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ガンプラを未来に向けて存続させるためにーー「ガンダム」45周年、全国巡回イベントの狙い

2024年04月19日 12:10  リアルサウンド

リアルサウンド

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 90年代半ばに放送された『機動武闘伝Gガンダム』『新機動戦記ガンダムW』『機動新世紀ガンダムX』の三作が、2024~2026年に相次いで30周年を迎える。これを記念して「ガンダム GWX 30周年プロジェクト」が実施されることが決まった。また、1979年放送の初代『機動戦士ガンダム』の45周年を記念して、イベント「GUNDAM NEXT FUTURE ‐ROAD TO 2025‐」も開催される。


参考:『機動武闘伝Gガンダム』はかくも型破りな作品だったーー30周年記念プロジェクトへの期待


 というところまでは発表されたものの、実は「ガンダム GWX 30周年プロジェクト」については何がどうなるのか今の時点ではほとんどわかっていない。『Gガンダム』の30周年企画に関しては、謎の新キャラクターのデザイン、そしてゴッドガンダムをモチーフにした30周年記念ロゴが先行して公開されているが、新たに展開されるのが映像作品なのか、それともコミックやノベライズなど映像以外の形態なのかも判然としていない。


 ただ先に発表されていたのは『Gガンダム』に関する動きだけだったので、『G』に加えて『W』や『X』も30周年記念企画が実施されると発表されたのは素直に嬉しい。1987年生まれの自分にとって、90年代に放送されたガンダムは共に小学生時代を過ごした同級生のようなところがあり、一方で最近のガンダムをめぐるビジネスでは少し忘れられたような雰囲気もあった。そんな同級生たちが放送30周年を祝ってもらえるというのは、「ちゃんと盛り上げる気があったんだ……」という、サプライズ的な嬉しさがある。まあ、「自分が一番好きな『機動戦士Vガンダム』は2023年に30周年を迎えたのに、特に派手な企画はなかったな……」という、ちょっと複雑な気持ちはありますが。


 ひとまず続報を待つ必要のある「ガンダム GWX 30周年プロジェクト」に比べると、ずっと詳細が発表されているのが「GUNDAM NEXT FUTURE」である。こちらは全国47都道府県を巡回しながら開催されるイベントで、45周年記念カラーの1/12ガンダム立像が展示されるほか、ガンプラのランナーをリサイクルして製造した「エコプラ」製の1/144ガンダムのキットと特別冊子を無料配布する「ガンダムR(リサイクル)作戦が展開される。


 会場では東京、上海、福岡の実物大ガンダム立像をモチーフとしたジオラマ作品や、ガンダムシリーズの歴史や設定を解説する展示、そしてイベントオリジナルのランナー回収ボックスも設置されるとのこと。さらに8月からは「ガンプラサークルよ、立ち上がれ!GUNPLA EXHIBITION」もスタート。こちらはグループ応募でのガンプラ展示企画となっている。


 このイベントをバンダイとガンプラの広報として見るのなら、現在のバンダイがアピールしたいポイントは「ガンプラはサステナビリティにこんなに配慮してますよ!」という点、そして「若いユーザーに友達同士の軽いノリでガンプラを作ってもらいたい!」という点ということになるだろう。


 日本に限らず、現在世界中の玩具メーカーが商品を製造する際に使っている素材は、何はなくともまずプラスチックである。特性の異なる樹脂を組み合わせて玩具を製造することはあれど、プラスチック全般を使わない玩具というのは、「プラスチックを使っていない」こと自体が売りになるパターン(いわゆる「木のおもちゃ」とか)くらいのものである。


 しかし気候変動や国際的な環境問題への意識の高まりを受けて、玩具メーカーも呑気にプラスチックを大量使用するわけにはいかなくなってきた。こういった社会的責任に関するプレッシャーは大企業や有名ブランドであればあるほど強く、例えばアメリカの大手玩具メーカーであるハズブロが世界規模で展開している『トランスフォーマー』においては、現在はパッケージや包装材での樹脂の使用をほぼ停止。トランスフォーマーは商品の入っている部分が大きく切り抜かれて中身の見える紙製の箱に固定されており、武器などの付属品もビニール袋などではなく紙にくるまれた状態でパッケージされている。


