トップへ

自室から出てこない「引きこもり夫」、妻を無視して家事や育児を放棄…これって「モラハラ」?

2024年04月16日 09:40  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

結婚しているのに、自室に引きこもって出てこない…。育児や家事を放棄し、仕事に出かける時や、お風呂トイレ以外、自室から出てこない「引きこもり夫」に憤りを感じる妻は少なくないようです。


【関連記事:セックスレスで風俗へ行った40代男性の後悔…妻からは離婚を宣告され「性欲に勝てなかった」と涙】



SNSには、「オットは帰宅後、自分の部屋に鍵をかけて閉じこもり、ゲームばかりしている」「気に入らないことがあると何も言わず自室に閉じこもり出てこない」など、困っている妻の声が寄せられています。



弁護士ドットコムにも、「夫は仕事には行くものの、それ以外は自室にこもっています。私を避けていて、私が帰宅すると、急いで自室に引きこもります。また、『話しかけるな』とも言われています。これはモラハラと言えるのでしょうか?」といった相談が寄せられています。



この女性によると、夫は女性がつくった料理を食べますが、無言で食事後はまた部屋にこもるそうです。夫の洗濯なども女性がおこなっており、「あからさまに避けられることが苦しくて、動悸がします」とうったえます。



家族を避ける引きこもり夫は、「モラハラ」に当たるのでしょうか。DVやモラハラの問題に詳しい秦真太郎弁護士が解説します。



●そもそも「モラハラ」とは?

最近よく耳にするようになった「モラハラ」ですが、実はこれは法律上明確に規定されている概念ではありません。なお、一般的には「言葉、態度、文書などによって継続的に相手の人格や尊厳を傷つける精神的な虐待行為」などと言われます。



では、夫の行為は「モラハラ」に当たるのでしょうか。数日自室に引きこもり続ける程度では、モラハラとは言えないと思いますが、それが「態度によって継続的に相談者の人格や尊厳を傷つける精神的な虐待行為」と言えるような場合には「モラハラ」に該当します。



●モラハラになる引きこもりの特徴は?

「モラハラ」に該当するかの判断にあたって大きなポイントとなるのは以下の通りです。これらの事情を総合して判断することになります。



(1)引きこもりの期間
(2)引きこもりの態様
(3)それに関連する相手の態度
(4)引きこもりのきっかけ
(5)相手の趣味等の特性の有無・内容
(6)相談者自身の態度



以下それぞれについて解説いたします。



(1)引きこもりの期間



厚生労働省が出しているガイドラインなどでは、6か月間家庭内にとどまり続けることが引きこもりであると線引きしていますので、この期間は、モラハラに該当するかどうかを検討するにあたっても参考になります。



  もちろん、「6か月以上ということが不可欠」というわけではありませんが、少なくとも数か月間は引きこもりの状況が続く必要があります。



(2)引きこもりの態様



引きこもりの態様というのは、どのような引きこもりなのかの具体的内容・度合のことを指します。例えば、度合いが重いケースですと、会社にも行かず、昼夜逆転の生活で、相談者が寝入った後に起きて来て食事をとるという状況が1年以上続いているというように相談者も含めて他人と本当に全く関わらないというケースもあるでしょうし、逆に、度合いが軽いケースですと、不機嫌になった時だけ1週間ほど口をきかずに自室にこもっている(ただし、食事は一緒に食べる)というケースもあると思います。



(3)それに関連する相手の態度



それに関連する相手の態度というのは、例えば、食事の時や相談者と偶然顔を合わせた際に舌打ちをするとか、あえて大げさに避けるような仕草をするなど、嫌がらせのような要素がどの程度あるのかという点です。



(4)引きこもりのきっかけ



引きこもりのきっかけも重要な検討要素になります。例えば、相談者が夫側に強く言ってしまった結果、引きこもってしまったという場合には、「モラハラ」に該当しにくくなる要素の一つになってしまうと思いますし、逆に、夫側の理不尽な理由で引きこもりが開始した場合には、モラハラに該当しやすい要素の一つになると思います。



(5)相手の趣味等の特性の有無・内容



夫の引きこもりには、前述のようにきっかけがあるケースもあれば、特段のきっかけもなく、夫の趣味の延長というようなケースもあります。



私が実際に取り扱った事件でも、夫が漫画やパソコンが大好きで自室で延々と漫画を読みふけったり、パソコン画面にかじりついてほとんどリビングに出てこないというケースがありました。



(6)相談者自身の態度



こちらから引きこもりの主張をすると、夫側から「そちらも自室からほとんど出てこなかったじゃないか」と反論されてしまうケースもあります。



相談者が、リビングやキッチンなどで家事をしており、自室にいる時間は少ないということであれば問題はないのですが、「お互いに自室にいることが多い」というように評価されてしまいますと、夫の引きこもりのみを取り上げて、「モラハラ」と指摘することは難しくなります。



●「モラハラ」としての引きこもりにあたるかは総合判断になる

引きこもりが「モラハラ」に該当するかは、上記の検討要素を総合しての判断になります。なお、上記の検討要素の中でも、引きこもり期間と態様が大きなポイントになります。



なお、夫の行為が「モラハラ」にあたるということで攻める場合、上記の引きこもりについての6個のポイントも重要ですが、他のモラハラ行為との合わせ技が使えないかという視点で攻めていくことが多いです。例えば、引きこもって、生活費をほとんど渡さないという場合には、生活費を渡さないという点にもスポットライトを当てて攻めていくことがあります。




【取材協力弁護士】
秦 真太郎(はた・しんたろう)弁護士
東京弁護士会所属。共著に「離婚事件処理マニュアル」(新日本法規)、「離婚事件の手続きと書式」(新日本法規)など。モラハラ・DVを中心に離婚問題に注力している。モラハラ・DV特設ページURL(http://www.hata-lawyer.jp/morahara_dv-sufferer/)
事務所名:雨宮眞也法律事務所