2024年04月15日 10:00 弁護士ドットコム
2021年にアメリカ・ミシガン州の高校で少年(当時15)が銃を乱射させて計11人を死傷させた事件をめぐり、同州裁判所が少年の両親に過失致死罪で10~15年の禁錮刑を言い渡したと報じられている。
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報道によると、両親は銃の管理が不十分だったことや、精神状態が不安定な息子に対して適切な措置を取らなかったことなどで、2024年2~3月に過失致死罪で有罪の評決を受けていたという。
犯行に使用された銃は、事件のあった2021年11月30日の4日前に父親がクリスマスプレゼントとして、少年に買い与えた物で、母親が購入の翌日、少年を射撃場に連れて行き、「試し撃ち」をさせていたなどの事情もあったようだ。
少年はすでに第1級殺人やテロ行為などの罪で仮釈放なしの終身刑を言い渡されている。子どもが起こした銃撃事件で親が実刑判決を受けるのは、アメリカ史上初めてとも報じられている。
多数の被害者を出した大事件とはいえ、親まで刑事責任を問われることには意外な感もあるが、日本でも同じように子が起こした殺人事件などで親の責任が問われることはありうるのだろうか。刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
──日本で同様の事件が発生した場合、親が刑事責任を問われることはあるのでしょうか。
日本において、子が殺傷事件を起こした場合に親がただちに刑事責任を問われることは原則としてありません。刑事責任には個人責任の原則がありますから、親といえども自動的に責任を問われることはないからです。
ただし、例外的なケースであれば、親が刑事責任を問われる可能性はあると思います。
たとえば、子供が殺人を犯そうとしていることを知りながら、親が子に銃を買い与えたり、試し撃ちさせたりした場合(日本ではなかなか起こりえないシチュエーションですが)、子の殺人罪を手伝ったものとして親には殺人罪の幇助犯が成立し得ます。
幇助犯は、正犯者による犯罪の実行を物理的、心理的に促進すれば成立しますので、凶器を買い与える行為の他にも、犯行現場までの交通手段(自動車)を用意したり、激励して犯意を強化する行為でも幇助犯となる可能性があります。
──日本で過去に同様の事例はないのでしょうか。
私の知る限りでは日本でこのような事例はないと思います。
刑事裁判例でも「監督過失」という考え方はありますが、これは火災事故について企業の役職者などの過失責任を問う理論であり、もともとの犯罪が過失犯であることが前提となっています。
子どもによる殺人罪はあくまで故意犯ですから、故意犯を阻止できなかったからといって、親に監督過失を認めることはできません。
──親の「民事責任」についてはどうなりますか。
未成年者が他人の損害を与えた場合、責任能力がなければ(おおよそ12歳までと言われています)、未成年者本人は責任を負いませんが、親権者などの監督義務者が代わりに責任を負います(民法712条、714条)。
子どもが13歳以上の場合には子ども自身に責任能力があるとされるケースが多く、子ども自身が責任を負います。
ただし、親の監督義務違反と子どもの殺傷行為による被害者の死亡との間に相当因果関係が認められる場合(たとえば日頃から子供の粗暴行為を知りながら放置していた場合など)には、親自身にも一般不法行為による損害賠償責任が生じます(最高裁昭和49年3月22日判決)。
──今回のような事件が日本でも起こり得るとしたら、どんなケースが考えられますか。
親が子どもにキャンプ用ナイフを買い与えた後、子どもに殺人を犯す意思が生じ、親がこれを認識するに至ったが、ナイフを取り上げることもなくそのまま放置したため、子どもがそのナイフを用いて殺人を犯したという事例が考えられます。
──子の行為を放置しただけでも刑事責任が問われるのでしょうか。
親は子に対する監護教育の義務(民法820条)があることから、子どもの殺人行為を制止する刑法上の作為義務が認められます。また、親はもともと凶器を買い与えるなどの先行行為を行っていますので、ここからも作為義務を認めることができます。
親には子どもからナイフを取り上げる作為義務が生じたにも関わらず、その義務に違反して放置した結果、子どもが殺人を犯したと言える場合、親には不作為による殺人罪の幇助犯が成立します(あくまで理屈上の話です)。
──アメリカの事件のように、親に過失致死罪を認めることはできないでしょうか。
結論から言うと、このような場合に日本では親に過失致死罪を認めることは困難と言わざるを得ません。
過失致死罪が認められるためには親が子どもに対する監督を怠ったという過失行為によって被害者の死亡が発生したという因果関係が必要です。
しかしながら、上記ナイフの事例では、親の過失行為と被害者の死亡という結果との間には子どもによる意図的な殺人行為が介在しているため、親の過失と被害者の死亡との間に直接の因果関係を認めることは困難です。
これに対し、動物が死傷させた場合、たとえば、飼主が獰猛な犬の管理を怠った過失により通行人を死傷させたケースでは、飼主が管理を怠ったという過失行為と被害者の死亡との間に直接の因果関係を認めやすいので、過失致死罪が成立することはあり得ます(東京高裁平成12年6月13日判決など)
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/