Text by CINRA編集部
詩人・吉増剛造展『ネノネ』が5月14日から6月8日にかけて東京・虎ノ門のSIGNALで開催される。
同展で吉増がインスピレーションを求めたのは舞踏家・土方巽の肉体から放たれる「声」。そこに影響を与えた「声なき声」や「音なき音」、瞽女や娘義太夫、イタコといった歴史に消えてしまいそうな小さな「音の根」=「ネノネ」にふれることで鑑賞者に創造性の芽を育む機会を提供するという。
吉増による書き下ろしの原稿展示や公開制作に加えて、土方に関する資料展示も行なう。
5月17日にはMARYLIAと吉増のライブパフォーマンス、6月1日には小林康夫と吉増のトークショーを実施。Googleフォームから申し込みを受け付けている。
【亀山淳史郎(SIGNAL)のコメント】
多くの表現者が「小さな声」に耳を傾けることを創造性の源泉にしてきました。それは多様な人々の声を受け入れようとする現代社会で”ダイバーシティ”や”インクルージョン”といった考えが語られるずっと前からのことです。
詩人吉増剛造(1939-)は70年余の創作の過程で声なき声、音なき音、に耳を傾けそれを詩として書き記し朗読をすることをし続けてきた稀代の表現者です。
いま詩人が舞踏家土方巽(1928-1986)の声に再び呼び覚まされようとしています。
土方巽もまた、暗黒舞踏という身体表現において、自らの言葉で語ることや、瞽女・娘義太夫・イタコといった日本の文化・芸能に流れる声や音を創作に取り入れることを試みていました。
詩人が舞踏家を通じて想像力の彼方に耳を澄ましている姿そのものが今回の展示の中心です。
期間中にはライブパフォーマンスも予定しています。『ネノネ』という言葉には「音の根」という意味があるそうです。彼らにだけ聞こえている小さな「音の根」を掘り起こしていくその身振り手振りを通じて、わたしたちにも様々な声や音が聞こえてくるのではないでしょうか。
「多様性がイノベーションの源泉だ」と大きな声で語ることよりも大切な感性として「小さな声を深く静かな水脈から汲み上げる力」を育むことがあるのではないでしょうか。吉増剛造先生による展示を開催出来ることを光栄に思います。