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「他人の才能に依存したくない」。『TOKYO VICE』で飛躍した笠松将が役柄問わず引き受けて見えてきた景色

2024年03月28日 17:10  CINRA.NET

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Text by 麦倉正樹
Text by 服部桃子
Text by タケシタトモヒロ
Text by 松田陵(Y’s C)
Text by 柴原啓介

アンセル・エルゴート、渡辺謙、レイチェル・ケラー、菊地凛子ら、日米のスターキャストを擁した、WOWOWとMax(旧HBO Max)の日米共同制作によるドラマシリーズ『TOKYO VICE』。2020年の春に放送・配信され、国内外で高い評価を集めた本作における好演で一躍その名を国際的に知られるようになったのは、やはり笠松将だろう。俳優として本格的に活動し始めてから10年あまり。本作の出演をきっかけに2022年には海外のエージェントとも契約を結ぶなど、ここへきて急速に開けてきた「未来」を前にして、彼はいま、どんなことを感じているのだろうか? 選ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり。『TOKYO VICE』待望のSeason2の放送・配信を目前に控えたいま、笠松将に話を聞いた。

『TOKYO VICE』は、HBO MaxとWOWOWの共同制作作品。1990年代の東京を舞台に、日本の大手新聞社に就職したアメリカ人青年ジェイク(アンセル・エルゴート)が、特ダネを掴むためヤクザが支配する闇社会に入り込んでいく様子を描く。笠松将は、ジェイクと意気投合する若きヤクザのリーダー「佐藤」を演じる Photo: James Lisle/WOWOW

―2020年の春に『TOKYO VICE』のSeason1がアメリカ、そして日本で放送・配信されました。その後は、作品そのものに対する反響はもちろん笠松さん自身についても、国内外から大きな注目が集まったのではないですか?

笠松:そうですね。『TOKYO VICE』という作品に参加できたことは、自分にとっても、すごく大きなものでした。特に、この作品が僕に海外を視野に入れる機会を与えてくれたことは、すごく大きくて。というのも、それまでは、まったくそんなつもりはなかったんですよね。

笠松将(かさまつ しょう)
1992年生まれ、愛知県出身。2013年から本格的に俳優として活動する。2020年『花と雨』で長編映画初主演をはたし、近作ではドラマ『君と世界が終わる日に(Hulu)』、配信作品『全裸監督2(Netflix)』、主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE(WOWOW、HBO Max)』、『ガンニバル(Disney+)』などに出演。2022年、CAAとの契約を発表し、国内外で活躍する。2023年、個人事務所設立。国外へ活動の幅を広げ、原作がイギリスのブッカー賞を受賞した『The Narrow Road to the Deep North』(Amazon Prime Video Australia)にも出演が決定している

―そうだったんですか?

笠松:本当に、まったく興味がなかったというか、ある意味「同じ」と思っていたかもしれない。「いまの時代、良い作品をつくれば国内とか国外とか関係なく届くだろう」と思っていたところがあって。だからいろんなものに対して、以前よりもこだわるようになったというのはあるかもしれないです。

―どんなことに対して、こだわるようになったのでしょう?

笠松:自分の芝居についてはもちろんですけど、今日この取材でどんなことを話そうとか、そういうことまで。ここで僕がお話したことが、どんな人たちに、どのようなかたちで受け止められるかわからないし、それがひょっとすると10年後の自分につながってくるかもしれないじゃないですか。すべてに対して、そう思いながら臨むようになりました。

―ということは、Season2の制作が正式に決定して再び撮影に臨む頃には、笠松さん自身の心境もだいぶ変化したということですか?

笠松:正直、Season1に対する向き合い方とSeason2に対する向き合い方は、僕のなかではぜんぜん違っていました。Season1は、「お客さんとして」ではないですけど、海外のことなどほとんど何も知らないまま、素晴らしいクルーと俳優たちのなかにいきなり飛び込んでいったので。

言葉の問題もありましたし、もうわけもわからず、とにかく必死にやっていたようなところがあったんです。ただ、今回のSeason2に関しては、僭越ながら自分がある程度、まわりを引っ張っていくような存在にならないといけないんじゃないかと思って。そういう責任感と、それに伴う緊張感みたいなものを常に感じていました。

―実際『TOKYO VICE』の物語的にも、笠松さん演じるヤクザの若きリーダー「佐藤」はかなり重要な役で、彼の行動によって全員の運命が変わっていくようなところがありますよね。

