2024年04月28日 09:10 弁護士ドットコム
警察署で娘と対面した際、体にかけられた布が不自然な形になっていてめくることができなかった。娘は知らぬ間にトー横に行き、そして亡くなった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
【関連記事:「トー横には希望もあった」学校や家庭の“ジャイアン”から逃れて… 元キッズが目指す新聞発行】
JR新宿駅から歩いて約10分。東京・歌舞伎町にある新宿東宝ビルの周辺は「トー横」と呼ばれ、全国各地から集まった未成年や若者がたむろする。
彼らは「トー横キッズ」と呼ばれ、市販薬を大量に飲むオーバードーズや薬物の売買、性犯罪などに巻き込まれるトラブルや事件が多発している。
東京都内に住む会社員の浩三さん(41歳、苗字は非公表)は2023年3月、自死した娘・あきこさん(当時16歳)がトー横に通っていたことを死後になって初めて知った。
あきこさんは3人姉妹の長女で、中学1年の夏休みが終わったころから学校に行かなくなった。家で寝ていることが多かったという。不登校になった理由は今も分からない。
浩三さんは夫婦共働きで、特に浩三さんは仕事がとても忙しく、子どもたちとゆっくり遊んだり話したりする機会がほとんどなかった。
そんな中、あきこさんは中学を卒業すると同時に家を出て、学生寮に住みながら高校に通うようになった。
浩三さんはあきこさんとコミュニケーションをうまく取れなくなり、娘がどのように生活しているのかも把握できなくなっていたという。
2023年1月、あきこさんから連絡があり、彼氏を紹介された。彼とも電話で話し、2人には「普通に交際するぶんにはいいよ」と伝えた。
「彼氏を紹介してくれてうれしかった。これから元の関係に戻ればいいな」
浩三さんがそう期待していた矢先だった。
2023年3月27日朝、通勤途中の浩三さんのスマホにあきこさんの祖母から「あきこが大変なことになった。警察に連絡してほしい」と着信があった。
神奈川県警戸部警察署に電話すると、「すぐに来てください」とだけ言われた。
警察署に着くと、「娘さんらしき遺体を発見したので身元を確認してほしい」と言われ、別室に案内された。
娘の顔を見て、血の気がひいた。体にかけられた布は上半身部分は盛り上がっていたが、下半身はぺたんこになっていた。
警察の説明によると、あきこさんは付き合っていた彼氏と一緒にホテルの上から飛び降り、下半身がない状態で発見されたという。
浩三さんは言葉を失い、その場に立ちつくすしかなかった。
「どうしてこんなことになったんだろうか。何が何だかわからない」
16年で人生の幕を閉じた娘の足跡を知りたいと、あきこさんの友だちに会いに行くと、「トー横キッズだった」と教えられた。亡くなった彼氏とはトー横で出会ったという。
飛び降りた衝撃で画面がひび割れたあきこさんのスマホを復元すると、生前に友人らとやり取りしたメッセージやSNSの投稿など詳しい経緯が明らかになってきた。
浩三さんによると、あきこさんは2022年5月中旬にトー横に行くようになり、5月下旬に3歳年上の男性と付き合うようになった。
6月から8月ごろはトー横近くのホテルで生活しており、この頃からトー横界隈の大人たちと知り合い、薬物の売買を指示されるなどするようになったという。
9月ごろからは友だちの家に住むようになり、トー横に入り浸っていた。
スマホやSNSにはトー横で撮影されたあきこさんの写真や動画が多く残されている。
そこには、「地雷系」と呼ばれる独特なファッションに身を包んだ娘の姿があった。
浩三さんは「私が知っているあきことは全然違っていた。違いすぎて信じられない」と振り返る。
トー横をめぐる問題はこれまでニュースなどで見聞きしたことはあった。「子どもには行ってほしくないな」と思っていたが、どこかひとごとのような感じだった。
娘の死後、浩三さんは一度も行ったことがなかったトー横に何度も足を運び、あきこさんに関する情報を得ようとそこに集まる若者に話しかけるようになった。
東京都議会の議員とも意見交換し、トー横に代わる子どもの居場所を作る必要性などを訴えている。
東京都は2024年度、トー横に集まる子どもたちを支援するため、相談窓口の設置や啓発活動の予算として2億円を計上した。
「家に娘の居場所をなくしてしまった親の責任として一種の償いです」
今も自責の念にかられているという浩三さん。娘と同じような最期を迎える子どもを減らすために活動していきたいと考えている。
「トー横のせいにするつもりは全くありません。許せないのはトー横に来る子たちを利用して薬物を売買させたり性欲のはけ口にしたりする悪い大人たちがいること。彼らをシャットアウトしたい。できることは必ずあるはずで、行政などを巻き込んでいくしかないと思っています」