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匂いを嗅ぐ、息を吹きかける 「触らない痴漢」は犯罪か? ネット上で賛否

2024年04月14日 09:20  弁護士ドットコム

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「触らない痴漢」というワードがネット上で広がっている。


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電車内で匂いを嗅いだり息を吹きつけたりするなど、相手の身体には触れないものの不愉快な気持ちにさせる行為を指すようだが、X(旧ツイッター)では同様の被害経験を語る投稿や逆に疑問視する意見が飛び交っている。



「触らない痴漢って昔からいた」「電車通勤の時に毎日背後に立つおじさんがいた」「警察が見分けられる指標がないと冤罪が生まれる」



弁護士ドットコムにも「電車に乗っている時に隣の女性に無意識に顔を寄せてしまいました。体には触れていませんが、痴漢になりますか?」といった相談が寄せられている。



このような「触らない痴漢」は法的に問題ないのか。被害にあったと感じたらどうすべきか。刑事事件にくわしい清水俊弁護士に聞いた。



●個別の行為ごとに判断

ーー「触らない痴漢」は犯罪になりますか?



まず前提として、物理的に触る痴漢は、不同意わいせつ罪(刑法176条、6カ月以上10年以下の拘禁刑)あるいは各都道府県で施行されている迷惑行為防止条例違反に該当します。



一方、ご質問にあるような「触らない痴漢」が何らかの犯罪に該当するか否かについては行為ごとに検討する必要があります。



ーー「首筋に息を吹きかける」という行為はどうですか?



「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で卑わいな言動をすること」と評価されれば、迷惑行為防止条例違反に問われます。



また、息を吹きかける行為それ自体を「有形力の行使」とみれば、暴行罪が成立する余地もあります(刑法208条、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)。



ーー「髪の匂いを嗅ぐ」のは?



「髪の匂いを嗅ぐ」「胸元を覗く」「AirDropで近くの人に性的画像を送る」といった行為も「卑猥な言動」として上記条例違反に該当し得ます。



特に「AirDrop痴漢」については、わいせつ電磁的記録頒布罪が成立する可能性もあります(刑法175条、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、または懲役および罰金を併科する)。



ーー「乗客が少ないのに隣の席に座る」というのはどうでしょうか?



行動としてはかなり違和感があるものの、ただちに犯罪かと言われるとなかなか判断が難しいです。



移動しても付いてくるなど具体的な態様にもよりますが、上述の「卑猥な言動」として条例違反か、あるいは「不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者」として軽犯罪法違反が考えられます(同法第1条28号)。



ーー「凝視」は?



「凝視する」という行為も直ちに犯罪として問うのは難しいように思いますが、凝視されている部位が胸や下半身など一般に羞恥・不安を覚える個所であったり、凝視の方法や時間など行為態様を総合的に見て上記「卑猥な言動」として条例違反になり得ると考えます。



●被害にあったら安全を確保したうえで警察などに申告

ーー身体には触れられていないが不愉快と感じたらどう対処すべきですか?



刑事・民事の責任追及まで考えると、加害者の特定、犯罪行為を立証するための証拠の確保を念頭に置いた行動が必要なのでしょうが、一般的には、女性が男性から被害に遭うことが多く、一人で立ち向かうことは危険だと思います。



そのため、まずはその場から逃げるか、周りの人に助けを求めるのが良いと思います。その後、安全を確保したうえで駅員や警察官に被害申告しましょう。




【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/