったからです。最初はブログに写真を載せていたのですが、まるさんの独特な行動や仕草の面白さが伝わりにくかったので、動画も撮り始めました。そのアップロード先がYouTubeだったんです」
元祖猫YouTuberのような存在ですが、「たまたま」だとは驚きです。まるさんはどのような性格なのでしょうか。
「マイペースで、好奇心とチャレンジ精神が旺盛な性格です。子猫のときから色んな遊びを自分で考案してきたので、賢くもあると思います。例えば、子猫のときに自分で洗面所からゴミ受けを持ち去って浴槽のなかに入れ、転がして遊ぶというのを延々とやっていました」
まるさんは物怖じもしません。
「新しい物や部屋の模様替えなど、ちょっとした日常の変化が大好きで、たぶん同じ意味で来客も大好きです。いつもはお昼寝している時間でもお客さんが来ると、一通りその方の持ち物をチェックしたあと、近くで尻尾を振りながらうろちょろしています」
根気強い側面もあります。
「失敗しても諦めずに、できるまで何度も挑戦したりします。まだ1歳くらいのとき、ちょっと距離のある高いところへのジャンプがしたかったまるさんでしたが、1回、2回と失敗し、どうするのかと思って見ていたら諦めずに3回目のジャンプで見事成功させたこともありました」
あの動画「特訓するねこ。」は、こうした性格のたまものだったのですね。
“芸達者”と言われるが、芸としてやっていることは一つもない。
この動画が誕生した直接のきっかけを振り返ってもらいました。
「まるさんは追いかけっこ遊びが大好きです。私に追いかけられ、たまたま置いてあった箱に逃げ込んだのが最初です。そのときはビール箱ではなかったですが、逃げ込んだときにあまりにも見事にズサーっと滑っていくので、まるさん自身も面白かったのか、繰り返しよくやっていました。その後、たまたまあったビール箱などを置いてみたら同じように滑り込んだという感じです」
5月24日に17歳になるそうですが、今でも勢いよく箱に滑り込むのでしょうか。
「さすがに若い頃のようにズサーとはいきませんが、今でも大好きでよく入っています。最近は小さいビール箱を頭に被ったり、大きいビール箱を腹巻みたいに着て歩いたりします」
大好きなビール箱を被ってるまるさん。
動画「いろいろな小さ過ぎる箱とねこ。」(2011年)も、まるさんの代表作で、体よりも遥かに小さい箱に入る姿が愛らしいです。今でも小さな箱を見ると入りたくなるのでしょうか。
「その辺は今も変わりません。体の小さなみりや、はなが入れないのに、なぜか一番大きなまるさんだけが入れるという不思議な現象もよく起きます」
左から、みり、まる、はな。
みりさんとはなさんは後輩猫です。3匹がそれぞれビール箱に入り、まったりしている動画もありますが、「まるさんを見て自然に覚えた」そう。特に「みりは、まるさんとやることが少し似ている」のだとか。
まるさんには「昔より上手になった」こともあります。
「昔から穴があったら顔をつっ込む性質があるのですが、その技術が向上したように思います。それから、ブランコも毎日乗っています。ブランコに乗りながら尻尾で太鼓を叩くこともできます。お風呂場で水を飲んだあとなどには、頻繁に手押し車を押して帰っていきます」
なんと歳を重ねるごとに、特技の幅を広げ、上達もしているようです。最近、特に好きなことも聞きました。
「おもちゃを咥えて白いクッション(動画等では“うどん”と表現しています)をほぼ毎日こねています。相変わらず箱全般は大好きですし、庭に生えている雑草も大好きです」
まるさんがワクワクするものは何だろう、と常に考えています。
まるさんは「普通の猫とやることが全然違い過ぎる」とmugumoguさんは言います。
「まるさんは紙袋を被って歩くなど、チビの頃から淡々と面白いことをやって笑わせにくるような子。そういうのを全部自分で考えてやってしまうのが、まるさんのすごいところです。よく”芸達者”と言われますが、まるさんが芸としてやっていることは一つもありません。その時々で、まるさんが気に入ってよくやっている仕草(穴に顔をつっ込んだり、小さい箱に無理やり入ったり)を見て、豆腐のパッケージを置いたらどうなるだろう、と私が置いてみると、まるさんも『お、今度はこれか?』という感じで顔にはめる、という、そんなやり取りの繰り返しで動画が出来上がっていきます」
「教えて芸をさせる」のではなく、あくまで「まるさんの日常」を撮影したからこそ、こんなにも長く愛されるシリーズになったのかもしれないですね。まるさんと、これからどのような日々を過ごしていきたいですか。
「まるさんは見た目はあまり変わっていませんが、行動はやはり変わってきています。若い頃みたいに走り回ったりはしませんし、以前より落ち着いて、まったりしている時間が増えました。猫も高齢になると、体力的な変化はどうしても出てきます。できなくなったことを目の当たりにするとどうしても寂しさを覚えたりもするのですが、そういう変化を残念に思うのではなく、寄り添って、今できる範囲で一緒に遊んだり楽しい時間を共有できるようにしていきたいです」
まるさんの現在の体重は6キロで、1歳のときから変わらないそうです。健康のために気をつけていることも伺いました。
「まるさんが退屈しないように、まるさんがワクワクするものは何だろう、と常に考えています。若い頃みたいに体を動かして発散するということはできないので、新しい箱や容器をあげたり、お庭をお散歩したりとか、庭にテントを張ってみたりとか、ちょっとした新鮮な刺激になるようなことを日々考えています」