笠松:そうですね。Season2では、さらにそういう役どころになっていると思います(笑)。僕自身、今回この「佐藤」を演じているときは、ずっと「全能感」みたいなものがあったんですよね。この役は自分にしかできないというか、「これ以上のものはないでしょう」っていう。もちろん、ほかの出演者の方々に比べると役者としての知名度はまだまだ低いですし、それ以外にも足りないものはたくさんあるけど、「芝居」という部分に関してだけを見ると、「これは、誰も超えられないでしょ?」って。

佐藤(笠松将)とサマンサ(レイチェル・ケラー)Photo: James Lisle/WOWOW

―Season1の頃と比べると、かなり心境の変化があったわけですね。

笠松:そう思いながら、ひと足早くSeason2を全話見させてもらったんです。……そしたら、Season1以上に、大人の俳優たちが本気で遊んでいる感じがして。先輩たちのお芝居を冷静に見ながら、「ちょっとヤバいぞ、これ……」と。

本当に、みんなすごいんですよ。いつの間にか、自分が出ているシーンはスキップしつつ、ほかの方々のお芝居を夢中で見ていました(笑)。

―笠松さんが演じる「佐藤」との直接的な絡みとしては、彼の上司であり組長である菅田俊さんの存在が、今シーズンも印象に残りました。

笠松:いやあ、菅田さんのこと、僕、大好きです(笑)。マジですごいんですよ。普通の役者の芝居って、本来の自分の上に、外向けの自分をさらに乗っけるというか、実際の自分を120%、150%、200%にしてからカメラの前に立つじゃないですか。でも、菅田さんはもちろん、『TOKYO VICE』に出ている俳優たちは、カメラが回ってないときの姿も、ものすごく美しかったりする。だからこそカメラの前に立つ人たちなんだなって、当たり前のことを思ったりして……。

―さらにSeason2では、「佐藤」の兄貴分として、窪塚洋介さんが「葉山」という役で登場します。

笠松:そう、窪塚さん(笑)。窪塚さんは、もちろん大好きな俳優というか、昔からずっと好きで作品も見てきているから、どんな感じの人なんだろうと思っていて。クランクイン後、ご挨拶させていただくタイミングがあって僕のほうからと思っていたら、窪塚さんから挨拶にきてくれたんですよ。その瞬間に、僕のなかで、いろいろな価値観が崩壊したというか……。

葉山(窪塚洋介) Photo: James Lisle/WOWOW

―どういうことでしょう(笑)。

笠松:何て言えばいいんだろうな……たとえば、20代の頃とかって、尖っていれば尖っているだけカッコ良いみたいな価値観があるじゃないですか。実際、僕もそう思っていたようなところがあって。それで、言葉遣いだったり所作だったり、それこそ服装だったり身に着けるもので、尖った自分を演出していたようなところがあったんですよね。なぜなら、それが自分の「攻撃力」だと思っていたから。

だけど、本当に尖っている人ってそうではないというか。窪塚さんって、じつはすごく物腰が柔らかくて、丁寧な方なんです。だけど、カメラの前に立つとキレキレで、ものすごい存在感がある。つまり、何て言うのかな……僕が「攻撃力」だと思っていたものは、じつは自分を守るための「防御力」に過ぎなかったというか。そういうことを窪塚さんから、あらためて教わりました。

―笠松さん演じる「佐藤」という役は、年齢的にも状況的にも、笠松さん自身にとって共鳴する部分も多かったのではないでしょうか。ある種の「ハマり役」というか。

笠松:そうですね。たしかに、自分の現状とマッチしている役と言えるかもしれません。でもそれより、この「佐藤」という役に関しては、まわりのみんなが僕に期待してくれていたことが大きいと思うんです。

それは、現場の空気もそうですし、そのあと実際にSeason1を見てくれた方々が僕に期待してくれているのもわかったので。重圧にもなったけど、それが翼となり、僕をさらに高く飛ばせてくれたように思います。

―ちなみに、『TOKYO VICE』と同じ2020年の末から配信がスタートしたドラマシリーズ『ガンニバル』で、笠松さんが演じて好評を博した「後藤恵介」という役も、「佐藤」と同じく主人公に対抗する組織の若頭的なポジションでした。

笠松:たしかに、共通するところは、何かあったのかもしれないです。ただ、それは年齢ではなく、「現状に疑問を持ちながら、それでも前に進む勇気と、その筋力がある」という部分だと思います。

『TOKYO VICE』の「佐藤」は、旧態依然とした組織のなかで、自ら未来を切り開いて新しい価値観を打ち立てようとしている人間です。だからこそ、僕もそのキャラクターに憧れたし、みんなも期待してくれたのではないでしょうか。

―『TOKYO VICE』を筆頭に、国外作品への出演も増えていると思います。国内外の現場を経験してみて思うことはありますか?