 世界的な大企業であり、ガンプラというプラスチック製品を大量生産しているバンダイにおいても、現在こういった取り組みは必須のものだろう。バンダイは以前からプラモデルの部品を切り取った後のランナーや生産時に発生する廃プラスチックに対して、そのまま溶かしてプラモデルにするマテリアルリサイクル、化学処理によって再原料化するケミカルリサイクル、廃材焼却時の熱で発電するサーマルリサイクルといった形での再利用を模索しており、ガンプラのリサイクル体験イベントなどで折りに触れアピールしてきた。今回発表された「GUNDAM NEXT FUTURE」でのイベント内容も、この路線に沿ったものと言える。サステナビリティへの配慮は、モデラー以外の来場者も多いであろう全国巡回イベントでぜひとも推したいポイントのはずだ。


 「ガンプラサークルよ、立ち上がれ!GUNPLA EXHIBITION」についてはどうだろうか。公式サイトによれば、こちらは「ガンプラサークル(ガンプラ製作をメインに活動する、所属メンバーが2名以上の団体)を対象としたガンプラ展示会」であり、選出されたサークルは「GUNDAM NEXT FUTURE」のイベント会場で自作のガンプラを展示することができるというものである。普段から活動している模型サークルでの応募でも、このイベントのために即席でサークルを組んでの応募でもOK。ただし、応募者全員が公式ガンプラファンコミュニティ「ビルダーズノート」へアカウント登録することが必須となっている。


 このイベントで注目したいのが、8月から開始すると発表されている点だ。「GUNDAM NEXT FUTURE」自体は6月8日に埼玉のららぽーと新三郷で開催されることが発表されており、イベント開始から約二ヶ月ほど遅れての開始となっている。このタイミングで開催される理由としてパッと思いつくのが、学生の夏休みにイベントを当てたいという思惑だろう。


 実は現在、模型サークルの展示会はかなりの活況を呈している。毎年5月に開催される国内最大のホビー系商材新製品展示会である「静岡ホビーショー」では、イベントに合わせて国内外のモデラーやサークルが作品を展示する「モデラーズクラブ合同展示会」を開催。この展示会に対する全国の模型サークルからの申し込みが増え続けたため、会場となるツインメッセ静岡内での展示会用スペースも急拡大した。しかしそれでも応募が全て捌けず、現在はキャンセル待ちのような状態になっている。


 また、他の展示会でも、作品が置かれている机の間を歩くのもやっと……というほど来場者が多く大規模なケースもある。SNSの普及によってモデラー間の交流が活発になったことも手伝って「コミュニケーションツールとしてのプラモデル」という側面が強くなった結果、模型展示会は実地で作品を見られるオフラインでの交流の場として、重要なものになっているのだ。


 そういった場を夏休みの学生にも体験してもらいたい、できれば友達同士の軽いノリで参加してみてほしい、というのが「GUNPLA EXHIBITION」の狙いではないか。社会人による模型サークルならば8月という開催時期はさほど関係がないはずであり、わざわざ二ヶ月ほど開催時期をずらして展示会を開くのには、「友達同士でガンプラを作り、展示会へ持ち込む」という体験を若年層へ訴求したいという意図が見える。現在ガンプラを含むキャラクターモデルのメインユーザーは、やはりガンプラブーム直撃世代前後である40~50代の層が分厚い。その年代からの参加者も募りつつ、若いユーザーも増やしたいというのがこのイベントの目的だろう。


 サステナビリティへの配慮にせよ、若い世代へのガンプラ製作の訴求にせよ、ガンプラの製造と販売というビジネスを未来に向けて存続させる取り組みに他ならない。単に製品を製造するだけではなく、今後10年、20年という単位でビジネスを存続させるために打てる手を打つバンダイの姿勢は、さすがに大企業のそれである。「NEXT FUTURE」と銘打たれ、全国を回る今回のイベントの本気度は、おそらく伊達ではないはずだ。