笠松:ひとつはっきり思ったのは、スタッフや俳優たちを含めて、現場にいる日本の人たちの能力の高さは、やっぱりすごいってことです。そこは海外と余裕で肩を並べることができると思います。

―なるほど、面白いですね。「やっぱり海外は違う」ではなく「日本もすごい」と。具体的に、どこでそれを感じたのでしょう?

笠松:まずはやっぱり、「時間」「予算」「能力」、この3つの重要性とそれぞれにおいて何をすべきか、しっかりわかってやっていることですよね。それって、すごいことだから。ただ、それができてしまっていることが、少し問題なのかなっていうのも思っていて。

たとえば、「50万円で家を建ててほしい」と言われたとするじゃないですか。海外の場合は、「いや、それは無理だよ。家っていうのは、これくらいのお金をかけないと建てられないよ」と言って、まずそのお金を集めようとするんです。

だけど、日本のスタッフは優秀だから、言われたとおり50万円で立派な家を建ててしまう。それが自分たちの首を締めているようなところもあるように思うんです。実行できてしまう能力自体は、ホントすごいことなんですけど、そこ(制作費)はやっぱり、どうにかしていきたいですよね。

僕がお金を集められるような人間になったら、もっと面白いことを日本で仕掛けられるはず。それはもう、確信しています。そのためには、僕自身がもっと多くの人たちに興味を持ってもらえるような人間にならなきゃいけない。これからは、そういう戦いが始まるんだなって思っています。

―笠松さん自身は、『TOKYO VICE』への出演をきっかけに、海外のエージェントとも契約をしましたが、そういうポジションに立って、改めていかがですか?

笠松:正直な話、そこで一気に道が開けるのかなって思っていたところがあったんですけど、現実は、なかなかそう簡単なものではなくて。「あれ? 思っていたのと、ちょっと違うぞ」っていう(笑)。まず仕事の進め方が、日本とはぜんぜん違うんですよね。それこそ僕、(取材の)2日前までオーストラリアにいましたから(笑)。

それが何かいま、すごく面白いんですよね。この先、ひょっとしたら食べていけなくなるのかもしれないし、あるいはドバイあたりで豪遊しているかもしれないし(笑)。その、「この先どうなるかわからない」感じが、俳優を目指して東京に引っ越してきた頃と似ているなって思っていて。

―これからどうなるかは、すべて自分次第というか。

笠松:そうですね。でも、そうなったからこそ、前に所属していた事務所の良さがわかったようなところもあって。やっぱり先々の仕事を取ってくるのって、ホントすごいことだから。

―先ほどの「日本のスタッフは優秀」の話ではないですけど、外に出てみないとわからないことってありますよね。

笠松:そうなんですよ。だから、いますごくいい感じと言えば、いい感じっす(笑)。

―(笑)。ただ、そこでちょっと面白いと思ったのは、そこで海外に拠点を移して日本の仕事を控えるのではなく、国内の仕事も引き続きやっていますよね。それこそ、深夜ドラマに脇役として出演したりとか。

笠松:あ、それはやりますよ。というか、僕、俳優業に関しては何でもやります(笑)。だって、面白いかどうかなんて、実際やってみないとわからないじゃないですか。僕が怖いと思っているのは、あれこれ仕事を選んで、結局何もやらなくなってしまうことなんですよね。それはつまり、他人の才能に依存した人間になってしまうってことだと考えていて。面白い脚本と、良いスタッフや共演者がいないと何もできないっていう。

そうではなくて、僕が最終的に目指しているのは、僕がいるところに人が集まってくることなんですよね。だから、作品の規模とかは正直なところ、あまり関係ないんです。それこそ、テレビのバラエティ番組とかも、呼んでいただけたらぜんぜん出ますし。

―その柔軟なスタンスが、ちょっとユニークだなって思いました。

笠松:そうですか(笑)。ただ、それは、「引け目」みたいなものがなくなったこともあるのかもしれないです。昔は、まわりから「お前、まだそんな仕事やってんの?」って言われたり思われたりするのが、すごく怖かったんですよね。同世代の俳優がどんどん売れていくなかで、どこか引け目を感じていたのかもしれません。

―なるほど。

笠松:でもいまは、そういうのがまったくないんですよね。「まだそんな仕事やってるの?」って言われても、「あれもやったうえで、これもやるんだよ」と言えるし、逆に他人のことを尊敬できるようになりました。だから、一つひとつの仕事がいまは単純に楽しいし、声をかけていただいて、素直に嬉しいと思えるんです。